97・ほかの勇者はどうしているのかって話7
「いやぁ、体が魔剣だと何かと便利よねぇ。なんかもうSランクのダンジョンとか楽勝だわー。SSランクとかSSSランクとかSSSSランクとかのダンジョンってないのマレッサちゃん?」
『いや、お前、ダンジョンを何だと思ってるもん? そんな文字を重ねたらその分凄いみたいな頭の悪い考えやめておくもん。文字数が無駄もんから』
「えー、そう言う物じゃないの? 異世界って?」
『お前、異世界馬鹿にし過ぎもんよ、喧嘩売ってるもん?』
「やーん、怒っちゃいやよマレッサちゃん」
ケラケラと笑う女性が不気味なオーラを放つ大剣を片手で振り回す。
緋色たちと共にこの世界に召喚された勇者の一人であり、左目に眼帯を付け、色あせたジャージを着た女性、ゴッデス大蝦蟇斎は愉快げに笑いながら地下へと進む階段を下りていく。
ここはSランクの超危険ダンジョン『ラビリンス』。
ゴッデス大蝦蟇斎は単独で『ラビリンス』に潜り、最下層間近まで進んでいた。
単独での『ラビリンス』最下層到達など前人未踏の快挙であり、ゴッデス大蝦蟇斎の実力は通常の冒険者のそれを遥かに上回っている。
襲いかかってくるAランク越えの魔物はもはや彼女に傷すらつけられずに切り伏せられてしまう。
そして『ラビリンス』最下層のボスの間に難なく到着したゴッデス大蝦蟇斎は躊躇なく、ボスの間の扉を開け放った。
「こんにちわー、ちょっとぶっ倒しに来ましたー」
『お前、ちょっと魔剣化して性格変わったもんか?』
「力に飲み込まれて調子に乗ってる自分を演出してるんだけど、どう?」
『人間って訳わかんないもん……』
マレッサとゴッデス大蝦蟇斎がそんなやり取りをしている間に、『ラビリンス』の最下層のボスがその巨体を現した。
現れて魔物にマレッサが驚く。
『ビックリもんね。こいつ、ギガスもんか。『ラビリンス』のボスとして縛られてるとは憐れもんねぇ』
「ギガスって巨人の事でしょ? こっちにもいるのね」
十数メートルはありそうな巨大な魔物ギガスが、ゴッデス大蝦蟇斎めがけて、巨大なこん棒を振り下ろした。
地面を粉砕する程の致命的な攻撃をゴッデス大蝦蟇斎はひらりとかわす。
こん棒が地面に激突し、衝撃と共に地面に大穴があく。
ギガスがこん棒を持ち上げようと、地面にめり込んだこん棒を引き抜く。
『そっちの世界のギガスがどうだったか知らないもんけど、こっちのギガスは神に弓を引いた反逆者もん。まぁ、負けたせいで地の底に封じられたーって聞いてたもんけど、こんな所に生き残りがいたとは驚きもんよ』
「ふぅん、つまり絶滅危惧種って訳ね。本当なら気を使った方がいいんでしょうけど、敵だから仕方ないよねって事で」
ゴッデス大蝦蟇斎は大して気に留めず、自身の体から多数の魔剣を射出してギガスを攻撃し始めた。
魔剣の射出速度はもはやマシンガンにも劣らぬ程で、凄まじい射出音がボスの間に響き渡る。
『うわぁ、出たもん、えげつない魔剣の連射……』
「某ゲームのめっちゃカッコイイキャラの戦い方を参考にしました!!」
射出される魔剣の直撃を受け、ギガスの体がどんどん吹き飛んでいく。
魔剣を防ごうとしたこん棒などとうに粉砕し消し飛んでいた。
「グォオオオオオオオオ!!」
腕が消し飛び、体が消し飛び、頭が消し飛び、そうしてほんの数分でギガスは跡形もなく消え去っていた。
魔剣の射出によってボロボロになっているボスの間を見渡し、マレッサは大きなため息をついた。
『はぁああああ、神々の敵対者として知られる巨人族も自身を魔剣に改造するようなイカれた奴が相手だと、こうなるもんか。憐れに思ってしまうもん。にしても、やり過ぎもんよ、ボスの間の奥にある宝も吹き飛んでるかもしれないもんよ?』
「え!? それヤバくない? やり過ぎた!? あーーー!!」
慌ててゴッデス大蝦蟇斎は穴が開きまくっているボスの間の奥に続く扉へと急いだ。
蝶番が外れ、今にも崩れそうな扉をくぐり、宝物が置かれている奥の間に向かう。
所々廊下に穴は開いているが、奥の宝物庫はどうやら無事なようだった。
「いやーSランクのダンジョンの攻略報酬ってなんなんですかねー。オレ、わくわくすっぞ!」
『いや、情緒不安定過ぎるもんお前、ちょっとは落ち着けもん』
そして二人は宝物庫の扉を開ける。
Sランクのダンジョン『ラビリンス』、未だ誰も到達した事のなかったその最下層の宝物庫。
神殺しの魔剣か魔王殺しの聖剣かそれとも竜殺しの神槍か、道中倒してきた中ボスたちですら、かなりの武具やアイテムをドロップしたのが、宝物庫であるならばそれ以上の物が期待できる。
ゴッデス大蝦蟇斎どころかマレッサですら、少し楽しみにしている節がある。
宝物庫の中はシンと静まり返っており、山の様に積もる金銀財宝は見る限り発見できなかった。
「えぇ、宝物庫って言うからザックザックお宝を期待してたのに。拍子抜けですわー。まぁ、とんでもなく貴重なお宝が一個あるって感じなら、まだ許せますけれどー」
『あそこになんかあるもんよ』
マレッサが言う方向を見ると、そこには看板が一つだけであった。
その看板を見て、ゴッデス大蝦蟇斎は大層嫌そうな顔をした。
「いや、待って、なんかすんごい嫌な予感するんですけど」
一応、看板に近づき何が書かれているのかを確認する。
『えーっと何々……、よくぞここまでたどり着いた偉大なる者たちよ。ここに至るまでに築いた仲間たちとの絆こそが真の宝である。その絆を以てすればいかなる艱難辛苦をも乗り越えられるであろう。得難き宝であるかけがえのない仲間たちと共に、人生という大海原を航海していくがよい。ちなみにこのダンジョン内で獲得した宝は全てダンジョン内でのみ使用できる物である。まぁどうせ、今までの強敵から獲得した武器防具や貴重なアイテム類は全て最後の強敵であるギガスを倒す際に使い切ったと思うし。このダンジョンから持ち帰れる物は仲間との絆とラビリンスを踏破したという栄光と称号のみである、って書いてるもん』
看板に書かれている事を読んだマレッサはそう言うタイプのダンジョンだったもんかぁ、と一人呟いた。
ゴッデス大蝦蟇斎はマジックバッグの機能を持つ魔剣の中身を確かめ、その中身が空っぽになっている事を確認し、天を仰いだ。
「……」
真顔でたたずむゴッデス大蝦蟇斎は静かに両手を天井に向け、今まで以上の魔力を両手に集め始めた。
『い、いきなり何してるもん、ゴッデス大蝦蟇斎!? そんな魔力を込めて魔剣なんて作ったら、このダンジョンがとんでもない事になるもんよ!!』
「それでいいんじゃああああああ!! なんだ、このクソダンジョンはぁあああああ!! あったまきた、絶対ぶっ壊してやるぅうううう!!」
『やめるもん、バカッ! あ、あぁあああああああああ!?』
空間が歪む程の魔力が大地を鳴動させ、ゴッデス大蝦蟇斎は異常で異質な魔剣を生み出していく。
ズルリと魔剣の刀身がゴッデス大蝦蟇斎の両手から顕現し、そして、射出された。
魔剣は『ラビリンス』の最下層から地上へと一直線に貫き、勢いそのままに遥か上空の雲すらぶち抜いて、とんでもない大爆発を起こして周囲に衝撃波をまき散らして消えた。
ぶち抜かれた衝撃でゴゴゴゴと轟音をたて、崩壊していく『ラビリンス』。
幸いに、と言っていいのかSランクのダンジョンに挑もうという物好きはほとんどおらず、この日『ラビリンス』内にいたのはゴッデス大蝦蟇斎とマレッサだけであった。
この日、世界でも有数の危険なダンジョン『ラビリンス』が崩壊、消滅したのだった。