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96・準備は整ったって話

「『奇跡』か。マレッサが言うんだから、天を運に任せるしかないんだろうな。なら、せめて出来る事はやっておかないとな。人事を尽くして天命を待つってやつだな。で、マレッサ、神力ってどうやって集めたらいいんだ? セルバブラッソの人たちの信仰はセルバ本人に向かってるし、今から作るセルバの疑似神核を神力で満たさないといけないんだろ?」


『それはたぶん何とかなるもん。ヒイロとセルバの神和であるプナナがいるもんからね。二人が居れば、ギリギリいけるはずもん、たぶん、おそらく、きっと』


「不安しかない副詞を羅列しないでくれマレッサ……」


プナナの工房の中からギュインギュインとかニュルルルーみたいな変な音が響いてきた。

きっと凄い作業をしているのだろう。

変な音で目が覚めたのか、お茶会の後、俺のマジックバッグの中で寝ていたナルカが顔を、というかスライムの体の一部をマジックバッグから出した。


「なんかうるさい。何となくは聞いてたけど、あちしがマレッサちゃんと姉母様の吸収した神力返せば足りる?」


『あぁ、それは無理よ。あの時吸収された分はもうアナタに馴染んでるから、セルバの神力としては使えないわ。それにアナタは精霊であって神じゃないから、神力を吸収する事は出来ても、神力を出力する事は出来ないのよ。規格が違うっていうのかしらね』


「じゃあ、あちしは用無しって事? わかった、寝てるから、何か用があったら起こしてね」


そう言ってナルカは俺のマジックバッグの中に戻っていった。


『一応、私様は神力を提供するわ。まぁ、本体とのパスは繋がってないから、そんなに量はだせないけれどね』


『わっちは神としての考えがあるもんから、神力は提供しないもん。こればっかりは越えられない線があるもん。理解する必要はないもんし、理解されたいとも思ってないもん』


「分かった。それでも色々手伝うって言ってくれたんだ、十分だよマレッサ。ありがとう」


マレッサに無理強いは出来ない。

神は奇跡を起こしたらその命を終えるってのが神の考え、というか常識らしいからな。

とは言え、パルカはいくらか神力を提供してくれる、足りない分の神力を集めるには俺とプナナが頑張ればなんとか出来るらしいので、プナナの作業待ちだな。

そこまで考えて、ふとセルバの言っていた事を思い出した。


「なぁ、そう言えばなんだが、セルバはプナナは神核を改造するには魔力も技術も足りないし、道具も普通のしかないって言ってたけど、素人の俺が見ても、プナナの工房にあった道具類は普通とは思えなかったんだが、どういう事なんだ?」


『何も間違った事は言ってないもん。セルバの神核の加工自体はプナナが行ったもん、そして数百個の簡易神核を多次元構造体にするという、もう訳分からない改造を行ったのはデイジーもん。あれ、世界の中に極小の世界を作るみたいな事やってたもん。創世の神の御業を極小規模とは言え再現してたもん、普通の神では不可能と断言できるもんよ』


『とんでもない神業ってやつね。その神でもあんな事出来るのはわずかだけれど。あとプナナの道具が普通って言うのはあくまで神目線で見たからでしょうね。あの道具類だって、地上でならそれなり、というか一部の国しか保有してない程度の物だけれど、神ならもっといい物持ってるものね』


神様の持ってる道具類って地上とは比べ物にならないレベルの物のようだ。

神様って凄いんだなぁ。


『プナナの技術はまだ未熟なのは確かもんけど、セルバとの相性の良さがその足りない技術を補ってあまりあるもんね。相性が良い程度では神核が溶けたり、別の物質に特性を付与なんて出来る訳ないもんから。異常な位の相性の良さもん』


確かプナナはセルバの神和、だったか。

セルバを慰撫し浄化する存在、俺はセルバのお気に入り程度の認識でしかなかったが、その相性の良さも神和に選ばれた要因なのだろう。


『とりあえず、これからする事の確認をしておくわ。デイジーちゃんとあのセルバの神和がセルバの疑似神核を完成させるのにあと一時間はかかるらしいわ。神核の特性を定着させるのに一定時間あの液体に漬け込む必要あって、本当なら数日は漬け込むみたいだけど、そこはなんかデイジーちゃんが時間を加速させるとかなんか言ってたわ。もう細かい事は無視するわ。つまり、セルバの疑似神核の完成は一時間後。神力は私様が多少は都合するけど、量が全然足りてないわ。人間とセルバの神和の信仰頼りね。奇跡を起こした神様を生かそうって言うのよ、気合入れなさい』


「ああ、俺に出来るのは褒める事くらいだからな。全力でセルバを褒めて褒めて褒めちぎるよ」


俺の言葉にパルカが少しムッとした様な表情を浮かべる。

そして、唐突に俺の頭をつつくと、黒いオーラの様な物が俺の体を覆った。


『これで、人間はセルバを褒める必要はないわ。人間の良く分かんないスキルの効果をセルバの神和に上乗せできるように改造したから。人間はプナナに触れてれるだけでいいわ。あとはセルバの神和次第よ。あぁ、安心なさいしばらくすれば元に戻るから』


『お前、勇者特権の改造とか下手すれば廃人になるような事を平気でやらかすもんねぇ。どういう神経してるもんか……』


え、俺今、廃人になる危険性あったの? 

マジで?


『なってないんだからいいでしょ』


いやぁ、良くないと思うんだけどなぁ。

俺が複雑な気持ちでいるとパルカが俺に向かって翼を広げた。

どういう事だろう。

しばらく、黙って見ているとパルカが急に怒りだした。


『早くしなさいよ!!』


「いや、何を!?」


『抱っこしなさいよ、強く!! セルバに神力を提供するって言ったでしょ!! その量を少しでも増やしたくないの!! 増やしたいでしょ、セルバを助けたいんでしょ、なら早く、抱っこなさい!! ほら、はよ!! そして褒め称えなさい、誉めそやしなさい、崇め奉りかしこみかしこみ申しなさい!!』


『お前、まさか、それ目当てで神力を提供するとか言い出したもんか!? さすがのわっちもその欲望に忠実な姿を見ると、ドン引くもんよ!?』


『うるさい黙れ!! ついでだからアンタも褒められておきなさいよ!! 私様は忘れてないわよ、アンタはセルバとデイジーちゃんの飲み比べの時、デイジーちゃんに賭けてたでしょ!! あの時の賭けの掛け金まだ私様は貰ってないわよ!! ちゃんと払いなさいよ!!』


パルカの言葉にマレッサはきょとんとしていた。

が、すぐに大笑いをして、俺の頭の上に乗っかった。


『うっひょっひょっひょ、そうだったもんねぇ。あの時の飲み比べ、後で聞けばデイジーが負けを認めたって言ってたもんねぇ。だったら、掛け金である神力をパルカに渡すのは当然って事もんよねぇ。掛け金の神力を渡すにしても今は少ししか神力が残ってないもんから、ヒイロ、飛び切りの信仰を頼むもんよ』


どこか嬉しそうなマレッサ。

やはり、マレッサも本心ではセルバを助ける為に神力を渡したかったのだと、気づいた。

あぁ、やっぱりマレッサはいい奴だ。

俺はなんだか無性に嬉しくなって、ついつい調子に乗ってしまった。

俺はデイジー叔父さんとプナナが工房から出てくるまでマレッサとパルカを褒め続けていた。

しかし、いくら褒め続けてもどうやらマレッサとパルカの神力の許容量に何かしらの制限がかかっているらしく、今回は二対の羽を持つ姿にしかならなかった。

ただ、マレッサもパルカも姿自体はそのまま、毛玉と三つ目のカラスのままだった。

なので、パルカの姿はカラス本来の羽とは別に二対の羽が生えていて、ちょっとややこしい感じだ。


「あらぁん、準備万端って感じねぇん。さ、行きましょ、セル……木の精霊ちゃんが待ってるわぁん」


「はいでしゅ!! あ、あと気づいてるでしゅから、お気遣いは必要ないでしゅよ。木の精霊さんが実はセルバ様なんでしゅよね? いつもは声だけだったり、使いの人だったりしてた木の精霊さんの匂いが昔嗅いだセルバ様の匂いと一緒だったでしゅから」


「逆に気を使わせちゃってたのねぇん。ごめんなさぁい、セルバちゃんにも事情があるのよぉん。木の精霊を騙っていた事、どうか許してあげてほしいわぁん。セルバちゃんのプナナちゃんへの愛情は本物、それはあたくしが保障するわぁん」


「許すも許さないもないでしゅ。プナナは嬉しいんでしゅ、大好きな木の精霊さんとお母さんの様に大切なセルバ様が同じ人だったなんて、プナナはすっごく幸せ者でしゅ」


そう言ったプナナの頭を俺は優しく撫でた。

プナナはとてもいい子だ、だからセルバともっと一緒に居させてあげたい。


「セルバを助けような。みんなで」


「はいでしゅ!!」

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