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93・どうしても理由が必要ならって話

『デ、デイジーちゃん!? なんで、っていうかどうやってここに!?』


驚くセルバ、その体は末端から崩れていっているのが見えた。

マレッサの言っていた奇跡を起こした代償なのだろうか。

俺とマレッサ、パルカもデイジー叔父さんの開けた空間の穴を通って、セルバの大樹へと移動する。


「あらぁん、今言ったじゃなぁい、友達を助けに来たのよぉん」


デイジー叔父さんはそう言って、セルバの周りで泣き伏すセルバブラッソの住民たちを見回した。

その中に目当ての人物がいなかったのか、デイジー叔父さんは更に周囲を見回し出した。


『デイジーちゃん、ワタシを、神を友と呼ぶ不敬は今は見逃すネ。ワタシは奇跡を起こしたネ。もう、止まらない、これが神としての最後の仕事ネ。いくらデイジーちゃんでも邪魔だて無用ネ。でも、ワタシを助けようとしたその気持ちはとても嬉しいネ』


「んふ、そんな言葉であたくしは止まらないわよぉん、セルバちゃん。プナナちゃんはどこかしらぁん? あの子の力が必要なのよねぇん」


『プナナには余計な物は背負わせたくないネ。出来れば巻き込まないでもらえると助かるネ、デイジーちゃん』


有無を言わせぬセルバの声にデイジー叔父さんはどこ吹く風と言った感じだ。


「笑わせないでちょうだいセルバちゃん。自分で勝手に愛でておいて、自分の死は背負わせたくないですってぇん? 身勝手にもほどがあるわよぉん。プナナちゃんが貴女と過ごした時間も、その中で生まれた思いも全て無視して、自分が傷つかないようにしてるだけじゃない!! 神ですってぇん? 笑わせないでちょうだい、ただ臆病で自分に優しいだけの女の子じゃないのよぉん!!」


「デイジー!! 森の母セルバはセルバブラッソの未来の為にその身を犠牲に奇跡を成しているのです!! いかに美しい筋肉を持つ貴方であってもそのような侮辱は見過ごす訳にはいかない!!」


「そうだ、あんたの強さはその極められた筋肉見てりゃあ分かる。長耳が心酔するのも納得ってもんだ。だとしてもだ、わしも長耳と同じ意見だ。覚悟と決意を持って、森の母セルバが起こした奇跡を侮辱されちゃあ、黙ってられる訳がねぇ!!」


セルバの近くで泣き腫らしていたエルフの長であるレフレクシーボとドワーフの長であるアウストゥリがデイジー叔父さんに食って掛かった。


「お黙りなさい!! 自分の気持ちを押し殺して、セルバちゃんの心に沿うその姿は確かに立派かもしれないわぁん!! でもね、セルバちゃんはアナタたちの母親なんでしょう!! 母親が自分たちの為に死ぬ、それをただ泣いてみてるだけでいいのぉん!?」


デイジー叔父さんの言葉は衝撃波となって辺りに響き渡る。

そのあまりの威圧感にレフレクシーボもアウストゥリもただ黙りこくるしかなかった。


『デイジーちゃん、あまり二人をイジメないでほしいネ。これはワタシが決めた事ネ。誰にも邪魔はできないし止まらないネ。これは神すら覆す事の出来ない世界の理ネ』


「世界の理なんてあたくしには関係ないわぁん。あたくしってばちょっぴりだけ我が儘なのよぉん。セルバちゃんは助けるし、プナナちゃんも巻き込むわぁん。愛した子の泣き顔を見ると揺らぐ程度の覚悟なら、助けてっていいなさぁい!! あたくしは全身全霊を以てセルバちゃんを助けるわぁん、それは貴女の子供たちだってきっと同じはずよぉん!! 母親が死んで喜ぶような子供がいる訳ないでしょう!!」


『これしかないネ、ワタシが残った神核全てを使ってセルバブラッソを再生強化させないと、国が滅ぶネ!! 弱ったワタシがいたって子の為にならない、それならワタシが奇跡を起こしてみんなを救った方が万倍いいネ!!』


「貴女がいるからこそのセルバブラッソでしょうが!! みんな、貴女と共に生きる事の方が億倍いいに決まってるわぁん!! アナタたちはどうなのよ!! このまま何もせずに泣いてセルバちゃんとお別れして、新たな神様とよろしくやっていくの!? それでいいの!! あたくしは嫌よ!! アナタたちはセルバちゃんの子供なんでしょう!! なら、諦めないで立ち上がりなさい、あたくしも全力で手伝うわぁん!!」


デイジー叔父さんの言葉がセルバの大樹だけでなく、セルバブラッソ全土に地響きとなって広がっていく。

一人、また一人と涙をぬぐってデイジー叔父さんの前に集まるセルバの子供たち。


「私はまだ、セルバ様とお別れしたくない!! 頼むよ、なんとか出来るなら、お願いだ!! セルバ様を死なせないでくれ!!」


「あたしだって、セルバ様ともっと一緒にいたい!! なんだってするから、セルバ様を止めて!!」


「おらもセルバ様には生きていてもらいたい!! 弱かろうがおらたちの為にならなかろうが、それでも共に生きていたいんだ!!」


セルバブラッソの住民たちはセルバへの想いを口々に叫ぶ。

そんな自分の子供たちの様子を見て、セルバは困惑したような嬉しいような複雑な表情を浮かべていた。


「セルバちゃん、これが貴女の愛すべき子供たちの想いよぉん。こちらからは手を伸ばしたわぁん。あとは貴女が手を伸ばさないとダメ、どちらも手を伸ばさないとその手を掴む事はできないわぁん。どうしても自分が助かる理由、世界の理を捻じ曲げる理由が欲しいっていうのなら、えぇ、いいわ、飛び切りの理由をあげるわぁん」


そういってデイジー叔父さんはセルバの耳元に口を寄せて何かを呟いた。


「セルバちゃん、あたくしってば実は負けず嫌いなのよぉん。あの時、飲み比べで負けた事、根に持ってるわぁん。あたくしが飲み比べで勝つまで死んで勝ち逃げなんて絶対許せないのぉん。……だから、もう一度飲み比べしましょ、今度はセルバブラッソのみんなと一緒にね」


『……キャハ、デイジーはそんなくだらない理由で世界の理を捻じ曲げてでも、ワタシを生かそうって言うのネ?』


少しだけ笑ったセルバにデイジー叔父さんは満面の笑みでバチンとウインクをしてみせた。


『キャハハハハハ、いいネ!! その茶番に乗ってあげるネ!! そんな立派でくだらない理由があるのなら、死んでられないネ!! やってみせるネ、デイジー!! 世界の理を捻じ曲げられるものなら捻じ曲げてみせるネ!!』


お腹を抱えて大笑いしたセルバは消えつつある自分の両手を大きく広げて、高らかに声をあげた。


『愛すべき我が子らよ、奇跡を成して消えゆく我が身ではあるけれど、どうかどうか、ワタシと共に生きる事を望むなら、祈っておくれ、願っておくれ!! 我が愛する子らの祈りと願いを信仰として、我が神核を満たしておくれ!!』


セルバの声が光となって波紋のように広がっていく。

たぶんセルバブラッソ中にセルバの声が響いているんじゃないだろうか。

そして、そこかしこでセルバの子供たちが両膝をつき、両手を組んでセルバと共に生きる事を祈り、願い始めた。

強い祈りと願いが信仰となり、セルバの子供たちの体から小さな光の粒が浮かび出て、セルバへと注がれていく。

ほんの少しだが、セルバの体が消えていくのが遅くなった気がした。

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