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92・友達を助ける理由って話

「そう言えば、マレッサちゃん。プナナちゃんの作ったアクセサリ―にはめ込まれてた石はセルバちゃんの神核ってやつだったのよねぇん?」


どんどん生えてくる植物の中でデイジー叔父さんがマレッサにそう尋ねた。

地面に埋められていた神兵たちにも蔦やコケが生えてきている。

助けた方がいいのだろうかと、ちょっと悩む。


『そうもんよ。でもあの死体が持ってたのは原初の呪いが全部取り込んでダメになったもん、プナナが持ってた分も原初の呪いが逆流したから、もうどうにもならないもんね。第一、小さく加工してたもんからセルバの神核としてはどうやっても機能しないもん』


「そうなのねぇん。セルバちゃんはきっと今頃、自分の子供たちとお別れの最中でしょうねぇん。部外者のあたくしたちが言ってもお邪魔になっちゃうわねぇん」


少し寂しそうに言うデイジー叔父さん。

どんどん緑に覆われていく神兵たち、放置していてもいいものか。

やはり可哀想なので、一人引き抜く事にした。

大丈夫ですかと声をかけてから、思い切り足を引っ張ってみる。


『あのセルバの神和も目が覚めてる頃ね。セルバの力が弱くなってるから、眠りの花粉の効果も切れてるはず。セルバは自分の神和に正体を明かさずに終わるつもりらしいわ、最期まで会わないみたいね』


『自分の死の一端を担ってしまったとプナナに思わせない為に、最期まで会わないもんか……。本当、難儀な奴もん』


マレッサとパルカが真面目な顔で何かを喋っている。

なんとか一人引き抜く事が出来たのだが、かなりの重労働だった。

なんか、泣いて感謝された。

あとはこの人に任せる事にしよう。

その場を離れようとしたら、お礼にと言って何かくれた。

なんだろう、これ、ビー玉かな?

助けた神兵は頭を下げた後、他の仲間たちを引き抜き始めた。


「なぁ、マレッサ。これ貰ったんだけど、これなに?」


『もう、しんみりしてる所になにもんか、ヒイロ。知らない奴から物をすぐ貰うのはあまり褒められたものじゃないもんよ。ってこれ、簡易神核じゃないかもん。なんでこんなの持ってるもん?』


「デイジー叔父さんが埋めた神兵がいただろ? 植物に覆われて緑のオブジェになりそうだったから、助けたんだ。そしたらお礼にって。でその簡易神核って何なんだ?」


『簡易神核は神兵とか現人神に地上で神の代行活動させる為に与えられる文字通り簡易的な神核もん。神本来の神核に比べれば容量も少ないし、出力も小さいし、長持ちもしない見劣りする物もんけど、それでも地上で神の力を短期間とは言え十分に発揮できる代物もん。まぁ、これはもう中身の神力が空っぽでただの器みたいになってるもんけど、人間にとっては貴重過ぎるくらいの魔法道具になるもん。なにせ神力を貯め込む器もんから、この大きさでも大都市の魔法道具を数年は全部稼働させ続けられるくらいの量が貯蔵できるもん』


「へぇ、凄い物なんだな」


その時、デイジー叔父さんが何かを思いついた様な顔付きで、俺の掌の上にある簡易神核を摘まんだ。


「ねぇマレッサちゃん。もう一つ聞いていいかしらぁん?」


『なにもん、デイジー』


「詰まる所、神核って物質化した神様の魂で、神様が地上で活動する為の電池みたいな物って認識でいいのかしらぁん?」


『電池、確か電気を貯め込む装置だったもんかね。ちょっと違うもんけど、大まかにはそうもん。神核は神の魂であり神力の器もん、神域の神は自分の信徒の信仰を神力として受け取り、神核を満たす事で生きているもん。信仰が消え、神力がなくなれば神は死ぬ、消滅するもん』


「ありがとう、マレッサちゃん。じゃあ最後の質問よぉん、これは神の魂を補完する神力の電池として使えるって事でいいのねぇん? 神の魂を信仰による神力で満たせるなら、器はなんだっていいはずよぉん」


『な、なに言ってるもんデイジー、そんな事は、不可能なはずもん。もし可能だったとしてもそんな小さい簡易神核じゃあ神兵や現人神ならまだしも本当の神の魂を満たす神力の量には全然足らないもん、そんなのじゃ数百分の一程度にしかならないもん。もしデイジーがそれでセルバを助けようとしてるとしても、今、実行されてるこの奇跡を賄う程の神力には到底たりないもんよ。奇跡は実行されたら奇跡が完了するまで神力を吸い続ける神位魔法よりも更に上の物もん、神ですら止める事はできないもん』


「うんうん、ありがとうマレッサちゃん十分よぉん。十分過ぎる答えだったわぁん」


デイジー叔父さんは満面の笑みを浮かべている。

そして、数人は掘り起こされているがいまだ多く埋まっている神兵の方を見た。


「善は急げって言うわよねぇん。セルバちゃんの神核が消えるのが先か、あたくしたちが間に合うのが先か。あたくし、張り切っちゃうわぁん!!」


そう言い放つとデイジー叔父さんは分身した。

数十人、いや数百人はいるかもしれない。

しかし、何故今分身したのだろうか。

分身したデイジー叔父さんを見て、神兵が恐慌状態に陥って逃げ惑っている。


『何をするつもりもんデイジー!? セルバはもう終わる覚悟で奇跡を起こしたもん!! これは神の沽券にもかかわる事もん!! 奇跡は神の命と引き換えに起こせるただ一度だけの御業もん!! デイジーのしようとしている事で万が一助かってもセルバはもう神としては生きていけなくなるもんよ!!』


「マレッサちゃんッ!!」


『ひゃ、ひゃいッ!?』


衝撃波を伴ったデイジー叔父さんの大声に、つい声が上ずるマレッサ。

デイジー叔父さんの分身の一人がマレッサの前にやってきて、ニコリと笑顔を見せた。


「マレッサちゃん、死んで花実は咲かないわぁん!! 生きてこその人生!! 第一にあたくしはオカマ!! 神の沽券になんてお構いなしよぉん!! イッツァオカマジョーーク!! オホホホホホホッ!!」


『デイジー、真面目な話もんよ!!』


「あたくしはいつだって真面目よマレッサちゃん」


さっきまで高笑いしていたデイジー叔父さんは至極真面目な顔つきでマレッサを見据えた。

そして、バチンとウィンクをした。

デイジー叔父さんの手の中には神兵全員から没収したと思われる簡易神核が数百個積み上げられていた。

神兵たちが全員掘り起こされているのが見えた。

そして、デイジー叔父さんは空いた手をギュッと硬く握り、空間が歪む程の魔力を込め始める。


「それにね、マレッサちゃん。セルバちゃんとあたくしは飲み勝負をした飲み友達。友達を助けられるかもしれない方法が今目の前にあるのに何もしないなんて、あたくしには無理だわぁん」


異次元の魔力が込められた拳が何もない空間を殴りつけると、空間がグニャリと曲がり、ヒビが入って割れ落ちていく。

割れていく空間の穴の先にセルバの大樹の様子が見えた。

人が通れる程に空いた空間の穴を通り抜けて、デイジー叔父さんは驚くセルバの目の前で立ち止まる。


「そう、友達を助けるのに理由なんてナッスィングなのよぉん!!」

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