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90・お茶会は賑やかな方が楽しいよねって話

「あたくしの手で引導を渡してもいいのだけれどぉん、たぶんもっとふさわしい子がいるわぁん」


真っ黒な人、原初の呪い、最初の人間の一部に引導を渡すふさわしい子、一体誰の事だろうか。

いや、そうだ、ふさわしいと言うか、もうこの人物しかいないという存在がいるじゃないか。


「もしかして、ナルカの事?」


デイジー叔父さんは静かに頷いた。

原初の呪いの複製、写真に封じられていた原初の呪いから漏れ出た呪いが自我を持った存在であり、原初の呪いから解放され死の精霊として転生した存在。

恐らく、原初の呪いを終わらせるにはナルカ以上の存在はいないのかもしれない。


「でもデイジーおじさん、ナルカはセルバの大樹で頑張ってくれて、今はちょっと疲れて休んでる状態なんだ。出来たら無理はさせたくは――」


「人間さんは甘やかしさんですね。別にあちしは構いませんよ? あちしの大元であった存在、今はもう別の存在、元が同じで今は違う存在、その在り方を変えるならあちしが最適でしょうし」


マジックバッグの中から黒いスライム姿のナルカがにゅるりとテーブルの上に出てきた。

真っ黒な人はナルカを見つめながら焼き菓子を差し出している。


「で、あちしは何をすれば? 単純に死を与えればいいんですか?」


「――――」


「譲渡と許可、それによってナルカちゃんとの同化できるんですってぇん。そうすれば、明け渡す事が出来るそうよぉん」


黒い人の言葉をデイジー叔父さんが翻訳する。

譲渡と許可、どういう事だろう。


『そう言う事。呪いの面はデイジーがほぼ完全に抑え込んでるから、残る面、最初の人間の権能をナルカに明け渡して、ナルカのリソースになるって事ね』


『文字通りナルカと同化する事になるもん、今の自我は消滅する事になるもんけどいいもんか?』


「――」


「構わない、意識の消滅をもって眠りにつく、ですってぇん。あたくしとしてはどうにかしてあげたい所なんだけれどぉん、誰かの意思を曲げるのは好きじゃないのよねぇん。だから、あたくしはこの子の意思を尊重するわぁん」


俺としてはなんとも複雑な気分ではある。

詰まる所、この黒い人は自殺をしたいと言っているも同じなのだから。

とは言え、今ようやく手に入れた冷静な自我、最初の人間として生まれ、全てを恨んで呪って、自我すら擦り切れる様な長い間原初の呪いとして死を振りまいてきた事を思えば、それすら救いになるのではないかとは思う。

納得は出来ないが。


「人間さんは気乗りしないみたいだね。まぁ、お人好しだからねー。自分から消えたい、死にたいって言ってる人がいれば止めたくなるよね。でも、あちしも同じだったから分かる。もう疲れたんだよね、だから温もりが欲しいと願ってしまう。あちしは人間さんに、本体、一部だけど、はデイジーから人と関わる温もりを貰って満足出来たんでしょ。だからあちしは止めないし、そうしてほしいならあちしは受け入れるよ」


「ナルカがどうにかなる、とかはないのか?」


『それは心配しなくていいわ。原初の呪いの核たる存在が自ら権能の譲渡という契約を言いだしてるし、契約に則った権能の譲渡なら、原初の呪いがナルカに統合されるってだけ。ナルカの魔力の総量に変化はあるだろうから、ナルカ自身の姿は変わるかもしれないけれど、根幹部分が変化する事はないわ』


「ホント、心配性ですね人間さんは」


いや、心配にもなるだろう普通。

ただでさえナルカは生まれたばかりなのだから、無茶はしてほしくはない。


「サポートはあたくしもするわぁん。安心してちょうだい緋色ちゃん。ナルカちゃんに万が一が起きないように全力で事にあたるわぁん」


「うーん、デイジー叔父さんが言うなら。ナルカも乗り気みたいだし、他人の俺が止める事でもないだろうし」


自死ではなく統合、合体、ナルカと一つになると思えばまだ、納得は出来るだろうか。

複雑な気持ちは変わるものではないけれど。

そこは部外者の俺がとやかく言う事ではないのは確かだ。

本人の意思を尊重、か……。


「――」


「あちしはいつでも」


黒い人がナルカに向けて人差し指を差し出した。

ナルカはその指を黒いスライムの体を伸ばして包みこんだ。

ゆっくりと黒いオーラがナルカに取り込まれていく。


『最初の人間の権能、成長する因子、あらゆる物を食らいつくす雑食性、異常な適応能力とかだったかしら? ほんと、短命であるという点を除けばホント異質よねぇ人間って』


『短命だからこそのピーキーな能力とも言えるもん。わっち達は神格が上がる事で姿形を拡張出来るもんけど、成長という不可逆性は持ち合わせてないもんからねぇ』


『まぁ、こっちはそれで片が付きそうだけど、こっちはどうするの?』


パルカが地面に埋まっている神兵たちを羽で指差す。

マレッサはうーむと唸りながら腕を組んでいた。


『援軍の要請出したのはわっち達だし、まさか合流する前にデイジーといざこざを起こすとは考えてもみなかったもん。このまま放置でもいいもんけど、たぶんクレームが入る気がするもんねぇ』


「やっぱり何か問題になるのか?」


『まぁ、原初の呪い箱から呪いが溢れるなんていう世界滅亡クラスの厄災事案だったし、私様とマレッサ、それにセルバが手を貸したとはいえ、人間が主体で解決できるなんて想像もしてなかったわ。神兵たちは空振りの上に一人の人間に一部隊が埋められて面目も丸つぶれ、なんらかの報復があってもおかしくはないわね』


マジか、それは困ったな。

神様陣営からの報復なんてされたら溜まったものじゃあない、どうしたものか。


「そうなったら、色々困るなぁ。マレッサとパルカは今の内に俺たちから離れた方がいいんじゃないのか? 同じ神様なんだろ?」


マレッサに殴られ、パルカに頭を思い切り突かれた。


『殴るもんよ』


『突くわよ』


もう殴ってるし、突いているのだが?

何故だろう、二人の為を思っての言葉だったのだが、どうにも二人はかなり怒ってる。

神様からの報復と言う事は二人にとっては仲間からの攻撃みたいな物だろうに。


「なんで怒ってるんだ二人とも??」


『分かってないならもう一発殴るもんよ?』


『脳天に風穴開けた方がいいかしら?』


「わ、分かった、もう言わないから。その握りこぶしと嘴はしまってくれ。よく分からないけど俺が悪かったから」


『こいつ、とりあえず謝ればいいと思ってるもんね』


『そう言う所よ人間、訳も分からず謝られても怒りしかわかないわよ』


謝ったのに怒りが全然収まってない二人に俺が叩かれたり突かれたりしている様子を見て、デイジー叔父さんはため息をついていた。


「あたくしの甥っ子だけれどぉん、乙女心って言うのが全然分かってないわねぇん。勉強なさい緋色ちゃん」


デイジー叔父さんもどうやら俺に呆れている様子だった。

俺が一体なにをしたと言うんだ……。

そんなやりとりをしていると、ナルカが俺のマジックバッグの中に潜り込んできた。

黒い人を見てみると、黒さがなくなっており、全身から光が零れ落ちている。

顔までは分からないが、どうやら女性らしい、というのはかろうじて分かった。


「権能の譲渡および、統合が終わりましたよ人間さん。あとは本体の一部の抜け殻、原初の呪いになる前のただの人としての器が完全消滅するまであと数分の時間を残すだけです。放っておいても勝手に消えますが、どうせなら、楽しくお茶会でもしてあげてください。あちしはまたの機会がありますから、本体の一部の方を優先してあげて下さ――」


最後まで言い終わるまでに俺はナルカをテーブルの上に移動させた。


「お茶会ってのは参加してる人が多い方が楽しいもんだ。だから、ナルカも参加して、見送ってやろう、一緒に」


「変な所でわがままですね。まぁ、いいですけど。あちしは甘めの紅茶をお願いします」


渋々と言った感じではあったが、ナルカはデイジー叔父さんの用意した紅茶をスライムの体のまま、啜っていた。

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