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89・話の邪魔をするのはダメだよねって話

「――――」


真っ黒な人がデイジー叔父さんに向かって、何かを言いながら頭を下げている。

恐らくお礼を言っているのだろう。


「そうよねぇん、お茶請けは甘い物だけじゃ飽きるわよねぇん。チーズとかも用意しておけばよかったかしらぁん。ごめんなさいねぇん」


違った、お茶請けに飽きてるだけだった。

呑気にお茶を楽しんでいるが、このままでいい訳がないのは確かだ。


「デイジー叔父さん、これからどうするの? たぶん、このままって訳にはいかないんじゃない?」


俺の言葉にデイジー叔父さんと真っ黒い人は静かに頷いた。


「そうねぇん。それは確かよぉん。今はこの子が振りまいてしまう呪いはあたくしの愛のパゥワーで完全に抑えているけれど、永遠に効果がある訳じゃないわぁん。せいぜい二、三千年程度でしかないわぁん」


「十分過ぎないそれ?」


「それは違うわぁん、原因を取り除けないならそれは対症療法、時間稼ぎでしかないのよぉん。いつかまた問題は表面化しちゃう、その時にあたくしがこの子を助けてあげる事はたぶんできないわぁん」


『デイジーなら出来るんじゃないかもん? いや、なんでもないもんごめんもん』


『思った事をすぐ口に出すのはアンタの悪癖よね、私様もそう思ったけど、わざわざ口にはしないわよ。……ごめん、ホントごめん。その怖い笑顔やめて、お願い』


デイジー叔父さんに土下座せんばかりに頭を下げて謝るマレッサとパルカ。

それは置いておいて、この子を放っておけないって事は分かった。

デイジー叔父さんは優しいから、関わった人を出来るだけ助けてあげたいのだろう。


「何とか呪いを振りまくのをやめるってのは出来ないの?」


「―――。――」


真っ黒な人は首を横に振った。

どうやら無理らしい。


「なんでも、この世に一番最初に生み出された時にこの世の痛みも悲しみも苦しみも切なさも寂しさも、とにかく色んな感情を一度に何もかも一気に押し込まれたらしいのよぉん。普通の赤ちゃんって快か不快の二つしか感情を持ってないものなんだけれど、神様が初めて人を作ったものだから、テンパっちゃってたみたい。次代の人類のロールモデルとしてのデザイン設計を張り切り過ぎたみたいねぇん」


人間が時間をかけて獲得する感情や感覚を、何も知らない赤ん坊の様な状態の時に押し込まれたら、さすがに心がどうにかなってしまう気がする。

実際、最初の人間であるらしいこの真っ黒な人は神を呪い、全てを呪い、何もかもを死なせてしまう呪いと成り果ててしまった。

その時、デイジー叔父さんの背後辺りで物音がした。

どうやら、デイジー叔父さんに埋められていた人が這い出てきたらしい。


「き、貴様!! 人間風情がこの神域神使隊、第一強襲部隊の隊長たるこのマージ・ザ・コエル様を地面なんぞに埋めてくれたな!! 許さん、絶対に許さ――」


デイジー叔父さんに埋められていた人が何かを捲し立てていたのだが、ちょっと今取り込み中だからとデイジー叔父さんは瞬くまに再度埋めなおしていた。

今度は足首辺りまでガッツリと。


「すみません、今ちょっと真面目な話をしているので、もう少し待っていただけると助かります。静かに出来ないなら、もう少し埋まっていてください」


よし、ちゃんと謝りつつ邪魔をしないでと丁寧に伝えられたと思う。

地面に埋めるなんて、元の世界だとかなり危険な行為だしほぼ事件だけど、異世界だし、なんか羽生えてるから強そうだし、たぶん問題ないだろう。


『いや、率直に言うとヒイロもだいぶん頭やべぇもんよ? デイジーはもうデイジーだから諦めるもんけど、ヒイロはもう少し人間として踏みとどまれもん』


失礼な、俺はごく普通の真っ当な人間だと言うのに。

とは言え、マレッサが言うのだから、俺は何か変な事を言ってしまったのだろう。

反省せねば。


『でもそいつアレでしょ? 神域神使隊の第一強襲って対邪神戦にも対応できるって話の奴らでしょ? 原初の呪いは確かに危険だけど、こいつらが出てくる程の脅威じゃないと思うんだけど?』


『うーん、最悪の事態を想定したんじゃないかもん? 原初の呪い箱そのものの蓋が開いたもんから、セルバブラッソ全域の死滅くらいは想定してたかもしれないもん。そうなってたら、国一つが原初の呪いとして活動するもんから、次元封鎖くらいしないと影響が世界規模に広がりかねないもん』


『邪神級の災害って上は判断したって事? 最初の人間を創造した時のやらかしをごまかしたいから一気に殲滅しようとしたんじゃない? デイジーが派手な光の玉がどうこう言ってたし、たぶんそれって断罪のスフィアでしょ』


「またよく分からない単語がいっぱい……。とりあえずその断罪のスフィアって何? かなりヤバそうだけど」


時々マレッサとパルカは俺の分からない単語を織り交ぜて喋るからついていけなくなる、それはそれで寂しいじゃないか。


『断罪のスフィアは神が創造した国を滅ぼす熱量を持った広域殲滅兵器の一つよ。一つの天体の熱量をちょっと加工して封じ込めただけの簡単な物だけどね。普通なら展開しただけで、半径十数キロ圏内が浄化の火で焼き尽くされるわ』


いや、それヤバすぎない? 何さらっと言ってるんだパルカ? 周囲十数キロ圏内ってセルバの大樹も普通に入ってません?


「それって俺たちも危なかったんじゃ?」


『断罪のスフィアに納められている浄化の火は不浄な人間だけを焼き尽くすもんから、罪のない人間は平気もんよ』


「なんだ、そうなのか。それで不浄な人間ってどんな人間なんだ?」


『強い欲望とか凶悪な罪を犯した者とか色々もん。まぁ、平たく言えば世界を汚染する程の邪悪な意思を持った人間の事もんね。そいつらの欲望や罪なんかを焼いて精神と魂と心を完全漂白するもん』


「なるほど、原初の呪いは元が人間だから、その断罪のスフィアの浄化の火が効果あるって事なのか」


『そうもん。ちなみに国を傾け民を飢えさせても平気で暖衣飽食をむさぼってたり、ただ快楽の為に大量殺人を犯したり、人の揚げ物料理にモレンの果汁を勝手に垂らしたり、読んでない本の結末を聞いてもないのに教えたりしてる人間も浄化の対象もん』


「対象範囲がガバガバ過ぎる!?」


閑話休題、話がそれ過ぎた気がする。


「とりあえず、この真っ黒な人はどうしたいの? どうなりたいの?」


「――――」


「今、表出してる意識、自我もいつまで保てるかは分からないから、出来れば心穏やかな内に消滅したいそうよぉん。この子が今まで取り込んできた死はあたくしとの戦いの中で、あたくしの愛ある拳や攻撃でその九割九分九厘は浄化させてあげられたわぁん。ほとんどの魂は濃厚過ぎる呪いと混ざり合い、魂すら砕かれてただの無となっていたけれど、呪いのみを浄化して魂の欠片をあるべき所に送り届ける事が出来たと思うわぁん。だから、いつの日か、新しい命として生まれて来る事が出来るはずよぉん」


『それ普通は神でも出来ないレベルの奇跡なんですけど? 呪いと同化して無になっていた魂を呪いだけ浄化して掬い上げるとか、水に混ぜた塩と砂糖を分離してより分けるより難しいと思うんだけど……』


「うふ、パルカちゃん、あたくしたちの世界には為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけりって言う和歌があるのよぉん。つまり気合と根性入れてやれば出来るって事よぉん」


『いや、気合とか根性論で言われても困るもん。そんなの常に全力疾走してれば長距離走で優勝みたいな話もん、物理的に無理もん』


「無理を通せば物理が吹っ飛ぶって言うじゃなぁい?」


『絶対そんな言葉ないもん!!』


そんな俺たちのやり取りを見て、真っ黒な人はチビチビと紅茶を飲みながら、どこか楽し気な様子だった。

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