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87・デイジー叔父さんが心配だって話

少しして、セルバが戻ってきた。


『待たせたネ、このセルバの大樹にはもう原初の呪いは存在しないネ。万が一現れるとしたら、ワタシの中からだろうネ。とはいえデイジーのおかげでワタシと原初の呪いとの繋がりはほぼ消えているネ。問題無いと考えていいネ』


『分かったもん、ならわっち達はデイジーの援護に向かうもん。たぶん必要ないとは思うもんけど』


『黒い巨人自体はもういないみたいだけど、デイジーがこっちに来てない以上、まだあっちの戦闘は続いていると見た方がいいわ』


セルバの大樹での戦いに必死だった為に気付いていなかったが、確かにデイジー叔父さんの居る方向にあの黒い巨人の姿はない。

全てデイジー叔父さんが倒していたのだとすれば、原初の呪い箱を超圧縮したあの大玉を持ってこっちに来ていてもおかしくないはずだ。

何か別の問題が起きているのではないだろうか。

一抹の不安が脳裏をよぎる。


『まだ原初の呪い箱自体はまだ健在、いくらデイジーでもここで消滅させるなんてのは不可能に近い……はずネ。神域からの援軍ももうすぐ来るはずだから、無茶せずそれを待つのが得策ネ』


『セルバ、お前こそ無茶するなもん。せっかく神和が生き残ったもんからね』


『私様としてはアンタの好きにしたらいいわ、としか言えないわ。でも、この国の誰もアンタを責めたりしないし、私様たちだって何も言う気はないわ。……なんなら私様が魔王に掛け合ってもいいわよ』


『マレッサ、ありがとうネ。でもこれは地上に降りたワタシの問題ネ。パルカもありがとう、その心遣いだけもらっておくネ』


『そう、ならもう何も言わないわ。後悔だけはしないようにね』


マレッサたちの会話にどこか不穏な物を感じながら、俺は口を挟めずにいた。

口を挟んではいけないような気がしたからだ。

どこか何かを決意したようなセルバの口ぶりに少しだけ嫌な感じがした。


「あの、セルバ様? 何かするつもりなんですか?」


『……ヒイロが気にする事はないネ。これはワタシの在り方の問題ネ。優しい異世界の勇者、どうか貴方の旅路に幸多からん事を』


そう言って、セルバは俺の額に軽くキスをした。

いきなりの事でちょっとビックリしてしまった。


『キャハ、赤くなって可愛いネ。色々お世話になったから、せめてもの餞別ネ。ワタシの加護はどんな森であっても効果を発揮するネ。まぁ、森の中だとほんのちょっと良い事があるって事くらいだけどネ。じゃあ、マレッサ、パルカ、ヒイロ、それとナルカ、元気でね。デイジーにもよろしく言っておいてほしいネ』


そう言ってセルバは木の中に戻っていった。

どうやら、俺にセルバの加護をくれたようだ。

パルカがちょっと怒って俺の頭を突っついていたが、セルバの言葉に少し苛ついているような、寂しがっているようなそんな感じがした。


『さぁ、デイジーの所に行くもんよ。まだ事態は終わってはいないもん』


マレッサもどこか悲しそうな気配がしていた。

その理由は分からない。

ただ、マレッサの言うように事態はまだ終わっていない、今ここでそこを気にしていても始まらない。


「マレッサ、パルカ頼む。デイジー叔父さんの所に」


マレッサが魔法を使うと、ふわりと俺の体が宙に浮きデイジー叔父さんの元へと移動し始める。

だんだんと遠ざかるセルバの大樹はあちこちが枯れていたり大きな枝が折れていたりと、かなり痛々しい姿になっていた。

セルバブラッソの大地もまた、あちこちの木々が枯れていたり大きく地面が抉れたり、かなり酷い状況だった。

デイジー叔父さんがいるはずの場所も地面が大きく露出しており、荒れ地の様な姿になっている。

荒れ地の所々に大きな土の山が出来ているのはきっと、デイジー叔父さんが黒い巨人を倒した後だろう。


『ちょっと、ヤバいかもしれないもん』


『そうね、この気配は神域の援軍だろうけど。ちょっと様子がおかしいわ』


マレッサとパルカの言葉に俺はギョッとする。

神域の援軍って事は味方のはずだ、何故ヤバいとか様子がおかしいって言葉が出てくるんだ?

何かデイジー叔父さんあったのだろうか。


「二人とも、何がどうヤバイんだ!? デイジー叔父さんは無事なのか!?」


『デイジーの気配自体は揺るぎないもん。ただ、神域からの援軍がちょっと多すぎるもん。原初の呪い箱の対処の為とは言え、この数、一個大隊規模もん。国一つ滅ぼしかねない規模もんよ』


『しかも、この神力、軍神の所の神兵よね。封印系使える奴を要請したはずなんだけど、どうなってんのかしらね、まったく』


二人の言葉に不安が大きくなっていくのが分かった。

軍神だとか一個大隊とかどういう事だ?

原初の呪い箱を封印しに来てくれたんじゃないのか?

なんとも言えない思いの中、だんだんとデイジー叔父さんの元へと近づいていく。


「デイジー叔父さん、無事でいてくれ……」


荒れ地の真ん中にデイジー叔父さんはいた。

椅子に腰かけて、テーブル越しに座る真っ黒い人物に何かを話しかけている。


「えぇえぇ、それは辛いわねぇん。いきなり生み出されて何もかも全てを背負わされたら溜まったもんじゃないわよねぇん。あたくしには貴方の心が全て分かる訳でも理解できる訳でもないけれど、その思いに寄り添う事は出来るわぁん。辛いなら逃げてもいいの、悲しいなら泣いてもいいの、苦しいなら叫んでもいいの、あたくしがこの胸で受け止めてあげるわぁん」


『―――――ッ!! ――ッ!!』


「うんうん、酷いわよねぇん。あたくしだって、こんな姿でしょ? 偏見だとか言葉の暴力に何度晒されたか、でもあたくしには愛する家族が、愛してくれる家族がいたわぁん。たぶんそこなのよぉん、愛、それだけがあたくしと貴方を分けたささやかで、でも決定的な違いなのよぉん」


「―――、――」


デイジー叔父さんと話しているあの黒い人物は一体誰なのだろうか……。

あと、気になるのが、椅子に座るデイジー叔父さんと黒い人物の周辺だ。

なんだアレ?


『えぇ……なにこれもん。軍神エヘールシトの育てた精鋭の神兵たちが……』


『一人でもS級の魔物以上の実力を持つ神兵の一個大隊でもデイジーちゃん相手にはこうなるのね……』


俺以上に呆然としているマレッサとパルカ。

俺たちの目の前には数百人規模で地面に突き刺さる羽の生えた人たちの姿があった。

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