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84・いわゆるここが正念場って話

パルカが原初の呪いに浸蝕されたセルバの大樹に触れてその死を取り込み、マレッサがパルカのサポートを行い、適度に中和された死を巨大な卵になったナルカが吸収していく。

ナルカが死を吸収していく速度を見て、パルカは小首をかしげた。


『この子、もしかしてもう私様を介さなくても原初の呪い吸収できるんじゃない?』


『まぁ、万が一って事もあるもん。原初の呪いに飲まれても困るもんからね』


『ナルッカ!!』


『取り込んだ死の量を考えれば、数日中に孵ってもおかしくないのよね。精霊の孵化なんて本当なら数百年単位の時間が必要なんだけど、さすがの私様もこんな短期間での孵化は初めてだわ。ナルカ、アンタはどんな姿の死の精霊になるのかしらね』


『こんな規模の死を取り込んだ死の精霊なんて、例がないんじゃないかもん? まぁ、原初の呪いから派生した存在っていうのも聞いた事ないもんけど。とはいえ、ナルカが吸収したのは原初の呪いが今までもたらした数多の死のほんの一部でしかないんだろうもんけど』


そんな事を話しつつ、パルカを通して原初の呪いに浸蝕された部分はどんどんナルカに吸収され減っていく。

俺の背後では侍の放つ矢を防ぐ音と、侍と斬り合う音が聞こえる。

ここさえ潰せば、新たに黒い木の人形たちは現れない。


「あともう少しだぞ、ナルカ、頑張れ!!」


『ナルッカー!!』


俺の声援を聞き、ナルカはさらにヤル気をだしてパルカから死を吸収し始めたようだ、明らかにナルカに吸い込まれていく黒いオーラの量が増していた。


『……ちょっとナルカ? アンタ、私様の神力もちょっと吸ってない? ちょっと吸う力が強すぎるんだけど? 少し加減なさい? ナルカ? 神の話は聞きなさい? 私様はアンタの母であり姉なのよ?』


『ナルッカ?』


「神様の癖にちょっとくらい我慢できないの? って言ってる」


『はぁあああッ!? 何言ってるのかしらこの子、私様がこの程度で音を上げる訳ないでしょ!? いいわよ、私様の神力、吸える物なら吸ってみなさいよ!!』


『ナルッカー!!』


「分かった、全力で吸う、だって」


ナルカに吸い込まれる黒いオーラの量が今までの比じゃないくらいに増えた。

物の数秒で原初の呪いに浸蝕されていた部分はその死を吸い取られ、朽ちた木となって塵になって消えたのだが、ナルカはパルカの手を離さなかった。


『ナルッカー!!』


「調子出てきたって言ってる」


『あばばばばばっ!? ちょ、ちょっと、ヤバ、これ、マジで』


『パルカは馬鹿もんねぇ、ナルカは卵もんよ。卵とは可能性の塊、底なしの器、無限の未来もん、元々原初の呪いだった事もあって、その容量は桁違いもん。いかに神といえど早くまいったしないと、吸いつくされるもんよ?』


『うっさいわね!! アンタも味わってみなさいよ!!』


やれやれと肩をすくめているマレッサの手をパルカは掴み、ナルカの吸収の巻き添えにした。

ギョッとした顔になったマレッサがパルカの手を振りほどこうとしたが遅かったようだ。

ナルカは構わずにマレッサの力も吸い込んでいった。


『なッ!? やめ、バカ、あばばばばばばばっ!?』


数秒後、ボフンッと小さな破裂音をたてマレッサとパルカが元の、元のと言っていいのか分からないが、元の毛玉と烏の姿に戻った。

さっきまでの美女の姿は眼福ではあるが、やはり見慣れた姿の方が何というか安心するな。


『あぁ!? またこの姿になっちゃったもん!! まだ余裕がちょっとあったもんのに、パルカ何巻き添えにしてるもんか!? お前が変な意地張ったせいでまた毛玉もん!! って誰が毛玉もんか!!』


『うっさいわね!! 自分で自分の言葉にツッコんでんじゃないわよ!! ただ、これでセルバの大樹は原初の呪いの浸蝕から解放されたわ、残ってる黒い木偶たちに同じ規模での浸蝕は不可能、一気に殲滅してデイジーの援護に向かうわよ、……いらないと思うけど』


『わっちたちがこの姿に戻ったから、わっちたちの祝福もじきに消えるもん、それまでになんとかなるもんか!?』


『なんとかなるじゃないわよ、なんとかするのよ!! 人間たち、分かったわね、もう私様たちの祝福はもって数分でなくなるわ、この姿の私様たちでも出来る限りの支援はしてあげるからなんとかしなさい!! 黒い木偶が減れば減る程、セルバの子たちも自由に動けるようになるわ!! ここが正念場よ、気合いれなさい!!』


原初の呪いに浸蝕された場所はなくなった、これで相手に増援はもうない。

だが、黒い木の人形や魔物、ゴーレムが合わせて数百体、そして侍がまだ残っている。

残り時間数分でそれら全てを倒しきれるか、微妙な所だ。

セルバの子、セルバの守護精霊やエルフのレフレクシーボさん、ドワーフのアウストゥリさんが加勢に来てくれればなんとかなるかもしれない。


「いったん、セルバたちの所に戻った方がいいんじゃないか!?」


「そうしたい所だが、ちょっと難しい。やつら、腹いせのつもりなのか、おれ様たちの所に集まってきてる!! おそらくセルバの大樹に散らばっていた奴らが全てだ!! まさにパルカ様の言葉の通り、ここが正念場だヒイロ君!! 君も小さいがナイフを持ってるんだ、全力で抵抗しろ!!」


ハーゲンの言葉に俺は大きな卵のナルカを抱えつつ、片手でボタクリさんに貰ったナイフの柄を握った。

ガキンッと激しくぶつかり合う金属音の後、ユリウスが俺たちの前に飛ばされてきた。

空中で体勢を整え、ユリウスは着地するがそのまま片膝をつき、荒く息を吐く。


「さすが原初の呪いの核たる存在です、全力のボクを相手にここまで戦えるとはッ!!」


ユリウスは全身傷だらけで、かなりの量の出血が見られた。

侍を見ると、その姿はもはや人のそれではなかった。

長く伸びた腕が数十本も生え、その腕一本一本に洋の東西を問わず、様々な種類の剣が握られている。

よく見れば、ハーゲンたちもあちこち傷だらけで、俺を守る為にここまでしてくれた事に申し訳なさを感じてしまう。


「みんな、俺なんかの為にありがとう!! でも、あと少しだけ頑張ってくれ、俺も頑張るから!! みんな、死なないでくれ!!」


「おうともさ!! ここまで来たんだ、誰が死んでやるかよ!! おめぇら気合入れろ、ここに敵が全部集まってるって事は、セルバ様たちは自由に動けるって事だ!! 加勢に来てくれるまで、死んでも死ぬんじゃねぇぞ!!」


俺とハーゲンの言葉にみんなが手に持つ武器をさらに強く握りしめ、雄たけびを上げる。

そして、俺たちは迫りくる黒い軍勢に向かって走りだした。


「あーあー、人間さんたちがカッコいい事言って、敵に突っ込んでる所悪いんですが、意味ないですよ? だって、あちしが生まれるんですからね」


ナルカの声がしたと思ったら、ピシッと何かが割れるような音がした。

それは俺が抱える大きな卵が割れていく音。

割れた卵の中から、小さな子供の手が出てきて、パァンッと一気に卵が砕け散った。


「ナルカか!?」


『ッ!? まさか、もう孵ったの!?』


『わっちたちの神力を吸って一気に孵化が加速したもんか!?』


驚く俺たちの前に黒いワンピースに身を包み、長く美しい夜のように深い黒髪の少女が姿を現す。

その少女は底なしの闇の様な瞳で俺を見下ろし、そして、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「きひ、どうも人間さん、初めまして? それとも久しぶり? あちしはどっちでもいいけれど、自己紹介は大事だしね。こほん、あちしは死の神パルカの娘にして妹、死の精霊のナルカ。今後ともよろしくね、人間さん」

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