83・その背中を守るのはって話
ユリウスが侍の突進からの振り下ろしの斬撃を受け流し、小太刀の横薙ぎの一閃を身をひねって器用にかわす。
そして、白い刀身の剣を再び分割して、バラけた刀身を光の糸で繋ぐ。
侍を取り囲むように動く白い刀身は空を舞う鳥のようでなんとも美しかった。
俺たちはユリウスと侍の横を走り抜け、原初の呪いに浸食された場所へと急いだ。
その時、襲い来るユリウスの剣を長刀と小太刀の二刀で捌いていた侍の背中から新たな二本の腕が生え、その腕には黒い弓矢があった。
「なんと!? そのような事まで出来るとはッ!!」
侍の持つ弓矢が俺を狙うのを見て、ユリウスは軽く舌打ちをした。
「させません!!」
蛇のようにうねる白い刀身が侍の弓矢に狙いを定めて動くが、それをさせじと侍は背中の腕で構える弓矢の狙いを俺に固定したまま、長刀と小太刀でユリウスに襲い掛かる。
侍の攻撃を防ぎながら弓矢を狙うのはさすがのユリウスでも難しいようだ。
「くッ!? ヒイロ君、なんとか避けてください!!」
ユリウスがそう言った瞬間、侍は引き絞った弓を離し矢が放たれた。
黒い矢は凄まじい速度で風を切り裂きながら俺に向かって飛来してきた。
咄嗟にマレッサとパルカが矢を防ごうとしたが、古の契約の為だろうか、一瞬動きが止まってしまい、反応が遅れていた。
ゆっくりと矢が向かってくるのが見える。
これって、死にそうになった時に時間がゆっくり流れるように感じるアレか?
って事は、死ぬのか俺?
唐突な死の予感にゾッとする。
死の視線を常にあちこちから感じていたせいで、少し警戒を緩めていたのかもしれない。
せめて、矢がナルカに当たらないようにと、矢の射線からナルカを外す為に動く。
その時、雄叫びをあげて近づいて来る何かに気付いた。
「うぉおおおおおおおおおおっ!! ハーゲンキャノンスラァーーーッシュ!!」
飛んでもない速度で横から飛んできたハーゲンの大剣の一撃が矢を粉砕した。
「ハーゲンさん!!」
「うぉおおおお、当たって良かったー!! 無事かヒイロ君!! って、ぶぎゃああッ!?」
矢を粉砕したはいいが、ハーゲンは飛んできた勢いを殺せずに太い枝に顔面から激突してしまった。
「だ、大丈夫ですか、ハーゲンさん!?」
「だ、大丈夫だ!! 問題ない!! ヒイロ君、急ぐんだ、おれ様たちがあのへんな鎧やろうの矢から君を守ってみせるから後ろは気にせず行くんだ!!」
鼻血を盛大に噴き出しながらハーゲンはそう言った。
俺は頷いて原初の呪いに浸食された場所へと走る。
「さすがハーゲンだぜ!! ここぞと言う時に頼れるカマッセ・パピーのリーダーだぜ!! いきなりバニニにおれ様を蹴れって言った時は変態かよって思ったが、信じてたぜ!!」
「ぬわー、リベルタ―でもそういう、いかがわしい店にこそこそ通っていたから、この状況でそんなプレイを頼むとかどういう神経をしているのかと思ったが、己の身を犠牲にしてまでヒイロ君を助けるなんて、すごいぞハーゲン!!」
「いやーん、つい気持ち悪くて本気で蹴り飛ばしたけど、結果オーライって感じでよかったわ!! さすがハーゲンさん、ハゲでブサイクだけど心はカッコイイわ!!」
いや、あの人たち褒めてるのか貶してるのか分からない事口走ってるな。
とは言え、ハーゲンが居なかったら俺は死んでいただろう。
「ありがとう、ハーゲンさん!!」
「へへ、気にするなヒイロ君!! おれ様もおれ様のやるべき事をやっただけさ!!」
恐らくバニニに尻を強打されたのだろう、尻を抑えながらのドヤ顔はちょっとカッコ悪い、だがカッコよかった。
『よくやったわね、人間。褒めてあげる』
『いやぁ、助かったもんよ。あいつの矢にまで契約が乗ってるとは思わなかったもん』
パルカとマレッサに礼を言われ、ハーゲンは感極まったのか涙を流していた。
「よっしゃああ、カマッセ・パピー!! 全力でヒイロ君を守るぞ!! 星神教のあんちゃん、そいつの弓矢は無視していいぞ、おれ様たちが防ぎきってみせるからな!!」
ハーゲンの言葉にユリウスはフっと笑みをこぼした。
弓矢への攻撃をやめ、真正面の侍のみに的を絞った攻撃へとシフトし、攻撃の苛烈さが更に増していった。
「よくぞ吠えました冒険者チームのリーダー!! ならばボクも全力でコイツをこの場に食い止め、滅ぼしてみせましょう!!」
俺が原初の呪いに浸食された場所に到着した時、俺の後ろにはカマッセ・パピーとチューニーの人たちが盾となって守ってくれていた。
「パルカ、マレッサ、ナルカ頼む!! ここを潰せば、セルバの大樹はもう安全になる!!」
『任せなさい。ただ、この姿を維持できるのもあと僅かよ。絶対に邪魔させないで』
『わっちも同じくもん。でも、ここを潰せばもう黒い木の連中たちは増えないもん。あとは殲滅するだけもん。気合入れるもんよー!!』
『ナルッカ!!』
ちらりと侍とユリウスの方を見た。
侍は更に腕を増やし、幾十、幾百の矢を放っていたが、俺はその矢から死の視線は感じなかった。
当然だ、頼れる仲間が俺の背中を守ってくれているのだから。