82・それぞれのやるべき事って話
「死に取り込まれし異界の勇者よ!! 星の神ステルラの名において、このボク、ユリウス・ヨアヒム・ツィーエがその憐れなる魂を冥域へと送り届けましょう!!」
ユリウスはそう言うや否や、自分の腕に絡みつく白い大蛇の口の中に手を突っ込んだ。
そして、一気に引き抜くとその手には白い刀身の剣が握られていた。
その剣にはいくつもの節が付いており、見た目だけならムカデのようにも見える。
「変幻自在、縦横無尽、蛇の如くうねる白蛇の剣エキドナの切れ味をその身に受けよ!!」
凄まじい速さで侍との距離を詰めたユリウスは真正面から侍に剣を振るった。
既に死んでいるからかそれとも余裕からか、侍は迫るユリウスの刃に対して慌てた様子もなく長刀で応戦する。
「甘い!! エキドナをただの剣と見誤った、それが貴方の失策です!!」
剣と刀がぶつかりあった刹那、ユリウスの叫びと共に白い剣がバラバラになってしまった。
てっきり、侍の刀に力負けしたのかと思ったがそうではないようだ。
白い剣の柄から光の糸が伸びていき、バラバラになった刀身一つ一つと繋がっていく。
ユリウスが素早く腕を動かすと、それに連動して光の糸でつながったいくつもの刀身がまるで生き物の様にうねりながら侍に襲いかかった。
侍は長刀と小太刀の二刀をもって高速で切りつけてくるユリウスの剣を弾くが、すぐさま別の角度から迫ってくる刃にだんだんと対処が遅れてきている。
ユリウスの刃を大きく弾いた後、侍はたまらずその場から離れたが、ユリウスはニヤリと不敵な笑みを浮かべ腕に巻き付く白い大蛇の頭を侍に向けた。
「距離を取った程度でボクから逃れられるとは思わない事です!!」
白い大蛇が口を大きく開いたと思ったら、その口から閃光と共に一筋の光線が侍へと放たれた。
侍はその光線を咄嗟に長刀で弾き飛ばし、弾かれた光線がセルバの大樹の枝に当たって爆発を巻き起こしていた。
「ほう、やりますね!! では、これはどうですかッ!!」
次の瞬間にはユリウスが侍の真上に飛んでおり、白い大蛇が先程より細い光線を幾筋も侍に放っていた。
光線を避けようとした侍の周囲を白い剣の刀身が既に囲んでおり、その動きを封じている。
逃げ道なしと判断したのか、侍は動かずその場で降り注ぐ光線の雨をいくつかは弾いたが、さすがに全てを弾く事が出来ずに次々と被弾していった。
小規模の爆発が無数に重なり、爆炎と煙がその姿を覆い隠してしまう。
ユリウスは少し距離を取った場所に降り立つと、軽く剣を振って元の一本の剣に戻し、その切っ先を煙の中にいる侍に向けた。
「これぞ、星の神ステルラより賜った輝きの力です。いかに勇者と言えどアレだけ白蛇の光が直撃すれば、ただではすまないでしょう」
「や、やったか!?」
ユリウスの言葉にハーゲンが声をあげる。
あ、それフラグっぽい。
そんな事を考えつつも、ユリウスの強さに俺が驚いていると隣に居るパルカがぶるりと体を震わせていた。
『あー、相変わらず気持ち悪いわねぇ。なんで蛇モチーフの武器なんて作るのかしら人間って』
『そう言えば、パルカはヘビ苦手だったもんね。生命と再生の象徴たる蛇を死の神が苦手って言うのはまぁ、分からなくはないもんけど』
『はぁ!? 私様に苦手な物がある訳ないでしょ!! 私様は普くすべてに死を与える死の神なのよ!! たかが細長くてにょろにょろしてて目が怖くて、ちろちろ出す舌が気持ち悪いって思ってるだけで苦手な訳ないじゃない!!』
そうか、パルカはヘビが苦手なのか、道理でユリウスから距離を取っていたはずだ。
星神協会とか関係なく、蛇が嫌だったのか。
普通に女の子みたいな所もあるんだな、まぁ俺も蛇はそこまで平気って訳じゃあないが。
『ちょっと人間、何よその目!? 生暖かい目で私様を見てるんじゃないわよ!! 神だって生きてるのよ、ちょっと嫌な物があるのは仕方無いでしょ!! マレッサだって火が苦手じゃない!!』
『まぁ、わっちは草の神もんからねぇ。火は相性悪いもんから、そういう意味じゃあ苦手もんよ』
『はぁ!? 何その言い方、属性的に苦手だけど、別にどうとも思ってませんけどーみたいな物言い、腹立たしいんですけど!! ちょっと人間、マレッサになんか言ってやりなさいよ!! 私様の信徒でしょ!!』
『またすーぐヒイロに甘える、その癖改めた方がいいもんよパルカ? 神としての威厳が損なわれるもんからねぇ』
『何よ、自分の方が神の威厳を保ってるとでも言いたげね!! 草の神の癖に野菜の苦みが苦手で肉ばっかり食べてる癖に!!』
『ああああ、それは言っちゃあ駄目もんよ!! 世の中、言って良い事と悪い事があるもん!! わっちの舌が子供舌ってバカにする気もんか!!』
駄目だ、この女神たち。
かなり緊迫してる状況なのに、凄くしょうもない事で喧嘩始めてる。
「ナルッカ?」
ナルカがこの二人は馬鹿なのかと言った気がした。
そのまま、答えると二人を傷つけてしまうだろう。
「いや、違う。マレッサとパルカは仲良しなだけだよ」
『『仲良しな訳がない』もん!!』
俺の言葉にマレッサとパルカは同時に答えた。
やっぱり仲が良いと思う。
「そう簡単には終わりませんか、さすがに異界の勇者ですね」
ユリウスの声に俺はハッとなって段々と晴れていく煙を見た。
完全に煙が消えると、そこには両手で馬を抱えている侍の姿があった。
いつの間に馬を持ち上げたのかは分からないが、どうやら白い大蛇の光線全てを捌けないと見て、咄嗟に馬を盾代わりにしたらしい。
とは言え、全くのノーダメージとはいかなかったようだ。
着ている鎧のあちこちが砕けていたり、ちぎれていたりしている。
体のあちこちから黒い煙を出してピクピクとしている馬を投げ捨て、侍は長刀と小太刀を構え、ユリウスに向けて突進してきた。
初めて自分から攻撃に転じた侍を見て、ユリウスは俺に叫んだ。
「ヒイロ君、異界の勇者はボクが食い止めてみせます!! 今の内にセルバの大樹を蝕む邪悪なる呪いの元へ、君のやるべき事をッ!! 」
「はいッ!!」
俺は侍が離れた原初の呪いに浸食されている場所に向けて全力で走りだした。