81・星神教徒ってみんなこうなのかなって話
「ユリウスさん……?」
「何も言わずともボクの聖星眼はセルバの大樹を包む様な濃厚な死の気配を見ています。そう、ボクがその封印を解こうとしたあの絵画、その中に封じられていた邪悪なる死をばらまく存在。森の神セルバや突如姿を現した死の神パルカと草の神マレッサ、この三柱の言葉からボクはボクが解き放とうとしていた存在が原初の呪いであると知ったのです」
相変わらずこの人は早口で喋る人だな。
というか、さっきユリウスは始まりは自分の失態、と言っていたがそんな事はない。
始まりはきっと俺なのだ、最初にユリウスと話をした時にパルカがデイジー叔父さんの元に移動した事で死の気配が移動した事を驚いていたユリウスに運命が変わったなどと適当な事を俺が言った事が始まり。
マレッサは俺が何かを背負う必要はないと言ってくれはしたが、さっきのユリウスの言葉にもあったように何か償いをしなければ、俺は俺を許せないと思っているのは確かだ。
だからこそ、今俺は俺に出来る事を頑張っている。
ユリウスが償いの一環として、セルバの大樹を見て回り避難出来ていなかった人を救助していたというのは驚きと共に感謝しかない。
一言でもお礼を言おうと思ったのだが、ユリウスは喋る口を止めない。
「原初の呪いとは、そう、星の神ステルラがその眩き輝きで空を大地を照らすよりも以前の世界で、古き神々がこの混沌としていた世界を形作っていたという創世の頃に産み落とした最初の人間が、痛みを悲しみを苦しみを妬みをあらゆる感覚と感情を、今後生まれる全ての人間の数だけ詰め込まれた事で気が触れ、世界を神を命あるモノ全てを呪い、呪いそのものに成り果ててしまったもの、世界で最初の呪い、オリジナルカース。人としての形を失った後も触れる者すべてに死を与え続け、神すらも死なせ、困り果てた古代の神々は自らの体を用い、新しき神、そうすなわち、天空に在りて何よりも尊き輝きを放つ星の神ステルラ様をご創造なされたのです!!」
「あのユリウスさん? 今はそんな悠長に喋ってる暇は……」
どうしよう、この人ホントに話が止まらない。
たぶん、原初の呪いと星の神ステルラに関係があるからこそなんだろうけれど。
たしか、ステルラが原初の呪いを冥域に封じたとか言っていたような。
気付くとパルカが物凄い嫌そうな顔して若干俺から離れてる。
「そして数多の神、数多の勇者、数多の竜が集い組織された神勇竜連合、通称『ラグナロク』。ラグナロクと原初の呪いとの戦いは熾烈を極め、数百年続いたと言われています。途方もない犠牲の数々、その犠牲者の数は神、人、竜を合わせて数十万、数百万を越えるとも言われ、一度人類の文明はこの時に完全に滅んだのです。星の神ステルラ様はその身の半分を失いながらも冥域の奥深くに原初の呪いを封じ込めた箱を埋め、慰撫し新たな命として生まれ変われるようにと祈り、願ったのです。それ以降、生まれる人間はあらゆる感覚とあらゆる感情を一人分ずつ持って生まれるようになったと言う事です」
ようやく終わったか?
中々長い話だった、敵も何もせずによく待ってくれたものだ。
まぁ、あの侍はこっちが攻めた時にしか動かないから、待ってくれたというのはちょっと違うのだが。
「ゆえに星神教徒であるボクには分かるのです、あの者こそが原初の呪いの核たる存在だと!! 星の神ステルラが封じたはずの原初の呪い箱から溢れた呪い、オリジナルカース!! 星の神の信徒たるボクが相手をするのはもはや宿命!! あの敵はボクが引き受けます。他の方は安全な場所からのサポートをお願いします!! そして、縁によって森の神セルバを助ける為に祝福を授けた死の神パルカ、その存在は滅するに値する物ではあれど、その行いは善のそれ!! 星の神ステルラもその善行を言祝ぐ事でしょう、故に此度は見逃します!!」
ユリウスの言葉にパルカがちょっとどころからかなりイライラしてる。
神の懐の大きさを見せて今回は見逃してあげてと、パルカに落ち着くよう頭を下げる俺。
カマッセ・パピーとチューニーの人たちは確かに疲弊しているが、いきなり出てきたユリウスがあの侍の相手を一人ですると聞き、少しカチンときたようだった。
ユリウスの実力がどのようなものかは分からないが、今更一人増えた所で、という感じなのかもしれない。
一人元気なハーゲンがユリウスに食って掛かった。
「おいおいおい、星神教徒のあんちゃんよ!! B級とC級の冒険者チームが神様たちの祝福や奥の手を使ってなお攻めきれない相手なんだぞ!! お前一人で相手なんて出来る訳が――」
「出来る、としたら? ボクはただの星神教の司祭ではありません。ボクは星神教大星堂所属であり、異端審問機関『星罰隊』の隊員にして、十三番目の星装具『アスクレピオス』を持つ者です」
「ッ!? 大星堂の武装司祭だってのか!? しかも異端殺しの星罰隊だと!?」
ユリウスの言葉にハーゲンが酷く驚いている。
そう言えば、前にマレッサやパルカもそんな事を言っていた気がする。
パルカは凄く毛嫌いしていたが。
「ボクの実力を理解いただけたでしょうか。では、ここに星の神ステルラの信徒として、邪悪なる原初の呪いを討って御覧に入れましょう!! ヒイロ君、アイツの相手はボクに任せて、君はあの神の体を浸食し汚す邪悪な呪いを!!」
そこでようやくユリウスは俺の方を振り向いた。
そして、俺の抱えているナルカ、両手で持たないと落としてしまいそうなほどに大きくなった死の精霊の卵に目をやった。
「死の気配が濃厚どころか、具現化して直接触れている!?!? ヒイロ君!? それ、え、な、何?? 普通じゃないよそれ!?」
「ナルカです、死の精霊の卵です」
「ナルッカ!!」
ナルカは元気に挨拶をした。
卵から少し大きくなった黒い手を出して、ユリウスに向けて振っている。
「キェエエエエエエエ!?!? しゃべったぁあああああああ!! 何で? 死の精霊?? 精霊の卵がなんで!? っていうか精霊って卵で生まれるの??」
『落ち着け星神教の人間、うるさいわよ』
「ぐべッ!?」
余りのうるささに業を煮やしたのか、パルカが自分の羽でユリウスの頭部をスパーンと叩いた。
それなりの威力だったらしく、ユリウスは叩かれた衝撃で足場の枝に顔面から突っ込んだ。
なんだか私怨が混ざっているような威力だな、と思ったが口にはしない。
『今はそんな些末な事を気にしている場合ではないはず。精霊が卵から生まれる、それがどうしたというのか。遥か古代の神々だって適当に泥遊びしてたら、なんか生き物生まれたって今のアンタみたいにテンパって、ヤベェよ、新しい生命体生み出しちゃったよ、まだ遊びたい盛りなのに認知何てしたくねぇよって騒いだものよ。まぁ、今はそんな事どうでもいいのよ、いいから今やるべき事に集中なさい!!』
いや、それはそれでかなり気になるんだが?
しかし、何故かハッとした顔になったユリウスは顔に付いた木くずを払って、ゆっくりと侍へと歩き出した。
「死の神に諭されるとはボクもまだまだ未熟、しかし感謝します。ボクは今ボクのやるべき事を、やり遂げねばならないのだと再認識できました。えぇ、やりますとも、やってみせましょうとも」
そう言って、ユリウスは胸から下げている星の様な形のネックレスをギュッと握りしめた。
すると、ネックレスを握った拳から光が溢れ出してきた。
「さぁ、星の神ステルラの祝福を受けし武装よ、今こそ星の神ステルラの威光を此処に示す時、邪悪なりし者どもに尊き輝きを見せる時!! 星装具『アスクレピオス』起動、星罰を執行する!!」
ユリウスが叫ぶと、更に光は強さを増し、辺り一面を白く塗りつぶす程の閃光となった。
閃光が収まった時、ユリウスに一匹の白い大蛇が巻き付いていた。