78・それぞれの切り札って話
一つ、二つと原初の呪いに浸食された場所を吸収して潰していくにつれて、黒い木の人形の数はだんだんと減っていった。
湧いて出る場所を潰しているのだから、当然ではあるが。
ただ、ちょっとした変化が出だした。
今までは人型だけしか出ていなかったのに、大型の獣や虫型の魔物、ゴーレムの様な物が現れるようになったのだ。
「この黒いゴーレム、やけに硬いぞ!! パンプルムッス、おれ様が食い止めてる間に足止め!! マリユスは浄化の炎で攻撃、焼け残ったらバニニ頼む!!」
「任せとけ!! 木の精霊よ我が矢に宿りて敵を拘束せよ!! バインドアロー!!」
「私の最大の炎魔法をぶつけます、余波に気を付けて!! 来たれ浄化の火精、穢れし死に安寧を与えたまえ!! ホーリーサラマンダー!!」
ハーゲンが黒いゴーレムに一撃を食わらせて仰け反らせ、その隙をついてパンプルムッスの放った矢が黒いゴーレムの足に刺さり、矢から生えた木の枝が足に絡まって身動きを封じた。
自分の足を拘束している木の枝を力任せに引きちぎろうとしている黒いゴーレムにマリユスの大きなトカゲの形をした炎の魔法が直撃、炎にまかれ一歩、二歩後退した黒いゴーレムにバニニが突っ込む。
「兎拳、三日月兎蹴りッ!!」
バニニの豪快な後ろ回し蹴りが黒いゴーレムの上半身を粉々に蹴り砕く。
細かく散った黒いゴーレムの破片はマリユスの炎によって浄化され、塵になって消えていった。
「よし、いいぞ!! あの黒い奴らの数は減ってる、このままヒイロ君たちを死守するんだ!!」
「さすがハーゲンだぜ、ナイス指示だ!! 今のゴーレム強さ的にはバーサークカブトムシ以上だったぜ!! これならA級冒険者チームも夢じゃないぜ!!」
「ぬわー、慢心するなパンプルムッス!! 今の私たちは神々の祝福や加護によって強力なバフがかかっている状態だ!! それに、まだまだ敵はいるんだ、油断せずに行こう!!」
「いやーん、ちょっとうち、足が痛くなってきたわ!! 人型の奴よりもゴーレムや魔物みたいなやつらの方が攻撃力も防御力も断然上!! 量より質って事ね!! みんな頑張るわよ!!」
相手の数は減っても、一体一体の力が増してきている事をひしひしと感じながら、カマッセ・パピーの人たちはまだどこか余裕を感じさせる。
チューニーの人たちも頑張ってはいるが、どこかきつそうに見えた。
「ハァ、ハァ!! 舞い踊れ、暗黒剣!! ソードダンス!!」
大型の黒い獣に対し、モッブスは宙を舞う四本の剣で応戦しているが押され気味だ。
素早い黒い獣の動きに翻弄されて、操る暗黒剣での対処が少しずつ遅れてきている。
「モッブス、大丈夫か!! 今、回復を、――うわっ!?」
モッブスを回復させようとしたヨー・ワイネンに一メートル近くある黒い蜘蛛が糸を放ち、それを妨害した。
糸をかわしつつ、ヨー・ワイネンは黒い蜘蛛を先に仕留めようと動いたが、黒い蜘蛛は自らの糸を利用して立体的な動きでヨー・ワイネンの攻撃をひらりとかわす。
「こいつ、ボクの攻撃を見切ってる!? くそっ!!」
ヨー・ワイネンがモッブスを助けようとすると糸で妨害し、攻撃してくると避けるなんとも面倒な動きをする黒い蜘蛛にヨー・ワイネンは翻弄されていた。
「少し、魔力を使い過ぎたか……、それでも!!」
「ラッテもそろそろ魔力切れかしらぁ、へとへとかしらぁ」
細身の剣に炎を纏わせて、襲い来る黒い獣や黒いワシを切りつけて対抗するゼロ・インフィニティー、どうやら魔力で作った剣で戦うのは魔力の消費が激しいらしい。
今の戦い方は省エネモードなのだろう。
ラッテの方は触手を何十本も持つ謎の生き物ではなく、溶解液の様な物を飛ばす謎の小さな生き物ニ体を召喚して戦っていた。
浸食された場所を潰し始めて二十分ほどは経っているが、まだ潰すべき場所は多く残っている。
このままでは、チューニーの人たちが危ないかもしれない。
「マレッサ、チューニーの人たちのサポート出来ないか? このままじゃあ、たぶん危なくなると思うんだ」
『そうもんね、わっちたちの祝福でバフがかかってたもんから、ペース配分を間違えたのかもしれないもん。今も出来る限りの祝福やバフはかけてるもん、これ以上の強化はアイツらの体や精神がもたなくなるもん。引き際くらいは弁えてると思うもんけど、アイツらが抜けると守りが手薄になって、厳しくなるのも事実もん。もう少し戦力が欲しいもんね』
『マレッサ、アンタの所の勇者、こっちに転移出来ないの? 一人でもいればだいぶん楽が出来るんだけど?』
『転移できそうなのはいるもんけど、お前の所の反撃がキツくてこっちに呼べる余裕はないもんねぇ』
『……あぁ、バルディーニが出張ってるのね。ならそっちはオラシオが出てるんでしょ、指揮官不在じゃ勇者の転移は安易にすべきじゃないわね』
『お前の方こそ、誰かこっちに呼べないもん? 双璧とは言わないもんから、魔王親衛隊の隊長格辺りを、こうちょちょいって』
『無理言わないでよ。転移魔法とか希少だし、第一貴族級の子たちは基本的に人間嫌いばかりよ。もし転移させたとしてもこの場の人間皆殺しにするわよ?』
中々物騒な人材ばかりなんだな魔王国……。
助っ人が期待できない以上、今いる戦力でどうにかしないといけない。
デイジー叔父さんも分身をこっちに飛ばすにはだいぶん距離があるし、あんな巨人を何体も相手にしているのだ、さすがにそんな余裕はないと思う、たぶん。
カマッセ・パピーがチューニーをカバーしつつ戦うスタイルに変えているみたいだが、それでも時間の問題だろう。
一旦引いて、休憩する必要があるのかもしれない。
「ヒイロ君!! おれ様たちの事は気にするな!! まだまだ潰すべき場所は残ってるんだ、中堅どころのB、C級の冒険者チームとは言え、神様からこれだけの支援を貰って無様を晒す訳にはいかないのさ!! そうだろみんな!! 神様が、守るべき者が見てるんだ、意地張ってカッコつけて、死ぬ気でやり遂げてみせようじゃあないか!!」
ハーゲンの言葉にカマッセ・パピーやチューニーの面々の顔付きが変わったように見えた。
「あぁ、その通りだぜハーゲン!! さすが私たちのリーダーだ、意地と根性だけならS級冒険者にだって負けやしないぜ!! 勿体なさすぎて使えなかった精霊石で出来た特性の矢尻をアイツらにぶち込んでやるぜ!!」
「ぬわー、それでこそハーゲンだ!! 私だって秘蔵の回復ポーションや切り札の使い捨ての強力な魔法札も全部投入するぞ!!」
「いやーん、ハーゲンさんカッコイー!! 顔はタイプじゃないしブサイクだけど、その心意気はイケメンだわ!! うちも奥の手、獣化使っちゃうわ!! ちょっと見た目がごつくなって嫌だけど、四の五言ってる場合じゃないわ!!」
カマッセ・パピーの面々が各々の隠し玉を披露しだしたのを見て、チューニーの人たちも何かを決心したかのように頷きあった。
「少し、侮っていたがさすがB級冒険者チームだな、地力は私たちよりずっと上だ。みんな、ここが正念場、出し惜しみしてる場合じゃない、竜装具『アルギュロス』を使うぞ!!」
「「「了解」」」」
チューニーの人たちが胸元をはだけさせ、素肌に埋め込まれている宝石の様な物に手を当て、深呼吸をした。
「「「「アルギュロス、着装!!」」」」
チューニーの四人が同時にそう叫ぶと眩い閃光が迸り、一瞬で四人とも銀色の全身鎧を身にまとった姿になっていた。
竜の意匠が施された兜の目元から赤い光を灯し、腰に下げた剣の柄を握る。
「竜剣抜刀、殲滅開始!!」
モッブスの掛け声と共にチューニーの人たちは剣を引き抜き、原初の呪いに浸食された黒い存在たちに突撃していった。
カマッセ・パピーの人たちも更に激しい攻撃を繰り出して、敵を圧倒する。
ふと、一人ポツンと立ち尽くすハーゲンの姿が目に入った。
「えぇ……なにそれ、みんなそんな切り札持ってたの……? おれ様のこの大剣、古代遺跡で拾った物だけど、あんな感じに凄くならないかな?」
大剣を色々いじっていたハーゲンだが特に何もなかったらしい。
ちくしょーと叫んで黒い存在に突っ込んでいった。




