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73・ほかの勇者はどうしてるのかって話6

「えぇ、では今日は魔法に関する等級についての解説をしていきたいと思います。教科書の三十九ぺージを開いてください」


腰が九十度曲がった長い髭の老人がそう言いながら手に持つ古めかしい杖を軽く振るう。

するとチョークがひとりでに浮かびだし、カッカッカッと小気味よい音を立てて、文字や図形を次々と黒板に書き込んでいく。

その様子を椅子に座った数十名の少年、少女が真剣な眼差しで見つめていた。

ここは魔法の蒐集を国是とする人間の国の中では最も古い国フォシルセレーブロ、その中で人材育成と戦力増強を担う学び舎『知恵の壺』の一室。

偉大な魔法使いになる事を夢見る若者たちに交じって他国の人間、正確に言えば異世界の人間が授業を受けていた。

マレッサピエーの勇者召喚により召喚され、その上で元の世界に帰る事を放棄し、この世界で生きる事を選択した勇者の一人。

名を芦屋晴流弥(あしやはれるや)、十五歳にして歴史の影に隠れ日本を支えてきた陰陽師一族の次期党首候補となった天才である。

彼は陰陽師として類まれな才能を持ち、十歳の頃には四聖獣を使役するという偉業を成し遂げるなど天才の名をほしいままにしていた。

しかし、陰陽師という生き方に退屈しており、いつしか普通の世界で生きる事を夢見るようになっていた。

今回のマレッサピエーの勇者召喚は彼にとってまさに僥倖、渡りに船であった。

世界は違うが陰陽師というしがらみから離れ、普通の生活を手に入れるチャンスが運よく舞い込んできた事を晴流弥はこの上なく喜んだ。

勇者という肩書に興味はなく、手に入れた勇者特権も彼が習得している陰陽術をより強くする程度の物でしかなかった。

召喚された後、不穏な空気を感じ取った晴流弥はすぐさまその場を離脱しようとしたが、その際に現れたデイジーという規格外の存在に面喰っていたら、デイジーの魔力の暴走で吹き飛ばされ、フォシルセレーブロに落下していた。

落下後についてきていたマレッサの分神体に対して、元の世界に戻るつもりはない事を伝えた事で、それを了解したマレッサは晴流弥の元を去った。

はれて一人の身となった晴流弥はまずは学校生活をする事にした。

元の世界では常に陰陽師としての修行の日々、学校などという存在は知識としてしか教えられず、同級生、授業、給食、昼休み、学校にまつわる事に彼は憧れを抱いていたのだ。

折よく、新入生を募集していた『知恵の壺』の入学試験を得意の陰陽術を活用し、実技試験では歴代最高点を叩きだし、筆記試験もまた式神を活用しカンニングしまくって、めでたく合格となった。

『知恵の壺』の生徒となって早数日、異世界の魔法という技術に目を輝かせていた。


「技術体系が異なると学ぶべき事が多くてよいな。素晴らしいじゃあないか魔法とやらも。魔力の運用はまだ完全に習得出来ていないが、呪力の運用よりは可愛らしい物よ」


彼は普通の生活を夢見ていたが、陰陽師として天才であった事で煽てられて過ごしていたが故にかなり尊大な性格に。

本人にその気はなくとも、どこか他者を見下すような物言いを連発し彼はハブられていた。

魔法を陰陽術の下であるかのように見ている点も同級生から遠巻きにされている理由でもある。


「えぇ、まず基本的に魔法は一等級から八等級、更にそれ以下の魔法の合わせて九つの位階があります。更に八等級以下を最低位魔法、七、八等級の魔法を低位魔法、四、五、六等級を中位魔法、三、ニ、一等級を上位魔法と呼んでいます。魔法ギルド魔議会で行われる定期試験に合格する事で低位魔法使い、中位魔法使い、上位魔法使いの資格を得る事が可能です。この『知恵の壺』に入学した皆さんには、是非とも上位魔法使いの資格取得を目指していただきたいと思います」


講師である腰が九十度曲がった髭の老人の言葉に生徒たちはざわめいた。

講師が言った魔法の説明は子供でも知っている様な事ではあるが、上位魔法使いの資格取得を目指せというのはかなりハードルが高い事を彼らは知っているからである。


「先生、上位魔法使いの資格取得には全等級の魔法を少なくとも五つ以上使用、制御できる事が最低条件だと聞き及んでいます。試験管によって複数人での戦闘を行うなど、試験内容は異なるとは知っていますが上位魔法を五つも取得しなおかつ制御すると言うのは、かなり難しいのでは?」


生徒の一人が挙手をして講師に質問をする。

講師は長い髭を撫でて、ふぉふぉふぉと笑った。


「それは当然。並みの者ならば数十年、才ある者でも十数年はかかる道のりです。魔法使いは中位までが現実的と言われる所以です。中位魔法使い十人がかりでようやく上位魔法使い一人と互角に渡り合える程にその実力は隔絶しているのですよ。そして私もそんな上位魔法使いの端くれという訳です」


晴流弥はあごに手を当て、ふむと声を漏らし講師である老人に敵意を飛ばす。


「では、講師グレグォール・ヴィルケ・シュミッター。貴殿を我一人で倒せれば、我も上位魔法使い、と言う事でよいのか?」


晴流弥の言葉に教室が静まり返る。

ただのイキッた学生の妄言と切り捨てるには晴流弥の実力は高く、入学試験において披露した力は試験管だった中位魔法使いの講師を凌駕していた。

晴流弥の実力が真に本物なのか知りたい生徒と上位魔法使いである講師にボコボコにされてその生意気な鼻っ柱をへし折ってほしいと思う生徒、その二種の生徒は講師が何と返すのか、沈黙をもって見守った。


「ふぉふぉふぉ、威勢が良いのは結構。君なら恐らく私に実践形式で勝つのはさほど難しくないでしょう。しかしながら、魔法使いという世界を甘く見ない事です。世界は広い、魔法ギルド魔議会に所属している上位魔法使いは百を優に超えていますが、それ以上の存在がいる事は有名ですがご存じですか?」


「それ以上の存在? ほほう、興味深い、続けよ講師グレグォール」


「上位魔法使いよりも上の位、極位、絶位と呼ばれる魔法使いたち、更に絶位の魔法使いの中でより強力な者たち十一名を称して『十一指(イレブン)』。魔議会、ひいては人類の切り札とされる存在です。『知恵の壺』の創設者であり、学校長でもあるジャンパオロ先生は絶位の魔法使いであり、『十一指』の序列十一位でもあります。生徒ハレルヤ、君なら数十年後には絶位に至れるかもしれませんね。楽しみにしていますよ。では今日はこのくらいにしておきましょう、では皆さん、さようなら」


楽し気に髭を撫でながら講師は教壇を降りて、教室を後にした。

晴流弥はニヤリと笑みを浮かべ、今聞いたまだ見ぬ強者へと思いをはせた。


「講師グレグォール、安い挑発には乗らぬか、それなりの使い手ではありそうだな。だが、それよりも、絶位に『十一指』か。クフフフ、心躍るではないか。我が普通の生活を送る前の景気づけに目指してもよいな」


普通の世界を夢見ておきながらこの物言い、実に矛盾している。

しょせん、晴流弥は血と恨みにまみれた裏の世界の住人でしかないのだ。

普通の世界を夢見る以上に、自分の技術がまだ見ぬ技術にどの程度通じるのか、陰陽術と同様にたやすく頂点に立てるのかどうか自分の力を試したい、という欲望には勝てはしなかった。

晴流弥はこの後『知恵の壺』の創設者であり学校長であり絶位の魔法使いであり『十一指』の序列十一位であるジャンパオロ・ネンチーニに戦いを挑み、数日にも及ぶ死闘の末、全力を出し尽くし辛くも勝利する事になる。

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