71・思いがけないパワーアップって話
『冗談はさておいて、現状かなりヤバい状況ネ。プナナに渡していた分割した神核から奴らはセルバの大樹に姿を現したネ。本体の方とパスを繋げたままだったからすぐに助けに行けたけど、原初の呪いは分割した神核から本体にまで浸食してきたネ。やつらはセルバの大樹を死なせて、死んだ部分を利用してあの黒い木人を生み出し、住民たちを襲い始めたネ』
『さっき見てきたもん、セルバの神官や冒険者なんかが抵抗してるからまだ死人は出てないみたいもんね。怪我人は、結構でてるみたいもんけど』
『アイツらは死んだワタシの体を依り代に今まで取り込んだ死を再現できるみたいネ。数万、数十万以上の触れたら死ぬ呪いを持った存在とか人間にはちょっと荷が重すぎるネ、今は魔法で死への耐性を高めたり、生命力増加させて対抗してるけど、いずれこちらの魔力が尽きたらそこで終わりネ。ワタシ自身も原初の呪いに抵抗はしてるけど、このままじゃあ死ぬネ』
『そうさせない為のわっちもん。わっちの本体は先日のリベルタ―の一件で神力をちょっと使いすぎてて原初の呪いを封殺できる程の神力はセルバに融通するのは難しいもん。そこで、ヒイロの出番もんよ』
神様同士の重要な会話だからと、聞き役に徹していたのだが、不意に名前を呼ばれちょっと驚く。
原初の呪いがセルバの死んだ体を利用してどんどん黒い土の人形や黒い木の人形を生み出して、人を襲ってるのは理解した。
その数は時間が経てば経つほど増えていく事も。
リベルタ―の一件ってのはデイジー叔父さんとセヴェリーノの闘いの時の事で間違いはないだろう。
だが、なんでそこで俺の名前が出るんだ?
いや待て、さっきパルカを全力で褒め称えた時にパルカがなんか凄い事になっていた。
マレッサ本体の神力が足りていないって事なら、俺が全力でマレッサを褒め称えれば多少なり神力の足しになると考えてのマレッサの言葉に違いない。
なら、俺がする事は一つだ。
全力で、マレッサを、褒め称え崇め奉りヨイショする!!
『まず、ヒイロにはセルバの――』
「マレッサのフサフサのその毛は絹糸の様な滑らかさと翡翠の如き煌めき放つ天上の美しさだ!! デイジー叔父さんにシャンプーで手入れしてもらってるから、毛質はきめ細やかで艶やか、しかもいい匂いだ!! その体の柔らかさは赤子の肌のもちもちぷるぷる肌にも負けず劣らずの至高の領域に達しているぞ!! 手足の爪の手入れも丁寧でデイジー叔父さんから貰ったマニキュアでこっそりおしゃれしてるのも知ってるぞ!! 手足もすらっとしてて肌も雪の様な白さで見惚れるばかりだ!! 声も可愛らしくて聞いていて癒される、語尾にもんを付けるのもキャラ付け頑張ってるなって微笑ましくなるぞ!! 紡ぐ言葉には神の威厳や優しさが溢れ、ツッコミもこなす万能さだ!! 色んな知識も豊富で沢山助けられてる、感謝しかない!! ありがとうマレッサ、マレッササイコー!! 草の神様なのにお肉が好きな所は野生的でカッコイイぞ!! よッ、ワイルド!! マレッサは俺の命の恩人だ、マレッサがピンチになったなら、俺は何をしてでも助けにいくぞ!! マレッサの為ならこの命、投げだしたって構わない!! 一生かけてでもこの恩は必ず返すぞ!! これからも一緒に居てくれ、俺の最高の女神様!!」
『ヒイロ!? い、いきなり何を――うっひょおおえぇあああああああああああひぃいいいいいいんッッ!!』
どうだ、俺の全力の誉めは!!
一息で一気にまくし立てたからパルカの時と同様に途中から何か変な事を言った気もするが、まぁいいだろう。
パルカの時のように俺の誉め言葉が効いて、少しでもマレッサの神力の足しになればいいのだが。
叫ぶマレッサの体が光りだして、パルカ同様に眩い閃光を放つ。
余りの眩しさに俺は目を開けていられなかった。
『うわぁ……これがヒイロの言葉の力ってやつネ。神体顕現する程の神力を賄う信仰とか、とんでもなさすぎるネ』
セルバが驚きの声をあげるのが聞こえた。
『あぁもう、いきなり何するもんかヒイロ。すっごくビックリしたもんよ』
少し大人びたようなマレッサの声、閃光もおさまっており、俺はゆっくりと目を開けた。
そこにはデイジー叔父さんとセヴェリーノをパルカと協力して別次元に封じ込めた時の人の姿をしたマレッサが立っていた。
パルカの時と同様に背中から美しい三対の羽が生えているが、その色は翡翠色だ。
マレッサは少し怒っている、というか困惑している様子だった。
「いや、俺の出番ってマレッサ言ってたから。俺に出来る事は褒めてマレッサやパルカに信仰を捧げる事くらいだから、てっきり」
俺の言葉にマレッサは額に手を当てて、軽くため息をついた。
あれ、俺なにか間違えたか?
『神の話は最後まで聞くもんよヒイロ。確かにヒイロの信仰はすっごく助かるもんけど。いきなり全力でやられるとちょっと神核に響くもん。今度からは事前に褒めるって伝えてほしいもん』
「分かった、マレッサ。いきなり褒め称えて悪かった。早合点し過ぎた。こんな状況の中で俺にも何か出来る事はないのかって焦ってた、済まない」
深く頭を下げて反省する。
どうにも気が急いて、暴走してしまったようだ。
マレッサはそんな俺の頭を優しく撫でた。
『ヒイロが焦る気持ちも理解はするもん。でも、それだけで問題は解決しないもん、冷静に物事を見極める事が大事もんよ。あと――』
不意に俺の頭を撫でるマレッサの手に力が入る。
いや、ちょっと痛いんだが?
『なんかいくつか変な事言ってなかったもんか? ワイルドって何もん、ワイルドって。それに、この語尾のもんはキャラ付けとかじゃないもん!!』
「痛い、痛い、痛い!! マレッサ、分かった、悪かった!! もう言わないから!!』
『マレッサ、ヒイロといちゃいちゃするのはいいけれど、時と場合を考えてほしいネ?』
『いちゃいちゃとかしてないもん!! まったく、何て事言うもんか』
俺の頭から手を放し、マレッサはセルバの胸、心臓の辺りに指を当てた。
緑色の光を放ちながら、マレッサの指先がセルバの胸の中に入っていき、手首から先が完全にセルバの中に入った。
すると、セルバの体の黒く変色している部分が普通の木に戻り始めた。
しかし、その代わりにマレッサの腕が黒く変色しているのに気付く。
「マレッサ!?」
『心配ないもんヒイロ。セルバの体を蝕む原初の呪いをこっちに移してるだけもんから』
そう言って、マレッサはセルバの体からドンドン自分の身体に原初の呪いを移していく。
俺はハラハラしながら、その様子を見ていた。