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7・正しくても受け入れられない事はあるよねって話

「ふむ、マレッサピエーの宰相に勇者召喚され洗脳されかかった所を空間を突き破って現れた叔父に助けられた。しかし、その後の宰相の発言に叔父が激しく激怒して魔力を暴走、城を吹き飛ばす程の大爆発を起こしてしまった。その衝撃で空間に穴が空き、神域に繋がった。その際にたまたま叔父と目があった草の女神マレッサ様に協力を要請し、マレッサ様と共に魔力の暴走に巻き込まれ各地に吹き飛んだ者たちを全て助けた。君がここにいるのもその爆発に巻き込まれ、そしてマレッサ様に助けられたから、と……」


改めて口に出して説明してみたが訳が分からないし、普通は信じられないよなぁ。

オークカイザーさんは腕を組んで、少し困ったように唸っている。

少し気になったのだが、オークカイザーさんはマレッサの事を様付けで呼んでいたが、やはり偉い神様なのだろうか。

このチョロ女神がなぁ……。


『なんか失礼な事考えてないかもん? バチ食らわすもんよ?』


「ワー マレッサ ハ メガミ ノ ナカデ イチバン カワイイナー」


『うひッ、本当の事とは言え、他の女神が守護する領域内でそこまで言っちゃあダメもんよ、まぁ事実だから仕方ないもんけどーうひょひょひょ!!』


やっぱり偉い神様には見えないよな、こいつ……。

小躍りする光る毛玉を若干冷めた目で見ていると、何か物音が近づいて来るのに気付いた。

それはオークカイザーさんも同じようだった。


「この気配は魔王国の駐在大使の物、魔力の乱れから何か慌てているようだ。ヒイロ済まないが少々待っていてくれ」


「あぁ、はい」


オークカイザーさんが立ち上がったと同時くらいに草むらから黒いローブを着た人物が飛び出してきた。

かなり慌ててここまで来たのだろう、ゼーハーと息を切らし、大きく肩を上下させていた。


「こ、ここにおいででしたかボリバルブディ様ッ! 火急の報告です!!」


「アルフィオ大使が自らおいでとはただ事ではないな。何事か?」


「本国の緊急査察が行われます! 間もなく査察官として獄炎のアンフェール・フランメ・バルディーニ様がいらっしゃるとの事です!」


駐在大使の言葉にオークカイザーさんが眉間にしわをよせ、険しい表情を浮かべている。

更に二言、三言話しをしてから駐在大使はオークカイザーさんに頭を下げ、俺に気づく事なく元来た草むらへ戻っていった。


「ヒイロよ、少々面倒な事になった。今すぐに去るがよい。ここより南へ数時間移動すれば魔王国と人間の国との狭間であるクリーメンという緩衝地帯にたどり着く。そこに人間の国から逃げた罪人の集落がある。そこならば人間の国へと渡る手段もあろう、これを」


そう言ってオークカイザーさんは拳ほどの大きさの小袋を俺に手渡してくれた。

かなり硬い手触りで石か何かが入っているのかと思ったが、石よりは軽い気がする。


「それはオークの秘宝と呼ばれる宝石、売ればそれなりの金になるだろう。もっていくといい」


オークの秘宝?

なんかお高い感じの宝石のようだが、そんな貴重な物をもらう謂れが俺にはない。


「オークカイザーさん、悪いけどこれは受け取れない。俺はそんな物を貰えるような事は何もしていないんだから」


「ヒイロよ、お前は最初にわたくしに言ったな。話し合おうと」


確かに話し合おう、話せばわかると言ったがアレはある意味命乞いというか悪あがきだったというか……。


「話し合いという提案をしてくれたことがわたくしにとって、どれほどの意味を持つかなどお前は分かるまい。ゆえにこそ、だ。ゆえにわたくしはお前にこれを渡すのだ。受け取れ、ヒイロ。我が友よ」


「違う! あの時言った話し合おうって言葉は、そう言うんじゃあないんだ! ただの命乞いで、俺はアンタを見た目で判断して、無駄と思いつつ言っただけなんだ、だから、俺はアンタが友と呼ぶには値しない人間なんだ!!」


オークカイザーさんはいい魔物だ。

勘違いで俺をいい人間のように思い違いさせたまま分かれるのはとても嫌だった。

俺の懺悔にも似た叫びを聞いてオークカイザーさんは笑った。


「それでも、だ。ヒイロよ、お前だけだったのだ。ブドの果実水を飲んでくれた人間は、お前だけだったのだ」


「――ッ」


少し涙目になりながら、俺はオークカイザーさんの指さした方角へと走りだした。

魔王国からの緊急査察、その査察官の名前を聞いてオークカイザーさんは険しい表情を浮かべていた。

たぶん、俺を探しに来たとオークカイザーさんは思ったんだと思う。

だから逃げる為の金に困らないようオークの秘宝なんて物を渡してまで俺を逃がしてくれた。

十分ほど走り続け、少しだけオークカイザーさんの居た森が小さく見えるようになった頃、俺は岩陰に隠れながら座り込んでいた。

さすがに休みつつではないと走り続けるのは無理だ。

オークカイザーさんがせっかく逃がしてくれたのだ、何としても逃げきらなければ。

デイジー叔父さんと合流できれば、なんとかなるはず。

その為にもどこでもいいから人間の国に行かなければ。

オークカイザーさんから貰ったオークの秘宝が入った小袋を握りしめ、俺は立ち上がり、南へ向けて走り出そうとしたその時。

森の方に炎の塊が落下していくのが見えた。

炎は地面に激突し、大きな衝撃と共に火柱を高く上げる。

それなりに離れたつもりだったが、それでも炎の熱が俺を襲ってきた。


「火の玉が森に!? じゃあ、あれが緊急査察の……」


これくらい離れていれば、おそらく見つかる事はないだろう。

オークカイザーさんに何事もない事を確認するくらいは問題ない、と思う。

念の為、岩の影から火柱の方を覗き見る。

火柱は熱波を辺りに撒き散らした後、だんだんと小さくなって消えていった。

この距離でもなんとかオークカイザーさんらしい人影は分かった。

その前に小さな人影がいくつか見える。

炎の熱の名残のせいか、少し蜃気楼のように揺らぐ人影を見ながら俺は汗をぬぐった。


「なぁ、マレッサ。遠くを見る魔法とかって使えるか?」


『そりゃあ遠見の魔法くらい初歩の初歩もん。出来ない方がおかしいもん。わっち女神もんよ、そんなそこらの子供でも使える八等級以下のザコ魔法が使えるに決まってるもん』


「オークカイザーさんの様子を確認したいんだが、頼めるか?」


『はぁ~? オークカイザーからさっさと逃げろって言われたの忘れたもん? この距離ならまだ気づかれてないもん。早く移動するもん。さすがのわっちもこんなしょぼい分神体だとそこら辺の魔族相手でも消耗して消えかねないもん。第一、魔王国内の問題もん、オークカイザーの善意を受け取って巻き込まれない内にさっさとトンズラもん』


あぁ、そうだな、マレッサの言ってる事は正しすぎるくらい正しい。

でも、正しいからと言って納得できるかどうかは別だ。


「あぁ、そうか。使えないんじゃあ仕方ないな。済まない無理を言った。悪い、ごめん」


『あぁん? 使えるっていったもん? 耳が遠くなったかもん?』


「分かってる。分神体をたくさん作って召喚された人たちを助ける為に無理をして力を分割し過ぎたんだよな。だから簡単な魔法も使えないんだろ? まさか女神様が初歩の魔法とやらを使えないほどに消耗してるとは思わなかったんだ、許してくれマレッサ。この通りだ」


そう言って俺は頭を下げた。

毛玉姿のマレッサがプルプルと震えている。

もう一押しかな?


「使えないんじゃしょうがない。早く移動しよう。子供でも使えるような魔法すら使えない状態の女神様に無理はさせられないからな」


ブチッ、という音が聞こえた気がした。


『――出来るっつってんだろうがぁアアアア!! オラァッ!! 遠見、ついでに遠耳の魔法だもん!! さっさと見て、聞いて逃げるもん!!』


そう叫ぶと、毛玉の姿のマレッサの前方になにやら複雑な模様が現れる。

魔法陣というやつだろうか。

しかし、大きな声で叫ぶと見つかるのではないかとヒヤヒヤしたが、どうやらマレッサの声は俺にしか聞こえてないらしく問題はなかったようだ。

魔法陣が淡く光ると空気が揺らぎ、バスケットボールくらいの大きさの円形の鏡が現れた。


「おお、鏡っぽいやつにオークカイザーさんとなんか髪を逆立ててる男がはっきりと映ってる」


『どうもん!! この程度、朝飯前もん!! ――ってあれ? わっちヒイロに乗せられたもん?』


「チョロくて助かるよ、さすがだなマレッサは。ありがとう」


『もうちょっと言葉を選べもん!!』

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