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65・油断大敵って話

現在、原初の呪い箱はマレッサの蔦、セルバの木の根に包まれた状態からデイジー叔父さんのラブリーギュッギュッにより超圧縮された上で、パルカの眠りの神位魔法で封じ込められている状態だ。

超圧縮された大玉は地面に直接触れないよう、マレッサのアイビーバインドという魔法で地上から五メートルほどの高さまで持ち上げられている。

大玉を持ち上げているのは地面から何百本も生えている蔦で、この蔦一本一本が鉄以上の強度を持っているというのだから驚きだ。

マレッサが言うには、このままなら二、三時間は時間が稼げるとの事。

それまでには神の援軍が来て、対処してくれるらしい。

今の所、人死には出ていない、被害らしい被害と言えばセルバの体が一部死んだ事とセルバトロンコを囲んでいた城壁がセルバの大樹によって積み木の様に吹き飛ばされた事くらいか。

順調だ、順調すぎるくらいだ。

俺は今、パルカの魔法で空中にいるのだが、大玉から数十メートルは離れているというのに、今もあの大玉から視線を感じている。

あんな状態でも俺を死なせる事くらいは訳ないって事だろう。

離れすぎているからなのか、視線が時折ブレて感じる事がある。

そこに、ほんの少しの違和感を覚えるのだ。

何かがおかしい、そんな気がする。


「なんだろう、この感じ……。なぁ、パルカなんかおかしくないか?」


『おかしい? 何がよ?』


「いや、よくわからないんだが、なんだか死の視線がブレる感じがしてなんか気になって……」


なぜそう感じるのか分からない以上、明確に何がおかしいのか伝えられない。

だが、確かに何かがおかしいのだ。


『気のせいと切り捨てるには人間の感覚はちょっとおかしいのよね。私様ですら気づかなかったナルカの視線に気づいてたし、原因はまぁ、その弱さ故だろうけど』


「えぇ……どういう事?」


『私様は神よ、その存在の強度は人間とは比較できるような物じゃないわ。デイジーちゃんは例外中の例外だから、除外するわよ。つまり、神に比べて人間は貧弱過ぎるのよ。その上、私様の加護も得てるでしょ? だから人間、アンタの感知できる死の感度は通常の三千倍はあるって訳よ』


「死への感度三千倍はなんかものすごく嫌な響きだな……。とりあえず、俺が弱い普通の人間で、更にパルカの死の加護を貰ってるから余計に死の視線に敏感って事でいいのか?」


『まぁ、そういう解釈で間違いないわ。で、そんな死に敏感な人間が違和感を感じてる。対象はもちろんデイジーちゃんの超圧縮と私様の眠りの神位魔法テロスヒュプノスでがちがちに封じられてる原初の呪い箱よね』


パルカの言葉に俺は頷く。

視線自体は原初の呪い箱が封じられているあの大玉からだ。

時々、ほんの一瞬ではあるが弱い視線が下にブレる時があるのだ。

つまりそれは、俺を死に至らしめる物があの大玉から落下しているという事になる、のだろうか?


『……マレッサ、あの大玉から黒い泥とか死の呪いに類する物は漏れてないわよね?』


『ん? 当然もん。見ればわかるもん、一滴すら漏らしてないもんよ。どうしたもん、いきなり』


パルカがマレッサに俺が感じた違和感を伝える。

マレッサは腕を組んでうーむと唸って、ジッと自分の魔法で呼び出した蔦を見つめだした。

数百本もある蔦を念入りに見て回るマレッサだが、何かしらの変化は見て取れなかったようだ。


『見た感じ、やっぱり変化とかはないもんねぇ。蔦の影に隠れて黒い泥が垂れてるとかもなかったもん。ヒイロの死への感覚が鋭敏なのはナルカの件で理解してるもんけど、今回は強すぎる死の気配にあてられて、感覚が変になったんじゃないかもん?』


「あぁ、そうだな。そうだったらいいんだが……、なぁパルカ、俺をもう少しあの大玉に近づけてくれないか? そうしたら、たぶんハッキリ視線が分かると思うんだ」


俺の言葉にパルカは首を横に振る。


『やめときなさい人間、この距離でも結構危ないのよ。強すぎる死の気配は心や魂に悪影響を与えるわ。心や魂が死に飲まれたら、引きずられて体も死ぬわ』


「俺が死んでもパルカが助けてくれるんだろ? それならちょっとくらい――」


不意に頭をパルカに突かれた。

結構鋭い嘴なので割と痛い。


『馬鹿な事言うと突っつくわよ。普通の死と原初の呪いでの死は別物と知りなさい。冥域に落ちて輪廻の輪に戻るのと、原初の呪いに取り込まれて、幾十万の怨嗟の声と共に自らが死の呪いになるのとじゃあ死の意味合いが異なるわ。ナルカみたいに自我を持った呪いなんていう例外でもない限り、幾十万の死の呪いの塊の中からアンタだけを救い上げるのは、さすがの私様でも不可能だわ』


突っついてから突くわよと言われても、と反論したかったが真面目な声色のパルカの圧に押され、俺は黙るしかなかった。

俺が黙ったのを見て、パルカは小さくため息をついた。


『人間、アンタが死んだらデイジーちゃんが悲しむでしょ。私様も信徒であるアンタが死の呪いになんかなったら、それなりに、そうね、たぶん、少しくらいは、きっと悲しくなるかもしれないわね』


「……うん、無理言って悪かった。デイジー叔父さんやマレッサ、パルカたちみたいな凄い人たちを近くで見てると、つい俺も少しはなにか出来るんじゃあないかと、ふと思ってしまうんだ。気を付けるよ」


『人間、アンタを無力だとは言ってないわ。アンタにはアンタにしか出来ない事もあるわ。意味もなく自分を卑下しすぎない事ね』


そう言ってパルカは俺を慰めるみたいに羽で軽く頭を撫でてくれた。

なんだか気恥ずかしかったが、その時、また死の視線が下にブレたのをハッキリと感じた。

弱い視線じゃあない、割と強い視線だ。


「マレッサ、やっぱり気のせいじゃあない!! 死の視線が下に移動してる!!」


『どういう事もん!? 蔦の周りに黒い泥は見えないもんよ!!』


確かに蔦の外見に変化は見られないが、死の視線は確実に地面へと到達し、一気に周囲に広まったの感じた。


『なにこれ、地面の下に一気に原初の呪いが広まった!? 私様でも感じられるくらいの死の気配ですって、どうなってるのよ!!』


大玉を中心にした半径数メートル内の地面が黒く変色し、ドロリと黒い泥に変化していく。

そして、黒い粘液状の触手が、地面から凄まじい速度で飛び出してデイジー叔父さん目がけて襲いかかる。

突然の事で虚を突かれたのか、ラブリーギュッギュッによる超圧縮のし過ぎで疲れていたのか、それとも自分には問題ないと思って油断していたのかは分からないが、デイジー叔父さんは黒い粘液状の触手をかわす事が出来ずに、その両手を飲み込まれてしまった。

ジュウッという肉が焼けるような嫌な音と共にデイジー叔父さんの両手から黒い煙があがる。


「い、いやぁあああああああああああああああ!!」


ひと際大きな悲鳴が衝撃派と共に轟いた。

その声は信じがたい事にデイジー叔父さんの悲鳴だった。

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