64・ここまでは順調って話
俺が離れていくセルバの大樹を呆気に取られつつ眺めている間にも、デイジー叔父さんとマレッサはアイビーバインドによる原初の呪いの封じ込めとラブリーギュッギュッによる超圧縮を繰り返しており、超圧縮された空間が元に戻る反動で発生する衝撃波が何度も俺に襲いかかっていた。
一回なら割と耐えられたが、何回も繰り返されるとさすがに体の節々に痛みが蓄積されていくというものだ。
『これくらい圧縮すれば二、三時間は大丈夫と思うもん。ていうか、もうこの大玉の質量がおかしいレベルもん。強度とかもう鉄とか鋼とかじゃなくてもうオリハルコン級くらいになってないかもん? なんで鉄並みの強度を持つだけの蔦がオリハルコン級の強度になるもん?』
鉄並みの強度の蔦というのも大概だと思うが、オリハルコンは元の世界でもゲームとかでよく出てくる単語だ。
伝説上の鉱物でその硬さは最強クラスだったはず。
ほんの少し前まで蔦と木の根の大玉はデイジー叔父さんに超圧縮されてビー玉程度の大きさになっていたはずなのだが、今見るとその大きさが超圧縮をかける前と同じくらい、数メートルの大きさに戻っていた。
だが、その表面は蔦とか木の根などには見えず、鉱物の様に黒々とした光沢を放っている。
恐らく何度も超圧縮をした事で、蔦や木の根がその形を保てなくなり、別の物質に変質したのではないだろうか。
うん、ちょっと小難しい事考えて、目の前の現実から目を背けようとしたけど、俺バカだから、無理だ。
つまり、あれだ、デイジー叔父さんが凄いパゥワーでギュってしたら、なんかすごく硬く出来たって事だな、うん。
「オリハルコンって人の手で作れるんだな、凄いなデイジー叔父さん」
『馬鹿な事言ってないで、私様とマレッサを褒め称えて崇め奉りなさい人間。今の内に少しでも信仰バフを盛って、あの玉の上から魔法も重ね掛けして原初の呪い箱の封じ込めを強めるわよ。あれだけやってもまだ原初の呪いは健在よ、デイジーちゃんの力をもってしても完全消滅は無理とはね。まぁ、普通は力技で数時間も封じ込めるだけでも十分過ぎるくらいに異常なんだけどね』
「よく分からないけど、分かった。どんどん褒めるぞ!!」
俺はとりあえずマレッサとパルカを褒め称えた。
可愛いとか美人だとかフワフワしてるとかちょっと妖怪みたいとか嘴がセクシーとかすね毛の処理完璧とか、色々褒めた。
『いや、わっちだけなんか褒める方向性おかしくないかもん?』
「そんな事はない、マレッサにしかないマレッサだけの強みで素晴らしい個性だぞ、誇らしい事この上ないぞ!!」
『そ、そうもんか? うひょひょ、まぁそう言われれば悪くないような気もするもんねぇ』
「そう言うチョロい所は心配になるが、マレッサとパルカのいい所でもあるぞ!!」
『今、私様もなんかディスらなかった?』
「パルカは可愛くてフワフワ抱き心地が素敵ー!!」
『んほ、いいわよいいわよ、もっと褒め称えなさい人間』
そんなこんなで数分間褒め続けていると、マレッサとパルカがなんか変なオーラを体から放ち、シュインシュインみたいな音が鳴ってる。
なんかスーパーマレッサとか言い出しそうな感じだ。
『あともう少しで壁を越えれそうな感じもんねぇ。あともう少しで次の段階に上がれそうな気がするもん』
『そうね、今まで以上に神力の高まりを感じるけど、あと一歩足りない感じね。それを越えたら次の段階の神格に上がれるはずよ』
次の段階、マレッサが以前言っていたが、このまま成長していったら分神体のマレッサが本体であるマレッサの眷属神になれるらしい。
つまり分神体のマレッサやパルカが新しい神様になるって事だ。
ただ、このまま俺が褒めるだけでは二人が言っている壁とやらは越えられないだろうとの事。
神様ってよく分からないな。
「とりあえず、信仰バフとやらが盛れたんだよな? 次はどうするんだ?」
『わっちとパルカで封印術をあの大玉にかけるもん、そうすればより強固は封印になるもん』
『とは言え、それも時間稼ぎに一環でしかないわ。本命は神域からの神たちの援軍よ。援軍さえ来たなら、私様たちはこの場を離れても問題ないわ。いかに神すら殺す原初の呪いでも複数の神々の神位封印魔法をもってすれば再封印は可能なはずよ。封印の鎖がある状態なら断章の魔法が使える人間が何人かいれば、抑える事くらいはできるだろうけど』
『まぁ、ともかく封印魔法食らわすもん。パルカが主体になるもん、わっちがサポートするもん』
『属性的には当然ね。私様なら、あの死をある程度は抑え込めるわ。死の神を舐めるんじゃないわよ』
全身からオーラをみなぎらせているマレッサとパルカが数メートル規模の大きな魔法陣を空中に描き、デイジー叔父さん製のオリハルコン玉に向かって封印魔法を放つ準備を整えていく。
『死に近き物をここに、永遠なる夢への旅路、尽き果てぬ無限の眠り、神位魔法テロスヒュプノス』
とても静かで奇麗なパルカの声に聞き入っていると、不意に強烈な眠気に襲われた。
まぶたが重くて仕方がない、意識が上手く保てない。
意識を手放す瞬間、誰かの声が聞こえた。
「お人好しでおバカな人間さん、寝たら一生起きれないよ?」
その声で一気に目が覚めた。
今の強烈な眠気は恐らくパルカの使った神位魔法の余波みたいな物の影響だろう。
リベルタ―でデイジー叔父さんとセヴェリーノに神位魔法をマレッサとパルカが使った時もなんか凄い調子が悪くなったし。
『パルカ、ちょっとはヒイロに配慮したらどうもん? 死の加護を授けてるから影響は少ないはずって思ってたもんね? ヒイロの信仰バフが思ってたより強力で加減間違えたもんね?』
『……』
マレッサの言葉にパルカは顔をそむけていた。
何か小さな声でパルカが喋っているが聞き取れない。
『はぁ!? 聞こえないもんねぇ、謝るならはっきりと大きな声で言った方がいいもんよぉおお!!』
『うっさいわね、バカ!! 悪かったわよ人間、私様の加護もあるし、ナルカの卵も持ってるから影響は小さいと思ったのよ!!』
ナルカの卵、今も懐に入れて孵るのを待っているのだが、もしかしたらさっきの声はナルカの物だったのだろうか。
夢から覚めた様な感覚であの声がどんな声だったか、もうすでに記憶が薄れている。
だが、ナルカが声をかけて俺をちょっと助けてくれたんだとすれば、それはなんだか嬉しくもある。
だから、あの声はナルカだったのだと思う事にした。
「まぁ、こうして生きてるし、いいよ別に」
『下手したら一生寝てた可能性があったもんのに?』
「……ま、まぁ結果オーライだ。うん、パルカ俺は気にしてないから、そんな涙目になるな」
『泣いてないわよ!! 目にちょっとマレッサの毛が刺さったのよ!! この剛毛女神!!』
『なんでそこでわっちを標的にするもん!? お前が安全確認せずに神位魔法ぶっ放したのが悪いもんよ!?』
言い合うマレッサとパルカ、それに巻き込まれる俺を見て、デイジー叔父さんはニコニコと笑っていた。
「うんうん、仲良き事は美しきかな、ってやつねぇん」
デイジー叔父さんの超圧縮とパルカとマレッサによる神位魔法での封じ込め、これで援軍の神様たちが来るまで時間を稼げるといいのだが。