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63・やっぱ異世界すごいなって話

パルカの魔法で空中を移動中、ふと気になった事を聞いてみた。


「なぁ、パルカ。さっきの木の人、なんでパルカが見えてたんだ? わざわざ波長ってのを合わせたのか?」


『違うわよ。言ったでしょ、セルバの神官だって。アイツらはセルバの神核に適合した存在、普通の人間よりも私様たちに近い存在よ。だから、そのままでも私様が視認出来てたのよ』


「神核に適合した?」


『実体化した神の一部を体に取り込む事で神に近づく儀式ってのがあるのよ。さっきの神官たちでも適合率は二割って所ね。人間性は多少失ってるかもしれないけど、それだけ神に近づいたって事よ』


実体化した神の一部を体に取り込む、つまり神の一部を食べたって事だろうか。

この世界ではよくある事なのかもしれないが、俺にはなかなか理解しがたい行為ではある。

うーむと俺が唸っていると、原初の呪い箱のある場所の空中でパルカは止まった。


「ん? 俺も避難した方がいいんじゃないか? 俺がいてもデイジー叔父さんやマレッサ、パルカの邪魔にしかならないと思うんだが」


『人間、それ本気で言ってる? アンタには私様やマレッサを褒め称えて崇め奉るって信徒としての役目があるのよ。アンタのそのよくわかんない信仰は不思議と力が湧くのよ。自分の良くわかんない力を自覚なさい』


よくわかんない力を自覚しろと言われても……。

だが、俺の割と雑な誉め言葉でマレッサやパルカの力が増したというのは確かだ。

こんな俺でも役に立てるのなら、このよく分からない力をよく分からないなりに活用していこう。

決意を固め、俺は握りしめた拳にギュッと力を籠めた。

黒く変色していく蔦と木の根の大玉を新たな蔦や木の根が更に覆っていくが、覆ったそばからすぐに黒いシミが広がっていく。

明らかに変色していく速度が増してきている、中に封じている原初の呪い箱から溢れる黒い泥の量が増えてきているのだろうか。

そんな蔦と木の根の大玉の様子を見ながらデイジー叔父さんとマレッサが何やら話をしていた。


『デイジー、アレを封じ込めたり、消し飛ばしたりとかできないもん?』


「そうねぇん、あたくしのラブリーギュッギュッで超圧縮したり、ラブリービンタであの黒い泥を跡形もなく消し飛ばすのは簡単よぉん、でもそれじゃあたぶん意味ないわねぇん。この間のナルカちゃんの一件でアレに目を付けられたみたいなのよねぇん。たぶんどんな状態になっても、死という概念がある限り、アレはあたくしの元にやってきちゃう気がするわぁん、その場合、アレの通り道になった場所は酷い事になるでしょうねぇん。あぁん、あたくしの美しさが死の呪いすら引き寄せてしまうのねぇん、美しさって罪だわぁん!!」


『そ、そうもんか、わかったもん。とりあえずそのラブリーギュッギュッとやらで、超圧縮して時間を稼いでほしいもん。あの黒い泥が少しでも地面に垂れたら、その分セルバの体が奪われると思ってほしいもん。あぁ、一応言っておくもん、あの黒い泥に触ると人間はもちろん、精霊とか神でも普通は死ぬもん』


「分かってるわぁん、心配してくれてありがとうマレッサちゃん。大丈夫よ!! 愛のパゥワーに不可能なんてないんだからぁん!!」


『いや、もしアレに触れてデイジーが死ななかったら、ガチめにドン引くから出来ればそこは普通に死んでほしいもん、いや、死んでほしい訳じゃないもんよ、そこは誤解しないでほしいもん。心の底からデイジーには死んでほしくないもんけど、もしアレに触れたら人間としてそこは死んでほしいもん、何回でも言うもんけど、決してデイジーに死んでほしい訳じゃないもんからね、ほんと』


マレッサの言わんとしてる事はなんとなく分かる。

神様すら死ぬと言われても、デイジー叔父さんなら……っていう確信めいた物が脳裏をかすめるのだ。

とは言え、そんな事を試すなんてのはもっての外だ。

恐らく大丈夫な気はするが、決してあの黒い泥には触れてほしくない。

それなりに離れているのに凄まじい視線を感じているのだから、少なくともアレは俺に死をもたらすってのは確実だ。


「うぅん? マレッサちゃんったらよく分からない事を言うのねぇん、神様ジョークってやつかしらぁん? と・も・か・く、そろそろセルバの大樹が動き出しそうだし、あたくしの愛のパゥワーで時間稼ぎをするわよぉん」


「デイジー叔父さん、何をするのか分からないけど頑張って!! 俺、応援くらいしかできないけど!!」


「うふん、最愛の甥の応援程、愛がみなぎるモノはないわぁん!! はぁああああああああああああッッ!」


デイジー叔父さんが大きく両手を広げ、全身に魔力をみなぎらせていく。

空間が歪んで見えるほどの高濃度の魔力、ゴゴゴゴという地響きと共に地面がひび割れて、いくつもの小石が膨大な魔力の余波で宙に浮かぶ。

そして、その高濃度の魔力を両の掌に集め、グローブの様に魔力を掌にまとわせたデイジー叔父さんは一気に蔦と木の根の大玉との距離を詰めた。


「ラァアアアブリィイイイイイイッッギュッギュッッ!!」


そう叫びながら、デイジー叔父さんは高濃度の魔力をまとった両の掌で、数メートルはあろうかという蔦と木の根の大玉を周囲の空間ごと愛で包み込んで超圧縮し、ビー玉程度の大きさにしてしまった。

無理矢理超圧縮されていた空間が元に戻った反動なのか、雷鳴にも似た轟音と共に衝撃が俺の体を突き抜けていった。


『……相変わらず人間技じゃないもんねぇ』


マレッサが超圧縮された蔦と木の根の大玉、もはやビー玉程度の大きさになっているのだが、それを改めて蔦で素早く包み、地面に触れないようにする。

その時、ズンッという轟音が響き、地面のひび割れが大きくなって一部の地面が隆起し始めた。

激しい地響きと共に木々が倒れ、大きな木の根が地表に姿を現わす。


「な、なんだ!? デイジー叔父さんのラブリーギュッギュッの反動!?」


『いいえ、違うわ人間。セルバの準備が整ったのよ。ほら、見てごらんなさい』


「え?」


パルカがその嘴を向けた方向、セルバの大樹の方向に目をやると、セルバの大樹が大きく揺れ動き、おびただしい量の巨大な根が、一つの都市を内包するセルバの大樹を持ち上げていく途中だった。

高さが何百メートルもありそうな大樹が自身の根でその幹を持ち上げている。

途方もないスケールの大きさに俺は絶句してしまう。


『準備完了ネー!! ちょっとセルバの大樹を動かすネ!! 周囲百メートル程をワタシから切り離したから、死の呪いを含んだ黒い泥が多少垂れても問題ないネ!!』


どこからかセルバの声が響き、俺たちにほど近い枝が幾つも絡まり合って人の形を作っていく。

女性的な形になった木の枝が俺たちに向けて手をひらひらと振った。

今はあの部分にセルバが宿っているのだろうか?


『ワタシの子たちー、ちょっーっと派手に揺れるネ!! しっかり何かに掴まってるネー!!』


そう言うや否や、セルバの大樹の根がドゴンドゴンと地響きを立てながら、一本、また一本と動きだし、セルバの大樹本体を移動させ始めた。

セルバの大樹を囲んでいた城壁を積み木を壊すかのように粉砕し、進路上の木々を豪快になぎ倒しながら、セルバの大樹は土煙をあげながら、だんだんとこの場から離れていった。


「……異世界ってすげぇな」


俺はそう言うので精一杯だった。

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