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57・俺らしくないとは思うんだけどって話

ユリウスは原初の呪いが写っている写真を持って興奮している。

そんなユリウスを前にマレッサに絶対動くなと言われてしまい、なんとももどかしい気分だ。

せめて、現状の整理をしよう。

そこから、何とか穏便に事を治める方法を思いつけばいいのだが。


「何にも出来ないってのは嫌なもんだね、ホント……」


誰に言うでもなく呟いて、自嘲気味に笑う。

あの写真には原初の呪いが複製され、弱いとは言え同じ効果を持っていた。

その呪いの複製が自我を持った存在ナルカはデイジー叔父さんやパルカのおかげで死の精霊に転生し、今は精霊の卵の状態だ。

あの写真にはパルカが言うには時間がたてば消え去るような呪いの残滓しか残っていない、つまり封印の施された額縁に入っている写真はいわば呪いとしての核を失い、もはや呪いとすら言えない負の気が留まっているだけのようなものだ。

しかし、死の気配が見えるというユリウスがあの写真に死の気配を見て取ったというのはどういう事だろうか。

あの写真には誰かを死に至らしめるほどの呪いはもう無いはずなのである。

なんだか嫌な予感がする。


『星神の信徒よ、この大地はワタシであり、ワタシこそが大地だ。そして法であり絶対の存在。そのワタシがそれをこの地に持ち運ぶ事を許したのだ。貴様がそれをどうこうする事はワタシに反逆する事に等しい。なにより貴様の持つそれが千や万の命を食らう呪物であろうと、その程度の矮小な呪いを飲み込めぬワタシではない。貴様の民を思う気持ちは汲んでやるゆえ、それを置いてワタシの地から、疾く去ね』


頭に直接響くようなセルバの声と共に周囲の空気が重くなった。

ユリウスがその重さと圧に耐え兼ねて膝を折る。


「傲慢不遜なる神よ、大地母神より分かたれた森の神セルバよ!! ボクの人思う心がこの程度で折れるとでも思ったか!! この絵はお前が思っているよりも危険な物だ!! この絵に描かれている物は星神ステルラが冥域へと封じた原初の呪い箱に相違ない!!」


『その程度の事は既に知己より聞き及んでいる、その上での判断だ。今日のワタシはとても機嫌が良い、本来ならばその四肢引きちぎっても飽き足らぬが許す。貴様の愚行を全て許す。ゆえに疾く去ね、三度は言わぬぞ』


「あぁ、去るとも、この絵を破壊した後でな!!」


セルバの圧に耐えながら、ユリウスが杖の先端を写真に向ける。

そして何やら呟きだした。

それを見たカネーガが慌ててユリウスに駆け寄ろうとして護衛チームのハーゲンに止められた。


「いかん、やめろ貴様!! その絵が一体幾らしたと思っている、そして幾らの価値が付くと思っている!! 金貨八百枚はくだらん品だぞ!!」


「危ない、カネーガさん!! あいつの唱えてる呪文は二等級魔法だ!! 下手したら巻き込まれる!!」


セルバがため息をついて、右腕をあげ、その腕をユリウスに向けて降ろしていく。

あの腕が完全に降りたら、デイジー叔父さんが言っていたエルフの長レフレクシーボさんとドワーフの長アウストゥリさん、そしてセルバの守護精霊二人がユリウスに何かをする。

セルバはユリウスが大規模な自爆魔法を自分に仕込んでいる事を分かっているのだろうか?

ユリウスとはほんの少し話しただけの間柄だ、友達でもなく知り合いと言えるかも怪しい。

とは言え、このままでいいのか?

あぁ、そうだな、いいわけがあるか!!


「カネーガさん、あの絵、俺が買います」


「君は!?」


「ッ!?」


「な、なんだと!?」


『……』


俺の言葉にユリウス、カネーガ、ハーゲン、セルバの動きが止まった。

心臓がバクバクと大きな音を立てているのが分かる。

しかし、もう口から吐いてしまった言葉だ、飲み込む事は出来ない。

マレッサとパルカが何やってるんだと騒いでいるが、今は無視する。

セルバの圧はいまだそのままで空気は重いが、口だけでやれるだけやってやるさ。


「カネーガさん、あの絵、金貨八百枚はくだらない品っていいましたよね」


「あ、ああ言ったが……。しかし、買うと入っても君はそんな大金を持っているようには見えんし、だいたいあれは今度の競売の目玉だ、たとえ金貨八百枚を出されたとしても簡単に売る訳には――」


「デイジー叔父さん、あれ出してもらっていい?」


俺の言葉にデイジー叔父さんはやれやれと言った風に肩をすくめて、懐から布袋を取り出して俺に投げ渡してくれた。

受け取った布袋から俺はある物を取り出した。

あの人は好きに使えと言ってくれた、今が使い時かどうかは分からないが、迷うくらいなら今使ってしまおう。

商人であるカネーガなら当然のようにこれの価値が分かるはず。


「これで、太陽の涙石でなら売ってもらえますか?」


「太陽の涙石だとッ!! こ、この特有の輝き、この独特の魔力紋、間違いない本物の太陽の涙石!! だがこんな大きさの物は今まで見た事がない!!」


俺は驚くカネーガの手に太陽の涙石を置き、ユリウスの前へと進む。


「ユリウスさん、その絵はこの瞬間俺の物です、そして俺はそれをユリウスさんに譲ります」


「き、君は一体何を言って……」


「セルバ様、これでこの絵はユリウスさんの物です。自分の物をどうしようと本人の勝手ですよね。貴女が手を下すような事じゃあないですよね」


呆然とするユリウスと周りの人たちを無視して、俺は腕を組んで様子見をしているセルバに声をかける。

カネーガはたぶん問題ないだろう。

太陽の涙石は小さな都市を一つ買えるとマレッサが言っていたし、あの写真以上の価値は十分にあるはずだ。

問題はセルバの方だ。

俺の行為はセルバの決定、ユリウスを排除するという決定に逆らうような物だ、下手をすれば俺も排除されかねない。

一か八かの賭けなんて正直やりたくはなかったのだが、我慢できなかったのだから仕方ない。

冷や汗が止まらない、さてセルバはなんと答えてくれるのだろうか……。

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