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56・面倒事は突然やってくるって話

木鼠の巣という料理店から追い出されたので近場の公園に移動し、端っこのベンチに座って箱詰めにしてもらった料理を食べつつセルバの話を聞く事にした。

この公園は枝の端という事もあり眺めはいいが、この場所がかなりの高所だと言う事を俺に思い知らせてくる。

転落防止の柵の向こうは足場のない空中、正直長居したくない。

遅めの昼休憩もそろそろ終わりに近いし、出来れば手短に願いたい所だ。


「一応、今は休憩時間なので、あまり長いお話はできませんよ?」


『あら、それは残念ネー。セルバトロンコに来てるのは分かってたけど、真っすぐに来てくれなかったから忘れてるんじゃないかって心配になったのよネ』


「いや、忘れてはいませんよ。まだ護衛任務の雑用みたいなのが残ってたので」


『忘れてないなら安心ネ。ここの自慢とか案内とかしたかったから、我慢できなかったネ。もう夕方だから、明日にでも来てくれたら嬉しいネ』


「はい、必ず伺います」


セルバは俺の言葉を聞き、笑顔でうんうんと頷いてベンチの後ろにある転落防止用の柵の上にぴょんと飛び乗った。

その行動に驚き、俺が危ないと言う前にセルバは空中へと軽やかに身を躍らせた。


『下でちょっと面倒事が起きてるネ。人死にが出る前に仲裁に行ってくるネ。じゃ、またネー』


あっと言う間にセルバは地面へと落下していった。

本人は平然としていたが、あの体は巫女の物のはず、この高さから落下して大丈夫なのか!?


『気にしなくていいもん。巫女の体はセルバの神力でバフがかかってるから、この程度の高さなら問題ないもん。ただ、下の面倒事ってのが気になるもん』


どうやら、マレッサが言うにはこの程度の高さなら問題ないらしい。

凄いな神様のバフって。

とは言え、面倒事ってのは確かに気になる。

もしかしてカネーガの密輸関連のごたごただったりしないだろうか。

それだと、護衛である俺たちにも飛び火してきそうだなと思わなくもない。

とは言え、面倒事とカネーガが関係あろうとなかろうと、休憩時間は残り少ない訳だし、下に行かなくてはならない。

どうか、面倒事に巻き込まれませんようにと思いつつ、下に向かう事にした。


「あたくしなら緋色ちゃん抱えて、同じように下に降りれるわよぉん?」


「人間には足がついてるんだよデイジー叔父さん、それはきっと一歩一歩地面を踏みしめて歩く為だと、俺は思うんだ」


そんな適当な言葉でデイジー叔父さんの提案をやんわり却下して俺たちはエレベーターの元に向かった。


『ヒイロはビビりもんね。ちょっとぴょんと降りるだけもんなのに。途中で枝とか葉っぱに当たっても骨が折れるくらいもんよ?』


『もしうっかり死んでもちょっと体がバラバラでグロテスクな感じになるだけよ。それくらいなら私様が修復してあげるのに』


頭の周りで飛んでいる二人の神様がなかなか怖い事を言い放っている。

俺は絶叫マシーンとかバンジーは苦手なんだ、勘弁してくれ。

エレベーターに乗って下に行くにつれ、周囲がざわついてるのが分かった。

エレベーターから降りて、荷降ろしの現場である厩舎へと急ぐ。

厩舎前には一つの馬車を取り囲むように人だかりが出来ていた。


「マレッサ、パルカどうなってるか上から見えるか?」


『うーん、なんか馬車の前で誰かが何か持って騒いでるもんねぇ。それをセルバが様子見して、カネーガとここの王がなんか説得してる感じもん』


『あの騒いでるの星神教徒のアイツじゃない。って言うかアイツが持ってるのあの写真よ、何やってるのよアイツ!?』


星神教徒のアイツ、たぶんユリウスの事だろう。

死の気配が見えるとか言っていたし、もしかしたらあの写真の死の呪いの残滓を見てしまった可能性がある。

なんとか人だかりをかき分けて、カネーガとセルバの背後辺りに出る事が出来た。

そして、馬車の前で額縁に入った写真を持って騒いでいるのは、やはりユリウスだった。


「この絵には死の気配がこびりついている!! このような物を蒐集し、競売にかけるなど言語道断!! この星神教の司祭であるボクが、無辜の民に死をまき散らす愚行を止めなければならないのです!! 属神セルバも何故それを理解しない!!」


「その額縁には高度な封印が施されている、その額縁から出さない限りその絵は不幸を運ぶ事はない!! 死の気配に関しても、ある人物のおかげでほぼ解決している事だ!! 早くその絵を置いて、馬車から離れなさい!! 第一にその絵を手に入れるのに幾らしたと思っているんだ!!」


ユリウスを取り囲む護衛チームの後ろでカネーガがユリウスに声を張り上げている。

ユリウスはかなり激高しており、人の話を聞き入れる様子には見えない。

セルバブラッソの王ジャコモもユリウスに対して叫んでいた。


「星神教徒だからと言って、今の君の行動は度が過ぎている!! 星神教が他の神々を星の神ステルラの属神と見ていようと、この地は森の神セルバの守護する地だ!! 森の神セルバの言葉を受け入れるのが筋ではないのか!!」


カネーガとジャコモの言葉にユリウスは更に激高し、手に持っている杖の先を二人に向けて大声をあげる。

その顔は先日の俺と話をしていた時の物とは違い、怒りに満ちている様に見えた。


「黙れ悪辣なる者どもめが!! 己の欲望の為に死をまとう呪物すら商うか!! それを手引きした愚昧なる王、貴様もだ!! 民を思わぬ愚劣の極みたる外道めッ!! その様な王を置く国を守護する神も同じだ!! 貴様らが救わぬからこそボクが人を救うのだ、数多の人々を死の恐怖から救わねばならないのだ!!」


ユリウスはカネーガやセルバブラッソの王であるジャコモ、果てはセルバすら罵倒しながら、取り囲む護衛チームを杖で牽制している。

まさかここまで過激な人だったとは思えなかったが何がユリウスをここまで、と思ったがたぶんそのきっかけは俺だ。

ユリウスは俺を死の運命から遠ざける事が出来たと感動していたのを思い出す。

だからこそ、死の気配をわずかに残すあの写真を見て、セルバトロンコの人々を死から遠ざけたいと強く思ったのかもしれない。

なら、ユリウスを止める責任が俺にあるんじゃあないのか?


『それ以上はやめとくもんヒイロ。あいつの行動はあいつの責任もん、お前が何かを背負う必要はないもん』


「でも――」


『デイジーなんとか出来ないもん? ヒイロが馬鹿な事する前に終わらせるもん』


俺の言葉を無視して、マレッサがデイジー叔父さんに声をかけた。


「出来るけれど、ちょっと迂闊に動かない方がいいわねぇん。あの子、大規模な自爆魔法を自分に仕込んでるみたいよぉん。一瞬で意識を刈り取っても自動で発動するタイプねぇん。意識を刈り取って魔法を解除までしてると、潜んでる子たちが動いちゃう可能性があるわぁん」


『面倒な奴もんねぇ。で、潜んでる子って誰もん? わっちの感知には引っかかってないもんけど』


『殺気も抑えてるみたいね。私様でも見つけられないわ』


「エルフとドワーフの長とちょっと強い力を持つ子が二人、セルバちゃんにどこか似てる感じねぇん」


『なるほど、セルバの加護を持つエルフとドワーフにセルバの守護精霊の二人もんか。ならセルバの森に居る限りはわっちたちには感知は無理もんね。まぁ、人死にが出る前に仲裁するとセルバは言ってたもん、ちょっと様子見してた方がいいもん。あとヒイロ、今、声をかけてもユリウスには届かないもん、絶対に動くなもん』


いつにもまして圧の強いマレッサの言葉に俺は何も言えなかった。

無力な自分が嫌になる、せめて人死にはもちろん怪我人すら出ないようにと祈るしかない。

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