54・新しい国での出会いって話
セルバトロンコに到着後の荷降ろし作業がひと段落した事で遅めの昼休憩を貰えたので、レストランか何かないかとセルバトロンコを散策する事にした。
「せっかくだから、ちゃんとした所でご飯食べたいよなぁ。もう昼って言うより夕食に近いけど」
『ヒイロ、忘れたもん? この国の料理は基本、野菜と果物でメインは虫もんよ?』
『私様、果物は割と気に入ってるわ。アレが好きアレ、ゴイチの実。どうせならそれがある店にして』
マレッサの言うようにセルバブラッソの料理は基本森の幸、大森林神殿で食べたあの虫料理は、まぁ不味くはなかったが、じゃあもう一度食べたいか聞かれるとそこはちょっと賛同しかねる所だ。
マレッサではないが、肉を食べたい気分ではある。
「ここは多種族国家、種族によって禁忌としている食材もあるはずよぉん。肉しか食べないって種族がいたりするかもしれないわよぉん?」
『確かにもん。獣人種は多くが肉食傾向の雑食のはずもん。獣人向けの店に行けば肉が食べれるかもしれないもん!! ヒイロ、肉料理店探すもん!!』
草の神の癖に肉好き過ぎじゃあないか?
まぁ、野菜は虫の食べ物と豪語するくらいだし、今更か。
一応、マレッサの信徒ではあるのだし、信徒らしく神様のお望みをかなえるべく行動するのもたまにはいいかもしれない、あと普通に肉食べたいし。
セルバの大樹の根本に木造の神殿の中に魔法で動くエレベーターの様な物があり、それに乗ってセルバの大樹の枝に移動する。
エレベーターから降りて、辺りを見回すとそこには枝の上とは思えない街並みが広がっていた。
そこかしこに枝や葉が生い茂っている以外は普通の街と大差ないように見える。
とは言え、元居た世界と比べれば海外の田舎とかそんな感じではあるんだが。
大通りを歩きながら、食事が出来そうなお店を探す。
きょろきょろと見回していてある事に気付く、どうやらセルバトロンコの建物は全て木造のようだ。
火事とか起きたら大変そうだな。
『火事の心配はまずいらないもんよ。セルバブラッソの木はセルバ自身でもあるもんからね。普通の火では燃えたりしないもん。まぁ、そのせいでセルバブラッソの木は薪としてほぼ使えないもん。だから火を使うには石炭や魔力焜炉を利用しないといけないもん』
「耐火性にすぐれた木材って事か。よほどのことがない限り火事とか起きないんだな」
『そうね、それこそデイジーちゃんが顔面吹っ飛ばした獄炎のバルディーニくらいじゃないと、燃やせないんじゃないかしら』
「あぁ、あの人か。あの人の火ってやっぱりそんなに凄いの?」
『当然でしょ、魔王国の双璧なのよアイツ。強さは世界でも上から数えた方が早いわ。まぁ、デコピンで吹っ飛んだけど……』
確かにオークカイザーさんの腕を一瞬で吹っ飛ばしてたから、強いとは思うのだが、デイジー叔父さんがデコピン一発で吹っ飛ばしてしまったのでどうにも強いというイメージがわかない。
いや、デイジー叔父さんが凄すぎるのだろうか。
そんな事を考えていると、デイジー叔父さんが通りの露店の前で立ち止まった。
「あらぁん、この木製のイヤリング素敵だわぁん。この宝石みたいなのは何かしらぁん?」
「おにい……人間さんお目が高いでしゅ!! これはセルバの大樹の折れた枝から掘り出した一品でしゅ。その石は木の精霊さんから貰った欠けた精霊石をプナナが研磨したものでしゅ!! 弱いでしゅが木の精霊さんの加護が宿ってましゅから、ちょっとした幸運を呼び込んでくれるんでしゅ!!」
少し舌ったらずで頭部が犬の獣人の子どもはデイジー叔父さんが指差したイヤリングを手に取り、商品の説明を始めた。
「素敵なデザインねぇん、アナタの手作りかしらぁん?」
「はいでしゅ、プナナが一から作ったものでしゅ!!」
「プナナちゃんはなかなかの腕前なのねぇん、ほれぼれしちゃうわぁん。お一つ買わせてもらってもいいかしらぁん」
「ッ!! はいでしょ、ありがとうでしゅ!! あ、お代は銅貨五十枚になるでしゅ!!」
「あらぁん、ずいぶんお安いのねぇん。この手の商品の価格設定には詳しくはないのだけれど、もっとお高くてもいいんじゃないかしらぁん?」
デイジー叔父さんの言葉に犬の獣人プナナは少し困ったような顔をしながら、三日月に緑の小さい精霊石がはめ込まれたイヤリングを紙袋に入れた。
その紙袋をデイジー叔父さんに手渡し、お代を受け取ってプナナは小さい声で答えた。
「えっと、何日か前に来たお客さんが高すぎるって言ってどんどん安くしたんでしゅ。こんな出来じゃあ誰も見てくれない、せめて安くしないと誰も買わないぞって。だから、プナナはお値段を安くしたんでしゅ。でも、その人がいっぱい買っていった後から、あまりお客さんは来てくれなくて困ってたんでしゅ」
少し悲しそうな顔のプナナを見て、デイジー叔父さんはその頭を優しく撫でた。
「プナナちゃん、アナタの作ったこのイヤリングはとても素晴らしいものよぉん。素人のあたくしが見てもこのイヤリングはエレガントでビューティフルな一品よぉん。きっとアナタには類まれな才能があるわぁん、安く切り売りなんてしちゃあ駄目、自信を持ちなさぁい」
「あ、ありがとうございましゅ!! これからも頑張りましゅ!!」
デイジー叔父さんはニコリと笑い、懐から取り出した金貨を一枚プナナに手渡した。
驚き、金貨を返そうとするプナナに対して、デイジー叔父さんは笑顔で答えた。
「作品に対して正当な対価よぉん。そのお金でもっと素敵な作品を作って頂戴ねぇん」
プナナは涙目でデイジー叔父さんに深々と頭を下げていた。
デイジー叔父さんはもう一度優しくプナナの頭を撫で、ふと思い出したかのようにプナナに問いかけた。
「あぁ、そうだプナナちゃん。美味しいお料理屋さん知らないかしらぁん? あたくしたちってここに来たばかりで地理に疎くって困ってたのよぉん」
「それなら、木鼠の巣って料理屋さんが外から来た人でも満足できると思うでしゅ。お値段も安くてプナナもよく行く所でしゅ」
「木鼠の巣ねぇん、ありがとう助かったわぁん。じゃあねプナナちゃん」
「はい、お役に立てたなら嬉しいでしゅ」
プナナに木鼠の巣という料理屋の場所を教えてもらい、その店に向かう事にした。
道中、マレッサとパルカが何かぼそぼそと話し合っていた。
『ねぇ、マレッサ。あの子、木の精霊から貰ったって言ってたけど、あの石って……』
『属性の似てるわっちだから分かるもんけど、あれ、精霊の力が結晶化した精霊石なんてもんじゃないもん。物質化した神の魂、神核もんよ。売ってたアクセサリー全部についてたもんから、それなりの大きさの神核だったはずもん』
『物質化した神核を一部とは言え地上種に渡すとかそいつバカじゃないの?』
『まぁ、誰が木の精霊と偽って神核をプナナに渡したかは、なんとなーく分かるもんけど、理由が分からないもんねぇ。たぶんプナナがよほどのお気に入りなんだろうもん。ただ、プナナにいちゃもん付けてアクセサリー大量に買っていった奴は、ろくな目にはあってないはずもん』
『でしょうね。もし神核を渡したのが私様だったら、人間を騙した奴、絶対死なすわ』
『お前はあまり自分の本心隠さなくなってるもんねぇ』
マレッサとパルカは一体何をそんな熱心に話しているのだろう。
気にはなるが、今は食事が先だ。
休憩時間もそう長い訳じゃあない。
美味しい料理にありつけると良いのだが。




