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53・異世界だって世知辛いよねって話

俺が泉で顔を洗い、昨日の夕食の残りで簡単な朝食を済ませた頃には商隊全員が目覚め、出発の準備に取り掛かっていた。

馬に餌や水を与え、テントの片付けなどを手伝いながら、予定確認と最後の打ち合わせを行う。


「セルバトロンコまでは馬で一時間程度だが、商隊が昨日と同じ速度で進むなら、四、五時間とみていいだろう。あと、言うまでもない事だが、セルバブラッソ内で盗賊などという物は存在しない、しかし我らを糧として狙う魔物の類は存在している、大いに気を付けるといい」


レフレクシーボさんの言葉に俺は唾を飲む。

他のみんなは別段変化は見られない、ホントに言うまでもない事なんだろうなと、気を引き締める。

予定確認と打ち合わせを終え、レフレクシーボさんとアウストゥリさんを先頭に、商隊はセルバトロンコを目指して泉から出発した。

このまま商隊がセルバトロンコに到着して、荷降ろしの手伝いまでしたら俺とデイジー叔父さんの護衛任務は終了となる。

俺たちはカネーガから満額の依頼料が受け取れるのだが、他の護衛チームはクエスト仲介料や冒険者保険料、ギルド維持運営費などなどが差っ引かれて、ギルド口座に振り込まれるとかなんとか。

こっちもこっちで世知辛いんだな……。


「冒険者を引退しても、お金の預け先としてはギルドが一番安全だから、冒険者免許を返納しない人がほとんどなんだ。なにより個人の証明書としても優秀だからな。ヒイロ君やデイジーちゃんも持ってると便利だぞ。まぁ、ギルド運営に関する費用とか言って毎月銅貨十枚程度を強制徴収されるから、口座に幾らか預けておく必要があるんだがな」


ハーゲンの言葉を聞いて、冒険者の免許って車の免許みたいだなと思った。

しかし、ギルドに所属してないとお金って預けられないのか、ちょっと不便な気もする。

とは言え、マレッサピエーに着けば元の世界に帰れるだろうから、こっちで幾らお金を持っていても意味はないだろう。

それに銀行に預けるほどのお金なんて、そうそう手に入る訳もない。

そんな事を考えつつ進む。

何事もなく時間が過ぎていき、セルバトロンコらしき城壁が見えてきた。

道中、獣の声やなんか不気味な音が聞こえたが、結局魔物の襲撃などはなかった。

運がよかったと言うべきか、それともデイジー叔父さんが先んじて何かしてくれていたのか、俺には判断は出来ないが、まぁ何事もなく到着出来て良かったと安堵する。

改めて城壁に眼をやると、ここからでも確認できる程の巨大な樹が生えているのが分かった。

そして、その木の枝にはいくつもの建物が建っている様に見える。

え、あの枝の大きさと建物の大きさを比較すると、あの木とんでもなくデカくないか……?


『セルバトロンコはセルバブラッソの首都であり、セルバブラッソに住む人間たちの最大規模の領域もん。一万人を超える大都市もんね。人間以外にもエルフやドワーフ、獣人に虫人、少ないけど竜人も住んでるもん。そして、最大の特徴が何十本もの大樹が絡まり合って出来たあの途方もなく大きな木もん。通称セルバの大樹と呼ばれていて、あの木の上で一生を終える者がいる程度には広大なんだもん。世界樹、なんて呼ぶ人間もいるみたいもんね』


木の上で一生を終える?

はぁ、規模がデカすぎてよく分からない。

確かにこのデカさだ、世界樹なんて呼びたくなる気持ちも分かる。

近づくにつれ、その巨大さが分かってくる。

セルバトロンコの城門前に到着したが、セルバの大樹の葉の影に隠れて、まるで夜の様な暗さだ。

明かりがなかったら、辺りは真っ暗だっただろう。

カネーガの部下が城門を守る門番の所に行って、書類らしきものを見せている。

そして何か門番に握らせた。


「あれってやっぱ、袖の下ってやつかな」


『まぁ、密輸品を運んでるもんからねぇ。荷物の検査とかされたら色々問題あるんじゃないかもん?』


『少なくとも、封印されてるとは言えあんな原初の呪いの込められた箱の絵とかあったんだし、他にもヤバイ積み荷があるんでしょ。誰が買うのか知らないけれど、物好きもいたものね』


マレッサとパルカの言葉になるほどなぁと思いつつ、城門をくぐる。

簡単な荷物検査や身体チェックすらなく通れた辺り、相当な額を握らせたのか、もしくは城門の警備がザル過ぎるのか。

城門から入り、しばらく石畳を進んでいくとセルバブラッソに入る前に泊まったあの大森林神殿、それよりも一回り以上大きな木造の大神殿がセルバの大樹の根本にあった。

その木造の大神殿の横、大きな厩舎に馬車を留め、荷降ろしを始める。

しばらくして、誰かがやってくるのが見えた。

右目に赤い宝石を埋め込み、一枚布を体に巻き付けたような服装の痩せぎすの男、なんというか只者って感じではないが誰だろう。

その男は右手で自分の短めの黒髪をいじりながら、カネーガに話しかけた。


「やぁやぁ、カネーガ、良く来た。護衛の方々もご苦労だったね。私はセルバトロンコの最高責任者であり長のジャコモ・デ・アグスだ。世間的には一応セルバブラッソの王という事になっている。よろしく頼むよ」


王様だったのか、この人。

って言うか、王様が護衛もなしにこんな所に来ていいのだろうか。


『ふーん、こいつが荷物の受け取り人って事。だから、余計な護衛も連れていないし、城門ではあんなに杜撰な警備だったのね。セルバは、まぁ当然知ってるでしょうけど、こんなのが王でいいんかしら』


『まぁいいんじゃないかもん? その程度の後ろ暗い事なんて、日常茶飯事もんよ? 地上種の規範意識なんて動物よりマシって程度しかないもんからねぇ。わっちの所のオラシオもまぁ人には言えない事腐るほどやらかしてるもんから』


『それもそうね、私様の所の魔王なんて世界征服とか言っていくつか国滅ぼしちゃってったわ。他所の事とやかく言える義理なんてなかったわ私様』


うーむ、マレッサやパルカのこういう発言を聞くと、やっぱり人間とは違う精神構造してるんだなって思い知らされる。

少し悲しいような寂しいような、複雑な心境だ。

ともかく、この荷降ろしが終わればカネーガの護衛任務も終わり、そこから先はマレッサピエーに向かうだけだ。

とは言え、あの写真には心残り、というか不安が残る。

ナルカという自我の部分を取り除き、デイジー叔父さんが原初の呪いとの繋がりを壊し、封印が施された額縁の中にあるとはいえ、何とも言えない不気味さはあるのだ。

死の気配というか視線は感じてないから、問題はないはず……。

パルカも死の呪いは消えて、呪いの残滓もいずれ霧散するとは言っていたが、何故か気になって仕方ない。

そんな心のしこりを抱えたまま、俺は荷降ろしの作業を続けるのだった。

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