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51・いきなり話しかけられるとびっくりするよねって話

「不躾な事を言ってしまうので先に謝っておきます、すみません。貴方から濃厚な死の気配が漂っています、恐らく永くはないでしょう」


唐突に余命宣告をくらってしまった、この人はいきなりなんて事を言うのだろう。

あまりの事に呆気にとられ、開いた口がふさがらなかった。


「分かっています。死とは受け入れがたい物、しかして避け得ぬ物、生きるモノ全ての終着点。そして、死は突然にやってくる。それは覚悟も準備も決意もさせてくれない。ですが、ボクには星の神ステルラ様より与えらた聖星眼がある。この眼は他者には見えぬ物を見る力を有しています。そう、この眼が貴方が身にまとう濃厚な死の気配を見てしまったのです。それを見過ごすなど、この眼が授けられたボクのする事ではない、死の迫る貴方に死に対する覚悟と準備と決意を促す時間を与えなければならない、だからこそボクは貴方に声をかけたのです」


グイグイと自分の眼をアピールしながら喋る人だな、この人は。

割と早口で後半なんて言ってたかよく聞き取れなかったぞ。

死の気配だなんだと言われてはたと気づく。

それたぶん、パルカかナルカの影響だろうなと。

とは言え、素直にそれを伝えてもいいのだろうか。

パルカが言うには星神教は魔王を、ひいてはパルカを敵視しているらしい、邪神だの悪魔だのと呼ばれているとパルカは憤慨していた。

オレにはマレッサとパルカって言う神様がついてて、ナルカっていう死の精霊の卵を持ってるんです、と馬鹿正直に言ったら、善意でそれらを何とかしようとしてきそうな圧を感じる。

まぁ、この人に神さまや精霊をどうのこうの出来るとは思えないが、黙っていた方がいいだろう。


「あの、貴方に特殊な眼があるのは分かったんですけど、どちら様ですか?」


俺の言葉に星神教の人はハッとして一歩下がる。

コホンと軽く咳払いをしてから、星の様な形のネックレスをそっと握りしめて恭しく一礼してみせた。


「これは失礼。余りに死の気配が強く、余りに悲しかったのです。それゆえに言の葉を紡ぎ過ぎてしまった。ボクの悪い癖です。では、改めまして、ボクは星神教大星堂所属の司祭ユリウス・ヨアヒム・ツィーエと申します。貴方の冥域への旅路に安息があらん事を祈る者です」


「はぁ、皆野緋色です。どうも」


『げぇ、こいつ異端殺しに特化した大星堂の武装司祭もんか。とびきりに偏屈なやつと関わったもんねぇ』


ちょっとマレッサ怖い事言わないで、なに異端殺しって、なに武装司祭って……怖いんですけど。


『そういえば、大星堂所属で聖星眼でユリウスって言ったら星神教お抱えのくそったれ集団、星罰隊の十三番目の男じゃない。最悪、星神教徒ってだけでも最悪なのに、それに輪をかけて最悪だわ。私様、ちょっとデイジーの所に行ってるわ。こいつがどっか行ったら教えてちょうだい』


パルカはそう言って、お風呂を沸かしているデイジー叔父さんの元に飛んで行ってしまった。

というか、新しい情報が多すぎて覚えきれないだろ、もっと丁寧に説明してくれ。


「よろしくヒイロ君。短い付き合いになってしまうのは嘆かわしいが、星の神ステルラ様の元に召される事はむしろ喜ばしい事だ。ステルラ様は闇夜に灯る一番星のように貴方の進む道を照らし、迷う事なくそのいと高き場所へと導いてくれるだろう、……ん?」


ユリウスが急に俺の顔をジッと見つめる。

やめろ、顔が近い。

男の顔が近くにあっても嬉しくもなんともないのだが。


「なんと、これは、どうした事だ? 死の気配が薄まっている!?」


あぁ、さっきパルカが離れたから、そのせいだろう。

だが、それが分からないユリウスは首を傾げてうーむうーむと唸っている。

正直に言えば、きっと角がたつだろう、さて何と言えば、ユリウスは納得するだろうか。


「あー、なんかよく分からないけど、ユリウスさんと出会えた事で死の運命が変わったーとか? ほら、小さなきっかけで大きな変化が起こる事ってあるでしょ? 蟻の一穴だっけ? そんな感じでユリウスさんとの出会いがきっかけで俺の死の運命が変わったみたいな?」


適当に言っておけば勝手に納得してくれないだろうか、そんな淡い期待混じりの言葉をユリウスに語る。

実際、ユリウスを鬱陶しがってパルカが離れたのは事実だし、あながち間違っていないのでは?


「おお、ボクの行いが貴方から死の運命から遠ざけたと!! なんと、なんと喜ばしい限りだ!! こんなボクに人を救う事が出来たなんて!! 星よ、星よ、星よ、全能なりし、いと高き星の神よ!! ボクは今、感動に打ち震えております!! あぁ、なんと素晴らしい、この出会いこそ奇跡!! あぁ、ありがとうヒイロ君、ボクはただ死を告げるだけの存在ではなかった!!」


「は、はぁ、よかったですね」


感極まって涙を流しながら空に向って声を上げるユリウス。

何故かは分からないが、俺の言葉が何か琴線に触れたようだ。

よく分からないが、なんか喜んでるみたいだからいいか。


「この様な出会いがあったというだけで眷属神の守護する国々を巡礼してきた甲斐があったというもの。貴方がボクと出会ったのもステルラ様のお導きに違いない。あぁ、しかしヒイロ君、君の死の気配は確かに薄まった、しかしまだ完全に消え去った訳ではない。気にしなくてもよい程度の物ではあるが、この地は大地に根差すセルバ神の領域、神が息づく領域だ、十分に注意した方がいい。善神、悪神の区別なく神とはそこにいるだけで世界を揺さぶるほどの慮外の存在なのだから」


言いたい事を言って満足したのか、ユリウスは商人のテントの方に移動していった。

うーむ、相槌しか打ってない気がする。

死の気配が見えるらしいが、あの写真に反応したりしないのだろうか、ちょっと不安だ。

まぁ、ナルカはあの写真から離れているし、写真自体が封印の施されている額縁に入っている限りは問題ないはずだ。

そして、俺は料理途中だった事を思い出し、慌ててフライパンを確認したのだが……。


「……焦げてる」


『焦げ肉は嫌いもん。便所のスライムなら処理できるはずもん。新しいの早く焼くもーん、にーく、にーく!!』


焼きすぎて真っ黒になった肉を便所に居るスライムに与え、俺はため息をつきながら新たに料理を作るのだった。


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