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50・エルフとドワーフの口喧嘩って話

商隊を先導するエルフ族の長レフレクシーボとドワーフ族の長アウストゥリの二人だが、なにかと言い合いを繰り返していて、どうにもギスギスしている。


「偉大なりし森の母セルバの神託さえなければ、今すぐにでもその首、髭ごと切ってやるものを……」


「はん、出来もしねぇ事をペラペラと、これだから理想主義の長耳は。こっちだって大いなる森の母セルバの神託がなかったら、この場でその耳そぎ落として耳無しにしてやる所だわい」


「銭ゲバの恥知らずがよくもまぁ吠える」


「清貧気取りの頭でっかちが何か言っておるなぁ」


「フン、聞こえんな。飲んだくれの酒狂いの戯言なぞ。」


「どうやらその無駄に長い耳は飾りのようじゃあのぉ。ゴブリン共の方がよっぽどマシな耳を持っとるわい、交換したらどうじゃ?」


セルバブラッソに入ってから既に四、五時間は経過しているが、休憩も挟まずにずっとこんな調子で煽り合っている。

今にも殺し合いを始めそうな様子に俺は内心びくびくしていた。

何故なら、俺とデイジー叔父さんは今、先頭馬車を護衛しているからだ。

その為、この二人の言い合いが嫌でも耳に入ってしまう。

最初はハーゲンたちカマッセ・パピーの面々が先頭馬車の護衛をしていたのだが、ハーゲンが昨夜の飲み過ぎによる二日酔いからまだ完全に治りきっていない所にこの二人の言い合いで精神的に疲弊してしまった為、護衛を交代する事になった。

チューニーもまた、リーダであるモッブスが二日酔いに苦しんでおり、三十分ともたずにグロッキーに。

結果、先頭馬車の護衛が俺たちに回ってきたのだった。


「やっぱりエルフとドワーフってホントに仲が悪いんだな。まぁ、ここまでとは思ってなかったけど」


『セルバブラッソのエルフとドワーフは殊更に仲が悪いもん。あいつらは互いに自分たちの種族こそが森の母セルバの最愛の子であると主張してるもん。セルバ自身にとってはセルバブラッソに生きるモノは全て我が子であって一番とかそういう意識は持ってないもん。なにより、エルフとドワーフのいざこざもセルバにとってはじゃれ合いとしか認識されてないもんから、そこまで緊迫感とか持ってないもん』


なんだかそれはそれで悲しいような寂しいような。

まぁ、これは俺がそう思うってだけで、神と人との意識の差なんてどうしようもないんだろうと勝手に納得する。

しかし、既に四時間以上移動しているが休憩の一つもないときつい物がある。

とは言え、先導する二人は種族が違うからかずっと言い合いをしているにも関わらず平然としており、あの二人から休憩しようとは言いださないだろう。

ハーゲンさんとモッブスさんが結構グロッキーで今にもゲロりそうなのもあるが、この二人にしても少し物理的に距離を離して、クールダウンして欲しい所だ。

セルバブラッソ大森林神殿を出発したのが昼過ぎで、既に日も傾いてきている。

このまま、夜通し移動するのはどうなのだろうか。

少々の不安がありカネーガに話かける。


「あの、カネーガさん。このまま野営とか無しで一気に行くんですか?」


「いや、もう少し先にいった所にセルバの泉と呼ばれる場所がある。そこはセルバブラッソに生きる者全ての共有領域となっているから、そこで朝までキャンプしてから再度移動する予定だ」


「それを先頭の二人にはお話してますか?」


「もちろん。この商隊の責任者として案内人との打ち合わせは当然だ。まぁ、エルフとドワーフ、どちらも気位が高く、人風情と話したくはないという感じはあったがね。一応は護衛チームとの当初の打ち合わせ通りの経路で進んでくれている」


「予定通りって事ですね、わかりました。お時間取らせてすみません」


「いや、あの二人を見ていたら不安になる気持ちも分かる。だが、セルバ神の神託によって行動している内は安全なはずだ。森の母セルバの最愛の子をどちらも謳っている以上、セルバ神の神託をないがしろにする様な事はしないだろう」


あの二人とちゃんと打ち合わせできたのか、カネーガは凄いな。

そして、更に二時間程移動して、すっかり日も落ちた頃に商隊はセルバの泉に到着した。

先導していた二人が馬から降りて、カネーガの元にやってきた。


「この地はセルバブラッソの民すべてに解放されている地だ。セルバブラッソの法に従う限り、お前たちもまたセルバブラッソの民とみなす故、ここでの野営を許す」


「改めて言うが森には入るんじゃあねぇぞ。特にここらの森は、わしや長耳でも気を遣うお方たちの領域だ。万が一、森に入って問題を起こしたりしたら、そのお方たちだけでなく、わしらも敵対する事になると思ってくれ」


「偉大なる森の母セルバの神託があった者たちとは言え、森への危害は森の母セルバへの危害と同じ。その時は貴様たちを仕留めるのに一切の躊躇はない。その一点においてのみ我らは同じ行動をとる、それを忘れぬ事だ」


「あぁ、ゲロとかクソとか小便はあっちの便所で頼むわ。人間が作ったやつだから、おんしらにも使いやすいだろ。中のスライムがもろもろ処理してくれるんだが、間違ってもスライムを退治すんなよ? あんなのでもセルバブラッソにいる内は森の母セルバの子だからな」


そう言うと、二人は泉の両端に移動してテキパキと寝床を作り始めた。

手際も良く、手伝う必要はないように見える。

まぁ、たぶん声をかけても断られる気はするが。

二人の言葉を商隊全員に周知してから、野営の準備に取りかかる。

商人用の大きめのテントの設置を手伝った後に自分たち用のテントを設置、そして晩御飯の準備だ。


『昨日は飲み過ぎたもん。今日は神様の胃に優しい供物がいいもん。肉でもいいもんよ』


『肉は胃に優しくはないでしょ。私様は果物がいいわ。あと紅茶もね』


「はいはい、まだリベルタ―で買った肉が残ってるから、それ使っちまおう。保存魔法がかかってるって言っても何日も取っておくのもアレだしな。果物は昨日、神殿の近くの露店で買ったから新鮮な内に食べようか」


ここ数日のテント生活で多少なり料理の手際もよくなったと自画自賛しつつ、手早く料理を仕上げていく。

デイジー叔父さんは泉の水を汲んでお風呂の準備をしている。

毎日お風呂に入りたい派のデイジー叔父さんの水の使用量はなかなかも物だ、そのうち水を大量に確保できるような魔法具か水の魔法とかを手に入れたい、等と思っていたら唐突に声をかけられた。


「あの、すみません。少しよろしいでしょうか」


「はぁ、なんでしょう?」


声をかけてきたのは星の様な形のネックレスを付けたイケメンの青年、短い金髪と緑がかった瞳、朝方に荷物の積み込みを手伝っていた星神教徒の人だった。


「不躾な事を言ってしまうので先に謝っておきます、すみません。貴方から濃厚な死の気配が漂っています、恐らく永くはないでしょう」

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