49・ほかの勇者はどうしてるのかって話4
『はやくわっちをここから出られるようにするもん。この中だと他の分神体と同期して情報共有できないもん』
この世界に勇者召喚によりやってきた人物へマレッサが声をかける。
声をかけられた人物は高級そうなベッドの上でゴロゴロと寝そべったまま、薄い長方形の板をいじりながら、はぁーいと生返事を返す。
「でもさぁ、マーちゃん。逆にどうやったらスマホん中から出てこれんの? マジ、あーしにはどうしようもないと思うんですけど。てゆーか、マーちゃん神っしょ? 神的なパワーでなんとかすればよくない?」
小麦色に焼けた肌、長い茶髪の毛先を軽くカールさせ、着ている制服に似合わない無駄にゴテゴテとしたデコサングラスをかけた少女がスマホに向かって文句を言う。
年齢は十代半ばほど、少し過剰とも思えるメイクは他人には多少なり奇異な存在に映るだろう。
少女は体を起こし、スマホの中のマレッサに話しかける。
「マーちゃんには助けてもらって、マジあざまるなんだけどさ、あーしのスマホと融合合体したのはガチめにバイブスあげぽよって言うか、神ってるよね。マーちゃん神なんだけどマジ草」
『相変わらず何言ってるか分かんないもんねぇ。もう少し分かりやすい言葉使ってほしいもん、リタ』
「えー超かわいくなーい? てゆーか、赤子の頃からこんな感じだし、今更チェンジはガン萎えMAXみたいな?」
マレッサはリタの返事にスマホの画面の中でガックリとうなだれる。
リタは召喚されたマレッサピエーからかなり離れた山岳国家モンターニャボーカに居た。
マレッサピエーから飛ばされた当初は沼の国パンターノウェッソに落下したのだが、沼とかテンションさげぽよと言い放ち、スマホの機能を現実にする勇者特権『ウィズユースマホ』によりマップアプリを利用したテレポートを用いて各地を転々としていた。
その勇者特権を利用した商売でかなりの荒稼ぎを行い、各地の高級宿や高級な食事を楽しむリタは帰る気はあるがある程度この世界を楽しみたいというエンジョイ勢の一人だった。
「鬼チートのおかげで写真がスマホから出るのはマジ受けたし、あーしの撮ったバえる写真がE感じに売れたのはマジかたじけパーリナイだったけど、変に評判になってガチゆ~かいされそうになった時はガチ目にヤバたんだったよねぇ」
『あの時はお前がイケメンキターとか言って顔のいい男にホイホイついて行ったのが悪いもん。わっち注意したもんよ』
「いやぁ、ヤババな薬を盛られてるジュース飲まされそうになった時はマジ焦りマクリスティだったねぇ。マーちゃんが教えてくれなかったら、今頃死んでたわ、マジで」
『お前が慌ててたせいで、わっちはこのスマホっていう板の中もんよ。何で間違えてわっちを撮るもんかねぇ』
「さーせん。てゆーか何でマーちゃんは写真にならなかったんだろうね? 写真になってたらすぐに破いて外に出せたのに。神様ってやっぱ特別な存在って事? マジ神だわ」
『お前の勇者特権は異常に便利もんけど、使うお前がしっかりしてないとかなり危険もん。その時焦って瞬間移動で逃げた先、あの遺跡は本気で危ない場所だったもんよ。適当な場所に飛ぶのは本気でやめとくもん』
「りょ。あそこマジでふいんき凄かったよねぇ。超昔のお化けとか出てきそうだったし。都市伝説に出てくるなんたら箱、みたいな見た目激ヤバな箱見つけた時はガチ目に漏らすかと思ったもん」
そう言ってリタはとある遺跡で見つけた箱について思い出す。
その箱は原初の呪いと呼ばれる、この世界で最初に生まれた人間の呪い、神すら殺しうる死の呪いが込められていた。
『お前、あの時箱を撮って写真に封じてたもんよね。お前がそのスマホでポチったとか言ってた絶位並みの封印魔法が刻まれた額縁に入れてたから、ある程度は安心とは言ったもんけど、捨てたりしてないもんよね? あんな物、相応の場所で封印、浄化させないと、街どころか国が亡ぶもんよ』
「え?」
『え? えって何もん。お前まさか』
「いやぁ、あのえっとその……」
『リタ!! あれはガチ目にヤバイ物もんよ!! 事と次第によっては神案件もんよ!!』
マレッサの圧に負け、リタは原初の呪いが込められた箱の絵をどうしても欲しいという貴族に売った事を土下座しながら白状した。
『お前、何て事やらかしてるもんッ!! まかり間違ってあの写真が破れたりしたら、一人二人の犠牲じゃすまないもんよ!!』
「ガチ目にさーせん!! だってマーちゃんがあの写真エグめにヤバたんって何度もリピってたから割とソッコーポイしたかったんだもん!! そこにあの写真買いたいってカネモッティーが来てつい」
『あーもー、これだからノリで生きる若者ってやつはー!! あの箱を写真に封じた責任とか感じなかったもんか!!』
「マーちゃんそれはマジ偏見。あーしだってこれ絶対メンディー事になるって思って最初はこれはマジヤババでマジパナい事になるからって断ったよ。でもさ、そのカネモッティーが大丈夫大丈夫、って言うからさー。じゃあいっかーって」
『それ絶対意味伝わってないもんよ!! そんな事になってたなら何でもっと早く言わなかったもんかー!!』
「だって、聞かれなかったし」
『あーーーーもーーーーッ!! お前の意思を優先してたもんけど、リタ、急いでマレッサピエーに行くもん、マレッサピエーに行きさえすれば恐らくこの状態のわっちでも本体に接続できるはずもん!! 出来なくてもオラシオと連絡が取れれば、他の勇者にくっついてるわっちと接触できるはずもん!! そうすれば本体にこの事を伝えられるもん!! わっちたちだけでなんとか出来るレベルを越えてるもん、あれはそれほどヤバイ物もん!!』
「了解道中膝栗毛!!」
『だから、何言ってるか分かんないもん!!』
リタは目の前にある高級そうな食事やデザートを写真に撮った後、マップアプリを開き、マレッサピエーへとテレポートをした。