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48・二日酔いってきついよねって話

「緋色ちゃん、そろそろ時間よぉん。起きて準備しましょ」


「んぁ……デイジー叔父さん、おはよう……」


「えぇ、おはよう緋色ちゃん。さ、顔を洗ってシャキってしてきなさぁい」


「あぁ、そうだ、朝一で荷物の積み込みだっけ。ふわぁあ……」


デイジー叔父さんに起こされ、眠気覚ましに顔を洗いに外にある井戸に向かう。

井戸には俺と同じで顔を洗いに来た人が数名いた。

その中にもの凄く顔色の悪い見知った顔が二つ。

カマッセ・パピーのリーダーであるハーゲンとチューニーのリーダーであるモッブスだ。

昨夜の飲み過ぎがたたって二日酔いらしく、二人とも頭が痛いとぼやいている。


「おはようございます、ハーゲンさん、モッブスさん」


「ん、あぁヒイロ君か。おはよう」


「……お、おはよう」


どちらも顔色は悪いが、どうやらハーゲンよりモッブスの方がより状態が酷いようだ。

朝一で荷物の積み込みをするとは思っていなかったからこそ、あれ程飲んでいたのだろうし、正直悪い事をした気になる、ちょっとだけ。


「あぁ……またやらかした。気を付けようとは思っていたんだが、ここの酒が美味すぎてついつい……」


「分かる、おれ様も控えるつもりではいたんだが、ついつい酒に手が伸びて……」


そう言って、二人はまた痛い痛いと頭に手をやっていた。

酒は飲んでも飲まれるなって諺もあるし、飲み過ぎるとこうなるぞって悪い例として覚えておこう。

俺はこうはなるまい。


『おぇ、飲み、うっぷ、飲み過ぎたもん……』


『頭……痛い……』


『セルバのやつ、わっちたちも飲んでると気づいてから、こっそりわっちたちの酒にソーマとかネクタル混ぜてやがったもん。神酒のちゃんぽんとか悪酔いしかしないもん。うっぷ、気持ち悪いもん、おぇえ……』


『頭……痛い……』


今気づいたが、マレッサとパルカも二日酔いのようだ。

神様も二日酔いになるのか……。


「……二人とも、水飲むか?」


汲み上げた井戸の水に祈りを込めて、二人に捧げてみる。


『あー、水分補給は大事もんよねぇ、助かるもん……。ちょっとマシになった気がしなくもないもん……おぇ』


『頭……痛い……』


うーむ、気持ちマシになったのだろうか?

しかし、まだ二人とも気分は悪そうだ。

二日酔いは水分補給をして安静にしてるのが一番らしいが、神様の場合はどうなのだろうか。

そんな事を考えつつ、顔を洗い厩舎の方へ移動する。

厩舎ではすでに馬が馬車に繋がれ、荷物の積み込みが始まっていた。

積み込みをしているカネーガの部下の人に挨拶をする。


「おはようございます。すみません、おくれました」


「やぁ、おはよう。いや気にしなくていいさ。急な話だったし、カネーガ様の気まぐれにはお互い苦労させられるなってだけさ、ははは」


「あ、あはは……、じゃ、じゃあ積み込み始めますね」


デイジー叔父さんとセルバの飲み比べの勝負がついたのは夜遅くで、あの話を周りで聞いていた人はいなかった。

セルバのあの話はカネーガにしか伝えていないので、朝一での荷物の積み込みはカネーガの気まぐれという事になっているようだ。

俺たちが変に注目されないようにカネーガが気を使ってくれたのかもしれない。

あとでお礼でも言っておくべきか。

とりあえず今は積み込みに専念しよう。

デイジー叔父さんと一緒に荷物の積み込みを行う。

ほとんどの商品は木箱に収納されており、厳重な封印が施されているものがほとんどだ。

ナルカが宿っていたあの写真は他の物より更に厳重な封印がされており、取り扱いも慎重に行われている。

だが、それは原初の呪いとか死の呪いがあるからじゃなく、恐ろしく精巧な絵として価値が非常に高いからこその慎重さのようだ。

写真の入っている木箱はそこまで大きくないが、俺とカネーガの部下の二人がかりで慎重に馬車へと運ぶ。


「こういう絵って最近出てきだしたんですよね、カネーガさんに聞いたんですけど」


「あぁ、そうらしいね。出始めたのはここ三日、四日くらいかな。パンターノウェッソ辺りで急に広まったって話だ。絵描きには見えない、変わった格好で変な言葉を喋る若い女が売っていたそうなんだが、その恐ろしく精巧でその場を切り取ったかのような絵が一部の貴族たちの間で評判になってね」


「変わった格好で変な言葉……」


「今はまだそこまで知られてないが、いずれ持ってるだけで自慢できる一品になるだろうって事で、一部界隈では目玉が飛び出るような高値で取引されてるそうだよ。この絵は魔王国の貴族がその女から買い取った物らしいんだが、絵を見てると体調が悪くなるとか、悪夢にうなされるとかで売り払った物らしい」


「へぇ、そうなんですねぇ」


そんな話をしながら、木箱を馬車へと積み込む。

ここ三日、四日くらいに出回り出したって事は、やっぱりマレッサピエーで召喚された勇者の誰かの仕業なのだろうか。

しかし、だとするとその勇者を守る為についているはずのマレッサの別の分神体から何も情報が来てないのが不思議な所だ。

マレッサに聞いてみようにも、今のマレッサは二日酔いでまだ気分が悪そうでそれどころではないし、また後にするとしよう。

馬車への荷物の積み込みをしている人の中に首から星の様な形のネックレスを下げている人を見かけた。

あのネックレスは昨日食堂で見かけた星神教の巡礼者の人たちの一人だろう。

今はフードをしておらず、その顔を確認する事が出来た。

短めの金髪で緑がかった瞳、二十代くらいの男性、割とイケメンだ。

そう言えば、ここで人を雇うかもとかカネーガが言っていたっけ。

ふと、その人と目が合ってしまう。

ぺこりと軽く頭を下げてから、俺は積み込みの作業に戻った。

それから二時間ほどかけて積み込みを終え、馬車を城門前に移動させた。

そして、軽食を食べながらその時を待った。


「セルバはああ言ってたけど、ホントにエルフとドワーフの戦争が止まるのかな」


「セルバちゃんが嘘を言ってるようには見えなかったわぁん。朝方まであった戦闘の気配は確かに静まってるようだけれど――」


デイジー叔父さんがそう言った時、城門の外に広がるセルバブラッソの大森林から二人の人物が馬に乗って街道に出てきた。

一人は長い金髪と長い耳を持つイケメンで、もう一人はずんぐりむっくりの髭面の男だった。

互いに嫌そうな顔をして、並走しながらこちらに向かってきている。

そして、商隊の少し前方で二人は止まった。


「我こそは偉大なりし森の母セルバの子が一人、セルバブラッソのエルフ族が長、レフレクシーボ」


「わしは大いなる森の母セルバの子が一人、セルバブラッソのドワーフ族が長、アウストゥリ」


そう名乗りを上げた後、二人は顔を見合わせてフンと鼻を鳴らした。


「なぜ、我らが母は髭モグラと共に人間の案内などと……」


「はん、わしのセリフじゃあ。なぁんで長耳なんぞと一緒に案内なんぞせにゃならんのか、反吐がでるわい」


うわぁ、マレッサとパルカみたいに仲が悪そうだ。

まぁ、戦争なんかやってる種族同士なのだし、当然と言えば当然か。

どうやら、セルバがこの二人に商隊の案内を頼んだようなのだが。

二人はこちらの事など忘れたかのように、今にも取っ組み合いの喧嘩しそうな感じだ。


「エルフ族の長レフレクシーボ殿、ドワーフ族の長アウストゥリ殿、恐らくセルバ神様のお導きが、お二方を私たちの前に遣わしていただけたのだとお見受けしましたが如何か?」


カネーガの言葉に二人はゴホンと咳払いをした。


「うむ、人間、貴様の言う通りである。我らが偉大なりし森の母セルバの神託により、貴様たちを人間の領域たるセルバトロンコへと案内する事となった」


「急ぎ連れてくるようにとの神託、わし達の戦争に巻き込まぬようにとも仰られておった。ゆえに、わしらドワーフと長耳どもの長の二人がおんしらの先導となる」


「フン。急ぎ、セルバトロンコへと出立する、ついてくるがよい。ただし、分かっていると思うが、貴様たち人間が通ってよいのは整備された街道のみ」


「まかり間違っても森には入るんじゃあねぇぞ。命の保証はできねぇかんな」


軽く脅し付けてから、二人は森へと向かって馬を歩かせ始めた。

商隊もそれに続く。

何事も無ければ良いのだが、そんな事を思いながら俺はゆっくりと森へと入るのだった。

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