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47・神様ってお酒好きだよねって話

最初は空にしたコップの数で勝敗を決めるはずだったのだろうが、テーブルの上には既に空になったコップでいっぱいになっていた。

更にテーブルの周りにはデイジー叔父さんとセルバの飲み比べに付き合って同じように飲んでいた客や見物人、更に護衛チームリーダーのハーゲンとモッブスの二人を含めた相当数の人が酔い潰れてダウンしている。

店の外に放り出された客も十人以降からは数えていない。

だと言うのに、店の中は数十人以上の人でごった返し、異様な熱気に包まれていた。


「あはぁん、とっても美味しいお酒ねぇん。いくらでも飲めちゃうわぁん」


『セルバブラッソの果実酒はワタシの大森林から取れた果物から作られてますネー、味は最高ですネッ!! 色んな種類の果実酒がありますからネー、どんどん飲んでくださいネッ!!』


デイジー叔父さんもセルバもさっき飲み始めたと言わんばかりにグビグビと酒を飲み、樽を空にしていく。

既に樽二つ分が空になっている。

三つ目の樽も半分は無くなっているが、デイジー叔父さんもセルバもまだまだ余裕そうだ。


「セルバ様はともかく、なんなんだこの人、つ、強すぎ……る、グハッ」


「お、おい、しっかりしろ!! ……うっぷ、オ、オレももう限界か……ウグ」


また一人、また一人と飲み比べに付きあった客が倒れていく。


『ここのお酒は確かに美味しいもんねぇ、色んな種類もあって楽しいもん』


『まぁ、美味しいけどしょせん人間用のモノね。酔うほどじゃないわ』


気付けばマレッサとパルカもお酒を楽しんでいた。

セルバがいきなり勝負だと言った時はどうしたものかと思ったが、飲み比べ勝負だったとは。パルカが言ったようにセヴェリーノの時のようなとんでもない戦いにはならずに胸を撫でおろす。


「いやぁ、あの人、お客さんの家族の人かい? 凄いねぇ、セルバ様とここまで互角に飲めてる人はさすがに初めてみたよ」


「はい、叔父です。俺もここまで飲めるとは知りませんでした」


「今日の巫女様は元々大酒のみだったから、余計に凄いね。おかげで商売繁盛で大助かりだ、ははは」


話しかけてきた店員さんはそう言って、空になったコップを片付けて、厨房に引っ込んでいった。

そういえば、カネーガの奢りとは言え、さすがに飲みすぎなのでは? と不安になるが、相手が神様なのだから仕方ないだろう、と自分を無理矢理納得させる。

更に時間は進む、とっぷりと夜も更けた頃、飲み比べ勝負の勝者が決まった。


「あぁん、さすがにもう入らわぁん。あたくしの負けよぉん」


『キャハハハハハ、しゅごいネーデイジーちゃん、キャハ、ワタシもここまでのんだのは初めてネー!! ヒック、キャハハ、久しぶりに楽しい飲み比べだたネー、キャハハ』


デイジー叔父さんまだ余裕っぽいけど、空気を読んだのだろうか。

対してセルバはかなりベロンベロンになっている。

そりゃあ、二人合わせてあの大きな樽を十も飲み干せばそうなるってものだ。

お店ももうお酒の在庫がなくなってしまったらしい。

セルバはどうやら笑い上戸のようだ、陽気にケラケラ笑い続けている。

護衛チームの人たちは酔い潰れたそれぞれのリーダーを引きずりながら部屋に帰っているし、残っている客も素面なのは全く飲んでいない俺と数人の客くらいで、後は飲み比べに付き合ったせいでみんなダウンしていた。


「さすが神様ねぇん。それともその体の子が凄いのかしらぁん? どちらにせよ、とっても楽しいひと時だったわぁん、ありがとねぇん」


『あーわっかるぅ? この体は巫女たちの中で一番の大酒飲みネー、もちろんワタシの神力の影響もあるけどネッ! キャハハッ、あなた達、セルバトロンコに来るんだよネ、楽しませてくれたお礼に明日の昼にはあの子たちのじゃれ合いを収めてあげるネー』


「あらぁん、いいかしらぁん? とっても助かるわぁん」


『あぁ、あと、セルバトロンコに着いたら本殿の方にも来てほしいネー。神官に話は付けておくからネ。そっちに本物のワタシがいるから、合いに来てくれると嬉しいネ、じゃあ待ってるネー』


そう言うとセルバの体がガクリと体勢を崩した。

床に倒れ込む前にデイジー叔父さんがセルバを抱きかかえ、椅子に座らせる。


「う……ここは」


セルバの声の質がさっきと違う。

確か巫女と言っていたし、どうやらセルバが消えたらしい。

巫女はキョロキョロと周囲を見回し、状況をおおまかに把握したようだった。


「あぁ、またセルバ様が飲み比べをなさったのですね」


「はい、お水いかがかしらぁん? あれだけ飲んだんだもの、少し休んだ方がいいわぁん」


「あ、ありがとうございます。貴方様がセルバ様の飲み比べ相手でしょうか? セルバ様のお相手をしていただき、感謝いたします」


「あらぁん、あたくしだって楽しくお酒が飲めたわぁん。気にしないでちょうだぁい」


深々と頭を下げる巫女に対してデイジー叔父さんは気にしないでと朗らかに笑ってみせた。

まだ体調が回復してないだろう巫女の介抱を店員に任せ、俺たちはカネーガの元に向かう事にした。

セルバの言葉が本当なら、明日の昼にはエルフとドワーフの戦争が止まる可能性がある。

他の護衛チームにも伝えておく必要があるだろうが、まずはカネーガに伝えて今後の行動を決めてもらわなくてはならない、一応護衛任務の依頼主ではあるのだし。


「うーむ、セルバ神が食堂でどんちゃん騒ぎをした、という話は聞いている。しかし、明日の昼にはエルフとドワーフの戦争を止める、か。にわかには信じがたいが。セルバ神の巫女がそう言ったのなら準備くらいはしておいても損はないだろう。済まないが、馬車に商品の積み込みを朝一でしてもらう事になる。さすがに今から積み込みをして、寝不足で護衛などされるのはこちらも怖いからな。まぁ、飲み過ぎで二日酔いの者も出てくるだろう、ここで何人か人を雇う事も考慮せねば。一応、礼を言っておこう、貴方達のおかげで無駄に足止めされずに済むかもしれない」


という訳で朝一で馬車への商品の積み込みをする事になった。

今日、荷下ろしした物を次の日の早朝にまた積み込むのか……。

ちょっと面倒だな、とは思ったがまぁ仕方ない。

今日はもうさっさと寝て、明日に備えた方がいいだろう。

部屋に戻り、軽く汗を拭いてから布団に潜り込む。

数日ぶりのベッドはとてもフカフカですんなりと眠る事が出きた。

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