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45・異国情緒あふれる食事は勇気がいるよねって話

馬を厩舎に預けて自分たちの荷物を部屋に置いた後、宿屋の食堂に向かう。

セルバブラッソでエルフとドワーフの戦争が治まるのを待つ為、数日は待機する事になるだろうからと、英気を養う為に護衛チーム全員の夕食代をカネーガが持ってくれる事になった。


『あー、早く晩御飯もってくるもーん。ここの所ずっと保存食だったもんから、物足りなかったもん。あの商人の奢りって聞いてるもん、いっぱい食べるもーん』


『人間やデイジーの作る供物も悪くはないけれど、やっぱりちゃんとした物も食べたくなるわよね。セルバブラッソでは肉は料理に使われないって聞くわ。森の幸とやらを堪能できるってさっきのハゲが言ってたわよね。期待するわよ』


『えー、肉無いのかもん? 肉食いたいもーん。肉ー肉ー!』


肉肉と騒ぎ立てるマレッサ、お前草の神様じゃあなかったのか?

そんなマレッサを横目に俺は賑やかな食堂を見回す。

護衛チームや商人、その部下の他にも何人かの人が食事をとっている。

その中には顔をフードで隠している人も何人かいた。

その人たちはみんな、胸から星の様な形のネックレスを下げているのがちらりと見えた。


『あの顔を隠してるフードの連中は星神教の巡礼者もん。各国を巡って神殿の礼拝に参加してる奴らもん。偏屈な奴しかいないから関わらない方がいいもん』


「偏屈って……いろんな国の礼拝に参加してるんだから、神様からしたらありがたい存在じゃあないのか?」


『自分の信徒ならまだしも星神教はステルラ様を主とした一神教もん。他の神は精霊か悪魔扱いもん。我らが神ステルラの輝きをここに、その眷属たる精霊に祝福を、ってのが奴らの言い分もん。献金はなかなか弾んでくれてるみたいもんけど、主であるステルラ様からの恵みだぞって上から目線なのがなんかむかつくもん』


『いいじゃない、あいつら魔王を目の仇にしてるからマレッサピエーはかなり支援してもらってるんじゃない? 私様なんか、あいつらに邪神、悪魔扱いされてるのよ、この死の神たる私様をそんな堕神の一派と一緒くたにするんじゃないわよ、まったく』


星神教、なんともマレッサやパルカには複雑な人たちのようだ。

マレッサの言うようにあまり関わらない方がいいのだろう。


「まぁまぁ、今は異国の食事を堪能しましょ。そろそろ頼んだお料理が来るんじゃないかしらぁん? キノコや山菜、野菜系のお料理が豊富みたいで楽しみだわぁん」


待つ事、数分。

適当に頼ん料理の数々が俺たちのテーブルに並んだ。


「……デイジー叔父さん、これって」


「うふん、なかなかエキゾチックな料理ねぇん」


『……パルカ、これあげるからそっちのマツノコくれもん』


『いやよ。アンタこそこれあげるから、そこの蒸かしポテ芋よこしなさいよ』


野菜やキノコ、果物に山菜が彩るお皿の中心には主役の如く鎮座する大きな虫の丸焼きがあった。

どうやら、セルバブラッソでは虫がメインで野菜なんかは彩りに使われる傾向にあるようだ。

確かに、地球でも虫食は確かに存在してたし、外国じゃあポピュラーな食材だとか聞いた事はある。

ていうか、この虫ってチュンチュン虫じゃないか?

このでっかい目玉みたいな形に見覚えがある。

ハーゲン、話が違うぞ。

チュンチュン虫と魔獣ハグワルはセルバブラッソでは神使だから手をだすなって言ってたよね!?

思いっきり食材になってるじゃないか。


『あぁ、これはチュンチュン虫じゃないもんよ。チュンチュン虫に擬態してるニセチュンチュンモドキダマシもん。チュンチュン虫とは別の虫もんから、セルバの神使とは見なされないもん。むしろ神使の姿を真似る不届き者呼ばわりされてるもん。まぁ、そのせいで食材にされてるみたいもんね』


「……ちなみに聞くが、どこがどう違うんだ? っていうかややこしい名前だな、おい」


マレッサが言うには、このニセチュンチュンモドキダマシはチュンチュン虫と違い、黒目に見える部分が磁性魔力鋼ではなく、ただの模様なのだという。

他にもチュンチュン虫に似た姿の虫が数多くいるが、黒目が磁性魔力鋼なのは本物のチュンチュン虫だけらしい。

正直どうでもいい知識である。

しかし、なんでそんなに虫に詳しいのかと、尋ねてみた。


『そりゃあ、わっちは草の女神もんよ? 虫や植物なんかは当然の如く網羅してるもんよ、神を舐めちゃあ駄目もん』


との事だった。

デイジー叔父さんはさすがというべきか、ナイフとフォークで虫料理を奇麗に切り分けて食べている。

割とクリーミーで美味しいらしい。

そういえば、デイジー叔父さんは元の世界に居た頃は世界中を旅していたっけ。

外国の色んな料理の事を教えてくれた事をふと思い出した。

俺もデイジー叔父さんにならって、恐る恐るとだが、虫料理を口にする。


「んん……なんか、何とも言えない臭みと食感、味は……まぁソースが美味しいから悪くはないが、見た目がなぁ」


松茸みたいなマツノコ、ジャガイモみたいなポテ芋などの野菜やキノコなんかは結構見た目どおりの味で美味しかったが虫のインパクトが強すぎて、お腹いっぱい食べるのはちょっと無理だった。

悪戦苦闘しながら料理を食べる俺たちの元に飲み物片手に上機嫌なハーゲンがやってきた。


「よお、やってるかいデイジーちゃん、ヒイロ君。セルバブラッソ名物のニセチュンチュンモドキダマシは他の国では珍味として一部の金持ちに人気があるんだ。ここまで安く食べられるのは産地だからこその特権だ。ゲテモノと侮るなかれ、その身は濃厚なキメラチーズを思わせる芳醇な香りと、口に入れた瞬間に蕩けていく様な食感はたまらないぞ。そしてソースがまた絶品なんだ、リゴンの実や蜂蜜に各種野菜、他にも色んな物を混ぜて長時間煮込んで作られた特製ソースは一舐めしただけで幸せになれると言われているんだ。最初に作った料理人の名を取ってコシローネソースと呼ばれていて、百年以上昔から親しまれているセルバブラッソのもう一つの名物だ、堪能しておくといいぞ。あと――」


聞いてもいない雑学を色々と教えてくれるハーゲン。

ちょっと酒臭い、どうやらハーゲンは絡み酒のようだ。

そういえば、カマッセ・パピーの料理番って言ってたっけ、どうりで詳しい訳だ。

生返事でハーゲンの話を聞いている内に、他のカマッセ・パピーの人たちがやってきて、ハーゲンを引き取ってくれた。

カネーガの奢りだからと、好き放題に食べて飲んでご機嫌だったらしい。

明日からはエルフとドワーフの戦争の経過を見守りつつ、停戦になったのを確認してからすぐにここを出発しセルバブラッソの中心地であり首都でもあるセルバトロンコに休憩なしで向かう強行軍になるそうだ。

今晩くらいは羽目を外して楽しむのもいいのかもしれない。

まぁ、テーブルの上で裸踊りをしているチューニーのリーダーモッブスほど羽目を外すのはどうかと思うが。

モッブスは酒乱のようだ。

チューニーの他の人たちがかなり慌ててモッブスをテーブルから引きずり降ろそうとしているが、モッブスは器用にかわして踊り続けている。

店の人が怒るんじゃあないかと心配になったが、店員は周りの客と一緒になってゲラゲラと大笑いして手拍子までする始末。

大丈夫かこの店。


『セルバは森の神であり、あらゆる命に恵みをもたらす豊穣の神でもあるもん。踊り好き、歌好き、酒好きのなんとも賑やかな神もんから、あの程度は逆に面白がってるはずもん』


『キャハハハハハ、よく分かってるネッ!! さすが草原の神であり風の神プラテリアの属神たる草の神マレッサちゃんネー!!』


唐突に俺の背後から女性の声が聞こえ、驚いて振り向く。

そこには褐色の肌と足元まである長い銀髪でとてもスタイルのいい、露出高めな女性が立っていた。

酒をなみなみと注いだ木製コップを片手に。


『キャハ、来ちゃったネッ!!』

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