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43・神様のくせにって話

眩い光がおさまってきたのを感じ、目を開く。

そこには青く澄んだ空と一面の花畑、蝶が舞い鳥が歌う、なんとものどかな風景が広がっていた。

何が起きたのか理解できず、思考が停止する。

数秒後、ハッと我に返りキョロキョロと周囲を見回す。


「え、なにここ?」


『さっきまでいた位相のズレた狭間の空間のままのはずもんけど……』


『やっぱり、デイジーちゃんがなんか空間を殴ったせいよね。なんでこんな風景が広がってるのかは謎だけど』


ナルカはデイジー叔父さんが原初の呪いとの繋がりを壊した、と言っていた。

恐らく、これはその結果なのだろう。


「奇麗……」


ナルカがそう呟く。

この風景にどうやら見とれているようだ。


「あはぁん、お気に召したかしらぁん? あたくしのお気に入りの風景をこの空間に張り付けてみたのよぉん。さ、お茶でも飲んで、ゆっくりお話ししましょ。紅茶はお好き? それともミルクティーの方がお好き?」


声のした方を振り向くと、花畑の中に真っ白なテーブルとイスが人数分置いてあり、テーブルの上にはティーセット、デイジー叔父さんが優雅に紅茶をティーカップに注いでいた。


「ささ、座って座ってぇん。お茶請けもあるわよぉん」


人数分のティーカップとクッキーなどのお茶請けのお菓子をテーブルに並べ、デイジー叔父さんはにこやかに笑う。


『デイジーちゃんだし、まぁいいわ。私様のは砂糖を三つ入れてちょうだい、ミルクもたっぷりとね』


『そうもんね、デイジーだし。わっちはストレートのままでいいもん』


マレッサとパルカはこの光景に対して、もう疑問とすら思わなくなっていた。

デイジー叔父さんだから、という理由で思考を放棄したようだ。

さっそく席について紅茶とお茶請けを楽しんでいる。


「……まぁ、いいか」


かくいう俺もデイジー叔父さんのやる事にいちいち驚いていたらきりがないと割り切り、席に着く事にした。


「ほら、ナルカも」


風景をジッと見ていたナルカの手を軽く引き、テーブルへと向かう。


「あ、うん」


席に着いたナルカの前にデイジー叔父さんがティーカップを優しく置く。


「ナルカちゃんの好みをまだ把握できていないから、あれこれ勧めるのは野暮よねぇん。まずはストレートで味わってみるといいわぁん。その後にミルクや砂糖を入れて自分好みの味を見つけてみてねぇん」


「あ、はい、ありがとう、ございます」


恐る恐る、といった風にナルカは紅茶を口にする。


「……初めて飲んだから味がよくわかんないや。でも、あたたかい味。あちしは好き、かも」


「んふ、ありがとうねぇん。ナルカちゃん、これからどんどん初めてを経験していきましょ。この世には悪い事もたくさんあるけれど、楽しい事だって沢山あるのよぉん、酸いも甘いも味わってゆっくり成長していくといいわぁん」


「うん、ありがとうデイジー」


デイジー叔父さんの笑顔にナルカも笑顔で返す。

俺はその光景を見て、ホッとした。

原初の呪いとの繋がりが壊れた以上、ナルカは死の呪いとは無縁のはず、ナルカはこれからを生きていけるんだと、俺は安心したのだ。


『人間、言っとくけど、そのままじゃナルカは消えるわよ? 人間が受け入れた所でナルカの方が質も量も上なんだから、その関係は遠からず破綻するわよ』


「は? そこの所はマレッサとパルカでなんとか出来ないか!? 俺、結構大見え切ってかっこつけたのに、そんな事言われたら、ちょっと困るぞ!?」


ヤバイ、ナルカに二人の神様が付いてるから呪いの一つや二つへっちゃらとか、かっこつけたのに、実はヤバイままだとかアホすぎるだろ。

慌てふためく俺を見て、マレッサがケタケタと笑う。


『うひょひょひょ、ヒイロは後先考えないもんからねぇ。パルカも意地悪言うもんじゃないもんよ。ヒイロ、パルカはそのままじゃあと言ったもん。ある手順を踏めば、問題なくナルカはヒイロと共存できるもん、安心するもん』


『ふんだ、人型だからって鼻の下を伸ばしてる人間が悪いのよ。マレッサの毛玉よりも私様の羽毛の方がふわっふわっだって言うのに、触ろうともしないなんて、ホントこれだから人間は』


マレッサの言葉に安心しつつ、パルカが何を言いたいのかよくわからずに俺は首を傾げた。


「とりあえず、ナルカは消えずに済むんだな? あぁよかった、で何をすればいいんだ? 俺が出来る事なら何でも言ってくれ、全力で手伝うから」


『だったら、私様を抱っこなさい』


「……え、なんで?」


『うるさいわね!! 抱っこしなさいよ!! ギュッと強く!! はよ!!』


バサバサを羽をばたつかせてパルカが暴れ出したので、よく分からないが抱っこする事にした。

まぁ抱っこ、というよりは抱える形になったがパルカは鼻をフンと鳴らして、どこか満足げだ。


『人間、どうよ』


「どう、とは?」


『アンタ、私様の体に触れてるのよ!! 触り心地とかふわふわ加減とか褒め称えなさいよ!! 神力がたまんないでしょ!! 』


「いや、褒めるだけなら抱っこする必要ないのでは?」


『それは、ほら、あれよ、触れ合ってる方が神力がより高まる、感じの、フィーリング的ななんやかんやがあるのよ!! いいから、抱っこしたまま褒め称え、崇め奉りなさいよ!!』


触れていた方が神力は高まるのか、それは知らなかった。

抱っこする理由は分かったが何故神力を高める必要があるのかは分からないまま。

だが、パルカがそうしろというのだから、きっと理由があるに違いない。


『絶対、抱っこされたかっただけもん。こいつ神の癖にアホもん』


マレッサが何かつぶやいていたが、よく聞き取れなかった。

ともかく、パルカを褒める事でナルカの為になるのなら、お安い御用だ。


「パルカは抱き心地最高、柔らかくふんわりした黒い羽根は最高級の羽毛以上だ、美しく艶やかな羽根とこのふわふわとした感触はまさに究極の癒しの具現、身にまとう黒いゴシックドレスもとっても可愛らしいぞ!!」


『んほぉおおおおおおおおお!! 来たわよ来たわよ来たわよ!! 高まって来たわよぉおおおお!!』


パルカの体から激しい閃光が迸り、神力の高まりが人間である俺にも見て取れた。

その凄まじい神力を放ちながら、パルカは俺の腕の中で大きく羽を広げる。

すると、ナルカの前に一つの魔法陣が現れた。


『死の神の加護を持つ人間に名を与えられ、その名を死の神である私様が口にし認めた。アンタという死の呪いが私様の祝福が宿る名を受け入れた事で、アンタは私様と近しい存在となったわ。そして、人間がアンタを受け入れた事で加護を通して私様とのパスはすでに繋がっているのよ。それをより強固にし安定させる。さぁ、その魔法陣に触れて、ここに盟約を結びなさい。アンタは今から死の呪いの複製という存在を捨て、私様の妹であり娘である死の精霊へと転生するのよ!!』


厳かでありながら有無を言わせぬ圧を放つパルカの言葉にナルカはゴクリと唾を飲み込んで、ゆっくりと魔法陣に手を伸ばす。

不安げなナルカに俺は笑ってみせた。


「ナルカ、安心しろ。俺が言っても説得力はないけど、大丈夫さ。パルカは凄いんだ」


「――うん」


力強く頷き、ナルカは魔法陣に触れた。

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