38・嫌な事ってたまに重なるよねって話
パルカの加護によって死の予感を察知できる能力を手に入れていた俺。
不意に感じるようになった視線や意識されているような感覚、恐らくその感覚の正体は俺自身の死の予感を察知した結果なのだろう。
つまり、あの荷馬車に積まれている荷物の中に、俺を死に至らしめる何かがあるって事だ。
正直、知りたくなかった……。
もう、あの荷馬車に近づけないじゃないか!
「あーもーどうすればいいんだよ……」
『じ、自分の死の予感を察知出来たおかげで考える時間を得たと思えばいいじゃない!! 何も知らないまま、訳も分からず死ぬよりはマシでしょ?』
「いや、まぁ、それはそうなんだが……。とりあえず、ありがとうパルカ」
『んほ、ど、どういたしまして。信仰を捧げる信徒に対して、これくらいの恩寵は当たり前よ、これからも私様への信仰と感謝を忘れない事ね!!』
パルカに感謝を捧げながら俺は荷馬車から離れ、護衛チームに話があるというカネーガのテントに向かった。
荷馬車から離れるにつれ感じていた視線が薄れていくのが分かった。
どうやら、ある程度離れていれば問題ないようだ。
だいたい、十数メートルくらいだろうか。
まだ護衛の任務は続くが、出来れるだけ離れているようにしよう。
あと一日、二日くらいならなんとかなるだろう、たぶん。
「セルバブラッソでエルフとドワーフの戦争が活発化しているらしい。セルバブラッソの手前で戦争が治まるのを待たねばならん。その分、護衛の報酬は上乗せするつもりだから安心したまえ。恐らく数日中には一旦停戦するはずだが、その隙を逃さずに入国し首都セルバトロンコへ向かう事になる。すぐに移動できる準備だけは常にしておいてくれ、以上だ」
なんてこった。
俺の死が間近にあるってのに、護衛任務が伸びるなんて……。
デイジー叔父さんに相談するのは当然として、神様なんだしマレッサやパルカにも相談するべきか。
それと、出来れば俺の死に繋がる何かの正体も知りたい所だが、荷馬車の荷物を勝手に見るのはさすがにやめておいた方がいいだろう。
こっそり見るにしても、何が俺の死に繋がるかが分からない以上、近づかないようにした方がいいような気もする。
一番簡単なのはカネーガに聞く事なんだが、リベルタ―の街で荷物の事を聞いた際、軽い脅しを食らったし、たぶん無理だろうな。
とは言え、やる前から諦めるのもなんだかな、ダメ元で聞いてみよう。
「死の予感がする荷物が商品の中に? ふむ」
あ、やべ、この流れはアレだ、オークカイザーさんに俺がここに召喚されてオークの森に飛んできた経緯を話した時と同じ感じだ。
オークカイザーさんはなんやかんや飲み込んでくれたが、カネーガとはそんなに親しいとは言えない、逆に怪しまれる可能性が高いのでは?
「リベルタ―のある方から、貴方の事をよろしく頼むと言われています。貴方の叔父の事も聞いています。そして、おそらく貴方が死の予感を感じる商品についても厄介な物だろう事は伺っています」
「そ、そうなんですか!? いったい誰が……」
ある方とやらのおかげであっさりと話を聞いてくれたカネーガ。
しかし、俺とデイジー叔父さんの事をカネーガに伝えた人物とは誰だろうか。
盗賊ギルドのギルドマスターであるザハールさんか、もしくはリベルタ―を出る前にカネーガと会話をしていたセヴェリーノか、はたまた全く知らない第三者か、俺にはちょっと見当がつかなかった。
ただ、カネーガが「ある方」とぼかしているのだし、根掘り葉掘り詮索するのはやめておこう。
「あー、そこは置いとくとして、その厄介な物って何かって聞いてもいいですか? その何かから離れてる限りは安全みたいなんで、出来たら離れておきたいなーって」
カネーガがフムと漏らしてあごをさする。
数秒、何かを考えていたカネーガがテントの中に控えていた部下を全員外へ行くよう命じた。
人払いを済ませ、テントの中にはカネーガと俺、とマレッサとパルカが残った。
ちなみにデイジー叔父さんにはカネーガと話がしたいからと先にテントの方に戻ってもらっている。
デイジー叔父さんの事だから、今の会話も聞こえてたり、何かあれば瞬く間に助けに来てくれる気がする。
「さて、何から話そうか。まずは貴方が気にしている商品についてからにしましょう。詳しくは話せませんが、とある物を描いた一枚の小さな絵画です」
「絵、ですか?」
「はい、とても写実的でその場の空間を切り取ったかの如き精巧さ、あれほどの絵を私は見た事がない。ただ、気になる点で言えば、ただの絵であるというのにかなり厳重な封印が施されていましたな」
「厳重な封印が施されていたって、もしかしてその絵って呪われてたり?」
「可能性はあります。呪いが込められた美術品などこの世にはいくらでもありますからね。しかし、その絵は最近になって出回ったと聞いています。私も絵自体は拝見しましたがあのような作風の画家は今まで見た事も聞いた事もない。あれほどの絵を描ける者が今まで誰にも知られていなかったなど、まずありえない。その才能の片鱗でも感じ取れていれば名のある貴族が必ずやパトロンとなったでしょう」
「は、はぁ。そんなに凄い絵なんですね」
「そう、そうなのですよ。是非一度見てみるといい、安心したまえ。死を振りまく呪いの絵だとしても施されている封印は厳重だ。何より、貴方の叔父が一緒ならば、恐らくそれほど危険はないと思いますが、どうしますか?」
思っていたよりもカネーガは友好的で、俺に死をもたらすであろう商品を見せてくれると言う。
多少の不安はあるが、確かにデイジー叔父さんが一緒なら大体の事は問題ないと言い切れる。
何より、どんな絵なのかが気になるし、見せてもらう事にした。
ありていに言えば、その商品は豪華な額縁に入った一枚の写真だった。
フラッシュをたいて、とある部屋の中を映している写真。
その写真には大量のお札を張られた鎖を何重にも巻き付けられた真っ黒な箱が映っていた。
そしてハッキリと感じた、その写真の中の箱が俺を見ていると。