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37・ほかの勇者はどうしているのかって話3

森林国家セルバブラッソのはるか南には鬱蒼と広がる大密林が存在している。

その大密林に暮らす民はおらず、ゆえに守護する神もいない。

巨大な昆虫類が生態系のトップに君臨するこの大密林には、時の流れるままに朽ち果て、密林に飲み込まれた古代の軍事国家ドラゴンルインズの残滓が古代遺跡という形で残っていた。

竜を頂点とする軍事大国であったが、何かの原因である時期に竜もろとも国民が一斉に死に絶え、滅んだ、とされるいわくつきの場所である。

そんないわくつきの場所に足を踏み入れる物好き、もしくは命知らずな冒険者チームがいた。


「先生、ちょっと待ってくださいよ! 一人で先に進み過ぎですって!」


先頭を鼻息荒くして進むのは短い黒髪に掘りの深い顔立ちが印象的な中年男性、蒸し暑い密林だというのにスーツを着用している。

彼の名はルシウス・アベ、日系アメリカ人である。

ルシウスは緋色たちと同様に勇者召喚にてこの世界に召喚された一人だ。

元の世界での趣味であった遺跡巡りをこの世界でも行える事にルシウスは喜んでいた。

もちろん、元の世界に帰る気持ちはあり、マレッサピエーを目指してはいるが旅費が心元ない為に、ルシウスは趣味と実益を兼ねた遺跡調査のクエストを日々こなしているのである。

今回の古代遺跡ドラゴンルインズの調査もまたその為の物だった。

ルシウスを先生と呼ぶ猫耳の生えた女性獣人の言葉が聞こえないかのように、ルシウスはズンズンと遺跡のある方向へ突き進んでいく。


「ははは、聞こえてないってニャーリー。短い付き合いだが、先生の古い物好きは相当な物だって分かってるだろ? ドラゴンルインズの遺跡なんて千年や二千年じゃきかない古さだ、そりゃあ夢中になるに決まってる」


大笑いしながら猫耳の女性獣人、ニャーリーの肩を豊かな髭を蓄えた小男がポンと叩く。

髭面の小男は背負っている大きなリュックを揺らしながら、ルシウスの後に続いた。


「もう、エイドゥルはもう少し先生の心配をしなさいよ、先生は凄いけど、ドワーフであるアナタよりも弱いんだから! ほら、スプレンドルも早く来て。あの二人から目を離したらどこまで行くか分かったもんじゃない」


「向かう先は分かっているのだし、放っておいてもいいのでは? 先生はともかく、髭モグラがどうなろうがエルフであるボクには関係ないし」


「貴方達の種族の仲が悪いのは知ってるけど、今は同じチームなんだから、そんな事言わないの。さ、急ぐよ」


やれやれと肩をすくめ、腰まである長い金髪をみつあみにした細身の男性スプレンドルはニャーリーと共に先を行く二人の後を追った。

広大な大密林の中、巨大昆虫の群れを回避し、ルシウス達一行はほどなくして目当ての遺跡を見下ろせるポイントに辿り着いた。

古代遺跡ドラゴンルインズは大密林に阻まれ、その存在が知られていながら百年以上まともな調査が行われていない遺跡だ。

その理由は巨大昆虫と密林に自生する意思を持つ植物群が侵入する者たちをことごとく殺し尽くすからである。

そんな危険な場所と承知で調査に乗り込み、無傷でドラゴンルインズの遺跡近くまで辿りつけたのは、獣人であるニャーリー、ドワーフであるエイドゥル、エルフであるスプレンドルの種族特有のスキルのおかげもあるが、ルシウスの獲得した勇者特権の恩恵が最も大きかった。

ルシウスが得た勇者特権『導き手』、目的とする場所へ安全かつ最短で辿り着く能力。

この能力のおかげでルシウスはこの世界の歴史を知る手がかりになるであろう古代遺跡に


「こ、ここが古代遺跡ドラゴンルインズ!! 凄い、なんて大きさだ、どこかマヤの遺跡を思わせる祭壇を中心に広がる都市国家。大半は密林に飲み込まれているが、その原形をほとんど残してるなんて、驚きだ!」


『まぁ、竜が住んでた国らしいもんからねぇ。人間の国のそれより頑丈に作られてたんじゃないかもん? ここらはどうにも陰鬱でムシムシした場所もん。余り長居はしたくないもんねぇ』


「早く行ってみましょう!」


マレッサの言葉が聞こえているのかいないのか、はやる気持ちを抑えきれずルシウスはドラゴンルインズに向けて駆け出した。

城門と思わしき場所から堂々と入り、遺跡の建物を見て回る。

四角に切り出された巨大な石を積み上げた祭壇、ピラミッドにも似たその祭壇の頂上には苔むしてボロボロに風化した巨大な生き物の骨が鎮座していた。


「大きい、この骨の主はこの国の頂点にいたという竜でしょうか」


『古代竜の一種もんかねぇ。二千年以上経過しても、まだある程度は骨が形を残してる以上、魔力も相当高かったと思うもん。竜王クラスの存在だった可能性もあるもんねぇ』


「この竜の死が国を崩壊に導いたのでしょうか……」


マレッサが言う竜王というのがどの程度凄いのか分からないが、国の頂点に立つほどの竜だ、その死は国を揺るがすには十分だろう。


「でもよ、先生。伝説によると、この竜と国民はほぼ同時期に一斉に死んでるらしいんだよ。驕り高ぶった竜への神の怒りだとか、虐げた国民が命をかけて戦い相打ちになったとかいろんな事が言われてるが実際どうだったかはまるでわかってねぇんだ」


「エイドゥルさん、この竜の骨には傷らしい傷は見当たりませんし、この祭壇の周りにも大きな損傷はありません。恐らく、この場所で静かに死んだのでしょう。その死を嘆き悲しんだ国民が後を追った、と考えられなくもありませんが……」


まだ、ちゃんとした調査は出来ていないのだから答えなどでるはずもない。

頂点であるとは言え、竜の死を契機に国民全てが後を追う、などという事はあり得るのだろうか?

ルシウスは自分で口にした可能性に疑問を持つ。


『じゃあ、お前の勇者特権で調べればいいもん。竜の死因となったモノの場所を目的地にすればいいもん。『導き手』の能力はお前自身が知らない事柄でも問題ないもんからね。実にでたらめもん』


マレッサに言われ、ルシウスは自身の勇者特権『導き手』によって、竜を死に追いやったモノの場所へと向かう。

それは祭壇の地下、人の目から隠すように作られた部屋にある台座の上に置かれていた。

何重にも巻き付けられた鎖、その鎖におびただしい程張り付けられたお札、決して開けられないようにと、厳重な封印を施されて。

それは箱だった。

掌に収まる程度の小さな箱、真っ黒でおどろおどろしい邪悪な気配の漂う呪いに満ち満ちた箱。


『今すぐこの場所から離れるもん! これは、なんで、こんなものが』


慌てたマレッサが風の魔法を使って、その部屋から無理矢理に四人を外へと運び出した。


『あぁ、たちが悪い過ぎもん。あれなら竜王クラスの存在も、その下に居た国民も全滅したのも頷けるもん。お前たち、ここの調査はやめとくもん。絶位の聖魔法の浄化を何十発ぶちこんでもアレは浄化できないもん。最低でも断章の聖魔法が使える奴を五人以上集めないと、対処は無理もん』


「マレッサさん、一体アレは何なんですか?」


『アレは原初の呪い箱もん。オリジナルカース、この世界に生まれ落ちた最初の人間の呪いが込められた箱もん。生の完全否定、形のある死そのものもん。むき出しなら神でも死ぬ可能性あるもん。あれだけの封印がされてたとしても、お前たち程度が触れたらその場で死ぬもん。絶対触るなもん』


「そんなとんでもない物がなんでこんな所に?」


『わっちが知りたいくらいもんよ。あれは万年単位の過去の遺物もん。全部回収して冥域の底で浄化中のはずもん……。どうなってるもん」


困惑するマレッサとルシウスに恐る恐ると言った感じにニャーリーが声をかける。


「あの、先生。たぶんマレッサ様とお話中だとは思うんですが、アレって相当危ない物ですよね?」


「え? あぁ、マレッサさんが言うには原初の呪いで触れたら死ぬという遺物らしいです。絶対に触らないようにお願いします」


「えっと、その、それはわかったんですが、あの部屋にはあの箱が置かれていた台座とは別にもう一つ、台座があったんです」


ニャーリーの言葉にマレッサが驚く。


『はぁ、もう一つ台座があったもん!? あの呪い箱がもう一つあったって事もん!? 二つも神が回収できてない呪い箱があるとか、一大事もんよ、まったく』


「いや、待ってください、マレッサさん。あの部屋に箱は一つだけしかありませんでした。台座は二つありましたが、箱は片方の台座にしか置かれていませんでした」


『――ッ!?』


絶句したマレッサはすぐさまこの情報を本体や他の分神体に共有した。

原初の呪い箱はあの部屋に二つあり、何者かが一つを持ち出した可能性がある。

国を滅ぼす程の、神ですら殺しうる程の呪いが込められた箱がこの世界のどこかに。


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