35・自分の庇護下に凄い子がいたら自慢したくなるよねって話
野営地の片付けを終え、商隊はセルバブラッソへの街道を再び進み始める。
魔法具のおかげもあるのだが、乗馬にも多少の慣れが生まれ、周りを見る余裕が出てきていた。
リベルタ―からだいぶ離れ、セルバブラッソに近づくにつれ木々が増えてきたように思う。
この辺りは魔王国とセルバブラッソとの緩衝地帯でありクリーメンと呼ばれている場所ではあるが、一応は魔王国の領地らしく、年に何度か盗賊団の討伐なんかが行われているとパルカが教えてくれた。
『ま、魔王によるけれどね。魔王国は世襲制じゃなくて強い存在が上にたつの。魔王国は魔族の国、弱い奴の言う事なんて基本聞かないのが普通。だから、魔王は魔王国の中で最も強い存在が名乗れる称号でもあるわ。魔王個人の資質で国を統治してるから、その都度国の在り方が変わるのよ。人間と仲良くしたいって魔王もいたけれど、今の魔王は人類をある程度減らしたいみたいね。あちこちに戦争を仕掛けては領土を拡大してるわ。だからか国内の賊の方は各地方の領主に任せてるわ』
『おかげで今やマレッサピエーが最前線もん。他の近隣国も明日は我が身と援助はしてくれてるもんけど、中には魔王国と手を結ぼうとしてる所もあるもん。ま、それを見過ごす程オラシオは甘くはないもんよ。だてに『十一指』の一人に数えられてないもん』
『私様の魔王国にだって双璧と呼ばれるSランクの魔物すら片手で倒せるすんごい実力者がいるんだからね!! まぁ、その一人の獄炎のバルディーニはデイジーちゃんにデコピンで顔面潰されたけどね……。もう一人は魔王の側に控えて前線には出てこないけど、魔王軍は層が厚いのよ。双璧の他にもAランクやBランクの魔獣が多数配備された魔獣部隊や数多くのゴーレムで構成されたミリオンゴーレム部隊がいるんだもの、マレッサピエーも数日中には陥落しちゃうんじゃないかしら!!』
『いや、パルカも知ってるはずもん? 魔獣部隊もミリオンゴーレム部隊もたった一人の勇者に壊滅状態にされてるもん。わっちが守護してる国が召喚したもんけど、ぶっちゃけわっちでも引くもん。何あれ、反則ものもんよ。パワーバランスぶっ壊しすぎもん』
『んもぉおおお、何なのよアンタ!! 喧嘩売ってるの!! 自慢ばっかりして、たまたま運よく強い勇者が召喚できただけの癖に!!』
『いやぁ、わっちも悪いとは思ってるもん。だから謝るもぉん、めんごめんご、テヘペロぉおお!!』
『キィーー!! 人間、マレッサが私様をイジメるのよ!! 酷いと思わない!? 私様の信徒でしょ、慰めなさいよ!!』
『かぁー、すーぐヒイロに泣きつくもん!! 死の神のくせになっさけないもーん!! だいたい、ヒイロは最初にわっちの信徒になったもんよ!! ヒイロ、そこのところちゃんと忖度するもん!!』
わー、俺モテモテじゃーん嬉しいなー。
……なんて喜べねぇよ。
頭の上で、腕と一本足が生えた毛玉とゴシックドレスを着た三つ目の烏がギャーギャーと言い合いをしている。
なんだこの光景は……。
どうせなら人間に、せめて人型の存在にもてたい、俺は切実にそう思った。
さて、どうするか。
なんとか話題でもそらしてみるか、気になる言葉も出てきたし。
「な、なぁ、マレッサにパルカ。ちょっと気になる言葉があったんだが、イレブンってなんなんだ? あと、バルディーニが双璧って呼ばれてるのは知ってるんだが、もう一人はどんな奴なのかなーって」
俺の言葉に二人は言い合いをやめて、俺の方に向き直る。
『仕方ないもんねぇ、こっちの世界じゃどっちも一般常識もんよ? わっちが教えてあげるもん』
『ちょっと、もう一人の双璧は私様の領域の子なんだから、私様が説明するからね!! いいわね!!』
『うるさい奴もんねぇ。勝手にするといいもん。まず十一指について説明するもん。簡単に言えばこの大陸でもっとも強い十一人の魔法使いに授けられる称号もん。魔法ギルド、魔議会が認定してるもん。ちなみにオラシオは序列二位もん。この十一という数字は星神ステルラ様の指の数からとってるもん。あとはドラゴンナインっていう冒険者ギルド版もあるもん。一人で上位の竜種に匹敵する九人の実力者もん』
『もういいでしょ、今度は私様の番!! コホン、もう一人の双璧についてだったわよね、一人は獄炎のバルディーニ、この子はもう知ってるみたいだから割愛するわよ。バルディーニの対とも言える能力を持つ悪魔騎士、氷獄のヘンリエッテ。魔王近衛隊の総隊長でもあるわ。実力はバルディーニと同等だけど、ヘンリエッテは防御が凄いのよ。マレッサピエーのオラシオの光魔法だって簡単に防いじゃうんだから!!』
『あとは魔王国では実力によって爵位が与えられるもんから、そのまま爵位がランクとして機能してるもん。男爵から公爵まであるもんけど、男爵の時点でSランクの魔物並みの実力者もん。貴族クラスの魔族は他国の人間にとっては悪夢そのものもん。どんな貴族クラスだったとしても出会ったら戦わずに全力で逃げろって教えてるはずもん』
『なんで、アンタが私様の領域の子たちの説明するのよ!! ずるいわよ!!』
『ずるいとかそういう話じゃないもん。こっちの世界の常識を言っただけもんよ』
『うっさいわね!! 私様が説明したかったのに!!』
どうしよう、この二人、どうしても言い合いに発展する。
これはもう逆に仲が良いのではなかろうか。
そんな事を考え、ふと気になった事が口からでた。
「そう言えばなんだけどさ、魔王国はセルバブラッソにはなんで攻めないんだ? あちこちに戦争を仕掛けているんだろ? 隣国なんて一番近いんだし攻めやすいんじゃないか?」
『それは簡単な理由があるもん』
『そうね、どうしようもない理由があるわね』
意外にも二人が口を揃えて答えてくれた。
『『セルバブラッソには受肉したセルバがいるから』もん』