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34・世界が違うんだから生態系も違うよねって話

魔法でとてもゆっくり落ちる砂時計がクルリと周り、新たな時間を刻みだす。

落ち切るのにだいたい三時間くらい。

見張りの交代時間になったのを確認して、俺たちの次の見張りであるカマッセ・パピーの人たちが仮眠をとるテントに向かい、声をかける。


「ハーゲンさん、時間です。見張りの交代をお願いします。特に変わった事はありませんでした」


「んが……。あぁ、もう時間か、おつかれヒイロ君。君たちは朝からの作業を手伝ってもらう事になる。色々と身支度や後始末なんかでごたごたするから、片手間で食べれる物を用意しておくといい」


「はい、わかりました。わざわざありがとうございます」


「うむ、いい返事だ。見張りはおれたちカマッセ・パピーに任せて、ゆっくり休むといい」


「はい、お願いしますね」


簡単な引継ぎを行い、ハーゲンさんたちを見送って自分たちのテントに移動する。

テントの中で仮眠をとる為に寝具の準備にとりかかる。

元の世界の物に比べたら布団は薄くごわごわ、テントの中で使うにしても地面の感触が感じられ、何とも野性的だ。

しかし、そんな薄い布団でも二、三枚も重ねればそれなりの物にはなる。

そこまで寒くもないので、薄いタオルケット一枚でもしばらくは大丈夫だろう。

マレッサとパルカはそれぞれの定位置、俺の近くの空間とお気に入りのクッションの上、ですでに寝入っているようだが、神様って寝るものなのだろうか?

今更ではあるがそんな疑問がわく、また今度聞いてみよう。

テントを買った時におまけでもらった虫除けのお香を焚いて、布団に横になった。

テントの外からデイジー叔父さんの鼻歌が小さく聞こえる。

リベルタ―で買った色んな魔法具を利用して作ったシャワー室で汗を流しているのだろう。

デイジー叔父さんは何かと器用だなと思いながら、だんだんと意識が遠のいていくのを感じる。

どのくらい時間がたっただろうか、ふと、妙な気配というか視線というか、誰かがこちらを意識しているような、そんな不思議な感覚を覚え、目が覚めた。

寝ていた体を起こし、テントの外の様子をうかがう。

火の回りにカマッセ・パピーの人たちがいて、見張りをしているのが見えた。

他に怪しい人影などは見えない。

隣で寝ているデイジー叔父さんが何の反応もしていないのだから、気のせいなのかもしれない。

しかし、今もその不思議な感覚は続いている。

なんとなく、どこから意識されているのかが分かった。

俺たちが護衛をしていた荷馬車からだ。

あの荷馬車のどれかから、俺を意識している誰かがいる気がする。

商人やカネーガのテントは別の方向にあるし、チューニーの人たちのテントは荷馬車の近くだが、この感覚はたぶん普通の人間じゃないからあの人たちでもない、と思う。

何故こんな事が急に分かるようになったのだろう、と不思議に思ったが心当たりは一応ある。

マレッサとパルカを信仰するとちゃんと意識した事。

正式に信仰するにあたって、あの二人が何か加護みたいな物を授けてくれたんじゃないだろうか。

そうじゃなきゃ、俺が何者かの気配だとか意識だとかを察知できる訳がない。

確認しに行くにしても、こんな夜中に荷馬車に近づくというのは、泥棒と勘違いされる可能性が高い。

迷いはしたが、敵意とは違うようなので、俺は無視して寝なおす事にした。

まぁ、密輸してる商品が乗っているのだろうし、何かしらの呪いの人形でも入ってるんじゃないかな。

それはそれで嫌だが。

そんなくだらない事を考えながら、俺は再び眠りについた。

翌朝、雀のチュンチュンという鳴き声で目が覚めた。

既にデイジー叔父さんはいなかった。

もう目覚めて、外に出ているのだろう。

そう言えば、異世界にも雀っているんだなと寝ぼけた頭でテントの外に出て大きく伸びをする。

足元から「チュンチュン」と鳴く声が聞こえ、人懐っこい雀もいたものだと、そちらに視線を落とす。

そこにいたのは蜘蛛の脚が生えた掌サイズの目玉だった。

かさかさと動き周り、黒目をせわしなく動かしている。

黒目が動くたびに目玉自体からチュンチュンと音が鳴っているようだ。

なにこれ、キモ、コワ。


『ふあぁ~、よく寝たも~ん。んあ、ヒイロ、おはようもん』


「マ、マレッサ!! これ何!? 虫!? 魔物!? 何これ!?」


蜘蛛の脚が生えた目玉から距離を取り、目覚めたてのマレッサの後ろに隠れる。


『ん? なんだ、ただのチュンチュン虫だもん。眼球によく似た腹部を持ってるもんけど、その黒目の部分は磁石と似た性質を持つ磁性魔力鋼っていう鉱物もん。強い魔力に接すると活発に動いて腹部を覆っている透明な外骨格とぶつかる事でチュンチュンという音を鳴らすもん。磁性魔力鋼自体を採取する為に養殖もされてるし、有害なドブカスブンブンを主食にしてる益虫もん』


「え、益虫……。このグロテスクな見た目で益虫、いや、虫ってそういうもんか……。ていうかネーミングひどいな、なんだそのドブカスブンブンって」


『耳元でブンブンって音鳴らして寄ってくる超絶不快害虫もん。その不快さからドブカスブンブンの名前がついてるもん。虫除けのお香がなかったら、多分テントの中にも入って来てたと思うもん』


蚊みたいな物かな?

しかしドブカスブンブンか、よほど不快な虫なのだろう。

そんな事を思いながら、顔を洗うためにテント横に設置しているデイジー叔父さんお手製のシャワー室に向かう。

シャワー室の横にかなりの数の目玉、チュンチュン虫が何かに群がっているのが見えた。

ホラーどころかグロだよ、これ、子供が見たらガチ泣きするやつだよ……。


『噂をすればってやつもんね。ちょうどチュンチュン虫がドブカスブンブンを食べてるもん』


「うわぁ……」


ドブカスブンブン、蚊の様な物と考えていたが、その予想はおおよそ間違ってなかった。

大きさは桁違いだったが。

なにこれ、でかくね? 一メートルはあるぞ、このドブカスブンブン。

一メートルを越える蚊の身体をむさぼり食う目玉の数々。

見た目がショッキング過ぎるぞ。


『ちなみにドブカスブンブンは人が寝静まった夜中にこっそり飛んできて、耳元でブンブンと囁きながら耳の穴にその細長い口を突っ込んで中身をチューチュー啜るもん。啜られた人間は普通に廃人になるか死ぬもん』


「異世界怖すぎィ!! そんな虫がそこらへんを飛んでるのか!? コワ!!」


『夏の季節に大陸全土に大量発生する夏の風物詩もん。交尾の為に一か所に大量に集まってできるドブカスブンブンピラーはセルバブラッソ名物であり、巻き込まれれば絶対に死ぬと言われる死の柱もん』


「嫌すぎるだろ、そんな夏の風物詩……」


こんな虫がいるからテント買ったお店で虫除けのお香もおまけでくれたのか、ありがとう名も知らぬ店員さん。


「おはよう、ヒイロ君。もう野営の片付けが始まってるから、早めに身支度をして手伝いを頼む。出発自体はまだ少し先だが、カネーガさんのご機嫌取りも兼ねて、手早く動こう。そうすれば、後々良い事があるかもしれないからね」


「あ、おはようございます、モッブスさん。分かりました、すぐ支度します」


チューニーのリーダー、モッブスさんから声をかけられ、俺は急いで顔を洗い、テントや荷物の片付けを済ませ、他の人たちがテントの片付けや魔物除けの魔法具の撤去をしているのを手伝う事にした。

チュンチュン虫やドブカスブンブンのインパクトが大きすぎたせいで、俺は夜中に感じた変な視線の事はすっかり忘れていた。

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