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32・そういえばって話

野営地でテントを設置し、交代で見張りをしながら火を起こす魔法具で簡単な料理を作る。

食料はデイジー叔父さんにお願いしていたので、料理は俺がする事にした。

よくわかんない肉とよくわかんない野菜を適当に炒めた野菜炒めとパン、そしてほかの護衛チームの人から貰った肉団子のスープを食べ、晩御飯を楽しんだ。

夜になると魔物が活発化するらしいので、魔物除けの魔法具を野営地を囲むように配置して簡易結界を張る。

この結界を突破してくるのはかなり強力な魔物らしいので、そんな魔物が出たら対処するのも護衛任務の一つだ。

俺とデイジー叔父さんが見張りの時、かなり緊張はしていたのだが特に問題もなく時間が過ぎていった。


『あー、今日の晩御飯はいまいちだったもんねぇ。リベルターのご飯は本当に美味しかったもん。ヒイロ、もっと料理の勉強するもん』


『そうね、私様に捧げるには味も見た目も並み以下だったわ、供物舐めてんの? 真面目になさいよ人間』


フワフワと俺の近くを漂う腕の生えた毛玉マレッサとお気に入りのクッションの上でせっせと羽繕いをしている三つ目の烏が今日の晩御飯に文句をつける。

リベルタ―での食事がよほど気に入ったらしく、舌が肥えてしまったようだ。

俺の作った簡単手抜き料理では満足できなかったらしい。


「いやなら食べなくていいんだぞ。食べなくても平気なんだろ二人とも? 余分に作ると食料の減りも早くなるから、無駄使いはしたくないんだよ」


火の番をしながら、食料の残りをチェックする。

まだ一日目という事もあり、量はまだ十分あるがセルバブラッソに着いたらまた補給はしないといけないだろう。


『かー、ダメダメもんねぇヒイロは。神への供物を無駄扱いとか、場所が場所なら神裁判で厳罰が下る所もん。わっちの信徒なら、わっちにひもじい思いとかさせちゃダメもんよ』


『私様に対する信仰が薄いんじゃないかしら? 信仰する神に対してその態度、神罰くらわせるわよ人間。分を弁えなさいよ』


マレッサとパルカがギャーギャーと俺を責め立てる。

その時、ふと思った事が口を衝いて出た。


「そういえば、なんでパルカ付いてきてるんだ?」


パルカは魔王国の守護神であり、別に俺たちと何か縁がある訳でもないはずだが。

デイジー叔父さんとセヴェリーノの戦いの被害をリベルタ―に及ぼさない為にマレッサが呼び寄せた様な感じだったし、その件はとっくに終わっているのだからもう帰ってもいいのではないだろうか。


『……は?』


三つ目の烏が瞳を少し潤ませて首を傾げている。

俺は何かおかしな事を言っただろうか。


「ほら、マレッサはデイジー叔父さんがお願いしたって部分がある。正直、わざわざついてきてもらって悪いと思ってるくらいだ。でも、パルカはそうじゃないだろ? デイジー叔父さんにお願いされた訳でもないし、デイジー叔父さんとセヴェリーノの一件だってもう終わってるんだから、いちいちついて来る必要はないんじゃないか?」


俺の言葉に三つ目の烏はプルプルとその体を震わせる。


『あ、あんなにいっぱい信仰したくせに、あんなに供物もいっぱい捧げてきたくせに、なんでついてきてる、ですって?』


『ちょっとヒイロ!! 言って良い事と悪い事があるもんよ!! 信仰しといてそれは酷いもん!!』


『うわぁああああああああ!! 人間にもてあそばれたぁああああ!! あんなに凄い信仰初めてだったのにぃいいいいい!! あんなに信仰心のこもった供物も初めてだったのにィいいいいいいい!! 利用するだけ利用してポイ捨てするなんてぇええええええええ!!』


『あーあー、ヒイロが泣かしたもーん。わーるいんだ、悪いんだー。デイジーに言ってやろー』


ええ……神様がマジ泣きしてる。

そして俺が悪いのか? 

三つの瞳からダバーッと滝の如く涙を流すパルカの背中を軽くさする。


「いや、何も泣かなくても……。パルカは魔王国の守護神だし、分神体とはいえ俺なんかについてきてくれるのは悪い気がしたんだ。ほら、あの時はマレッサが無理矢理呼びつけてたし、俺たちの近くにいるのも嫌なんじゃないかって思ったから」


『わっちのせいにする気かもん? あの時、パルカの信徒でもないくせに、マレッサよりパルカの方を多く褒め称えてたのわっち聞き逃してないもんよ。信仰の二股とかホントなら四肢を引き裂いても飽き足らないくらいのクズの所業もんよ』


「あれはマレッサとパルカが褒め称えろって言ったから頑張って褒め称えたんであって、信仰するとかしないとかは関係ないだろ!? だいたい、俺はマレッサの信徒にもなった覚えはないんだが」


そこまで意識してなかった誉め言葉の数で責められるとは思ってもみなかった。

なんだこの状況。

俺は悪くないはずなのに、ものすごく悪い事をしたって責め立てられる感じ。

あれだ、小学校の時の学級会で女子に謎のクレーム付けられた時にすっごい似てる。


『信仰する気もないのに私様を褒め称えたって事? なにそれ、私様はちょっとおだてれば助けてくれる都合のいい神って事? うわぁあああああああああああ!!』


『あれだけわっちを褒め称えておいて信徒になった覚えはない!? 確かにデイジーのお願いもあったもんけど、質も量も豊富な信仰を捧げるヒイロに多少の情もわいて、わっちの恩恵で助けた事もあったもんのに、そんな事言うもん!? 信仰のやり逃げとか最悪もんよ!!』


パルカはまた大泣きするし、マレッサはぶち切れだしてしまった。

一体俺が何をしたって言うんだ。


「あーもう……。マレッサ、お前オークカイザ―さんの所で言ってたじゃないか、褒め称える事は疑似的な信仰って。だから、俺は本気で信仰してるつもりではなかったんだ、あくまでマレッサとパルカの力を高める為に心を込めて全力で褒め称えてただけなんだ」


『そう言えば、そんな事を言ったもんね。言葉に込められた思いとその魂の熱で本気の信仰と思ってたもんけど、ヒイロはそのつもりがなかったって事もんか……。はぁ、なんか色街の男娼に言葉巧みに乗せられてお金をつぎ込んだ気分もん、最悪な気分もん』


なんだかとんでもなく失礼な事を言われている気がする。

たしかに言われるまま褒め称えていたのは事実なのだが、パルカの言葉はなんだろう、ちょっと釈然としない。


『ヒック……、あんなに凄い信仰だったのに本人にその気がなかったなんて、私様ってほんと馬鹿神。浮かれてはしゃいで喜んでついて来たって言うのに……。私様の領域からだんだん離れて本体とのパスも薄れてきてるし、私様なんてそこらへんで惨めったらしく神力が尽きて霧散してしまえばいいんだわ……』


シクシクと泣きながらネガティブになっているパルカ。

女神って面倒くさいな、ほんの少しそう思ってしまった。

しかしまぁ、俺の誉め言葉が二人を勘違いさせていたのは事実だし、パルカがこのまま本当に霧散なんかしたら後味が悪すぎる。


「はぁ、分かったよ。神様を二人も信仰するっていうのはあまり褒められた事じゃあないんだろうけれど、マレッサには命を助けてもらったし、オークカイザーさんの傷を治療してもらった恩もある。パルカにはデイジー叔父さんとセヴェリーノの一件でリベルタ―に被害が出ないようマレッサと一緒に頑張ってもらった恩がある。二人がとんでもなく凄い神様だって事は、間近でそれを見た俺がよく分かってるし、どれだけ感謝してもしきれない。改めて、って事になるけど二人を信仰してもいいか? 二人が嫌じゃあなければ、だけど」


マレッサとパルカに向かって俺は頭を下げた。

数秒の沈黙の後、真昼と見紛う程の凄まじい光が発生し、俺はたまらず目をつぶる。


『うーっひょっひょっひょっ!! しっかたないもんねー!! ヒイロがそこまで言うなら、信仰させてあげてるのも、やぶさかではないもーん!! 今この時、この瞬間より、ヒイロはマレッサの信徒も―ん!! わっちが正式にそう決めたもーん!!』


『んほ!! し、仕方ないわね!! 人間がそこまで言うなら、このパルカの信徒にしてあげるわよ!! 人間風情がこの死の女神たるパルカの信徒になる誉を得た事をありがたく思う事ね!!』


すっごく分かりやすく機嫌がよくなった二人を見て、俺はこの女神たち、チョロすぎる、と思ってしまった。

前にも思った事だが、改めて思う。

いつか誰かに騙されて手酷い目に合いそうだと。

はぁ、と大きなため息をついて、俺はご機嫌なマレッサとパルカを見ながら何とも言えない笑みを浮かべるのだった。


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