31・出会いがあれば別れもあるって話
最後の打ち合わせを終え、護衛チームはそれぞれ商隊の先頭、真ん中、最後尾の三か所に分かれて配置についた。
先頭はハーゲンがリーダーを務めるカマッセ・パピー、真ん中をモッブスがリーダーのチューニー、最後尾を俺たちが護衛する事になった。
歩きだけで商隊を護衛するのは体力的にきつそうだと思っていたのだが、盗賊ギルド『エルドラド』のギルドマスターであるザハールさんが馬を準備してくれていたらしく、護衛チームはそれに乗っていく事に。
俺に乗馬の経験などないのだが、鞍や鐙なんかに素人でも乗れるような魔法が込められているそうで、特に問題なく乗る事が出来た。
魔法って便利だな。
ザハールさんに直接会ってお礼を言いたかったが時間的に難しそうなので、セヴェリーノにお礼を伝えてもらう事にした。
商隊のキャンプ地を出発し、リベルタ―の大通りを商隊の列がゆっくりと移動する。
朝早くの出発だからか、リベルタ―の街中はまだ静かで、通りの端で酔っ払いが酒瓶を持って寝ているのをたまに見かけるくらいだった。
「あっはっはっはっ、リベルタ―の街なかで寝てたら身包み剥がれて下手したら殺されてるさ。あれはこの馬車の動きを見てるどこぞの盗賊団の下っ端だぞ」
「マジで? リベルタ―ってやっぱり油断しちゃダメな所なんだ……」
「そりゃあそうさ、自由と退廃の街リベルタ―はあらゆる娯楽と自由を楽しめる街だが、それは自分で自分を守れる力を持つ奴だけが享受できる物だ。油断なんかしてたら奪われる、自分が自由である為には力が必要なのさ。まぁ、ここリベルタ―ではそれが顕著ってだけで、他の国も似たようなものだけどな」
そんな事を歩きながらついて来るセヴェリーノと話しながら、リベルターの街中を進んでいく。
もうじきリベルタ―の外に出る段になって、先頭の馬車の方を見てみると、ハーゲンやパンプルムス、マリユスにバニニが武器を構えているのが見えた。
チューニーの人たちも警戒をしている。
デイジー叔父さんは馬の上でサングラスかけて、日焼け止めクリーム(自作したらしい)を入念に肌になじませている。
緊張感の欠片もないのだが、それは俺も一緒か。
「リベルタ―の数少ない法の一つに街の中では外様の商人を襲わないってのがある。街を出入りする商人をないがしろにすると、街は衰退するからな。これは『エルドラド』のギルマスであるザハールが決めた事で、『エルドラド』に属する奴らはこれを遵守する。破れば、まぁそれなりにキツイ罰があるからな。だが、それはあくまで街の中だけに適用される。外に出れば、盗賊だの強盗だのが当たり前のように襲ってくる。リベルタ―の街からそれなりに離れれば諦めるだろうが、まぁ、恒例行事みたいなもんだ、諦めてくれ。ヒイロにはデイジーもいるし問題ないだろう」
「前にも聞いたけど、結局襲われるなら商人来なくなるんじゃ……」
「安全に交易するには護衛を雇うか、外で襲ってくるやつらの上に賄賂を贈る事だな。カネーガもそれくらいは対処してるだろうが、それでも遊び感覚で襲う奴は少なからずいるのがリベルタ―だぞ。その危険と利益を天秤にかけて利益に傾くならどこだろうとやってくるのが商人って奴なのさ。あいつらもあいつらで十分いかれてるのさ」
「はぁ、たくましいなぁ」
先頭の馬車がリベルタ―の外へ出たが、周りに動きはない。
二台目、三台目と馬車は外へ出ていく。
「じゃあ、ここでお別れだな。デイジー、ヒイロほんの二、三日だったが楽しかったよ。いつかまた会う事もあるだろう、またな」
「うん、色々ありがとうセヴェリーノ。またいつか」
「あはぁん、またねぇんセヴェリーノちゃん。その時はまた、熱くて痺れるような時間を過ごしましょうねぇん」
デイジー叔父さんの言葉にセヴェリーノは笑って答えた。
「あっはっはっはっ、当然だ。次は勝って見せるぞ」
「うふん、楽しみにしてるわぁん」
チュバッ!! とセヴェリーノに投げキッスとするデイジー叔父さん。
そして、五台目、俺たちが護衛をする馬車がリベルタ―の外に出た瞬間。
「ひゃっはーーーー!! 馬車が外に出たぞ!! 野郎共やっちまえーー!!」
数十人の武器を構えた男たちが建物の影や土の中、岩陰から現れ、馬車目がけて凄い勢いで向かってきた。
カマッセ・パピーとチューニーの人たちが向かってくる賊に対し、武器を向けて迎え撃つ体勢を取る。
「意外と多いな。密輸品、しかもカネーガが自らやって来てるとあっちゃあ、相当な品だと考えたんだろうな。デイジー、ヒイロ、餞別代りだ、今のおいらの力を披露するよ。雷の神眼、神の一部を与えられた者の力の一端をよく見ておきな」
どんどん迫ってくる賊を軽く見回し、セヴェリーノは両腕を大きく広げ、拳を硬く握りしめる。
刹那、セヴェリーノの体を電気が包み込み、バチバチと凄まじい破裂音を辺りに響かせた。
「雷霆砲」
その言葉が放たれた瞬間、凄まじい轟音と共に眩い光りが空間を埋め尽くし、その眩しさに俺はたまらず目を閉じる。
数秒後には轟音はやみ、パチパチという乾いた破裂音と共に焼け焦げた臭いがそこかしこから漂ってきた。
目を開けて周囲を確認すると、数十人はいた賊全てが全身の至る所から煙を出し、黒焦げになって倒れ込んでいた。
息はあるようなので、死んではいないようだが……。
「せっかくの別れの祝砲なんだ、殺しちゃあいないよ。軽く痛い目にあってもらっただけだぞ。これで少しは時間が稼げるだろう、早く行くといい。じゃあ、元気でなデイジー、ヒイロ」
「う、うん。元気でねセヴェリーノ」
「元気でねぇん、奇麗な花火だったわよぉん」
ド派手は祝砲に若干ドン引きしながら、俺たちはリベルタ―の街を後にした。
ちなみにカマッセ・パピーとチューニーの人たち、カネーガ以外の商人はセヴェリーノの祝砲を見て、大口を開けて呆然としていた。
セヴェリーノの祝砲が効いたのか最初の襲撃以降、誰も襲ってくる事はなく安全に街道を進み、無事に一日目の野営予定地に到着できたのだった。