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3・チートスキルってあると使ってみたくなるよねって話

オラシオの放った白い光りの矢を握り潰し、砕いたデイジーおじさんを見て、隊列を組んで俺たちを取り囲む騎士たちが少しざわついている。


「嘘だろ……エスピナル様の裁きの矢を掴んだ上に砕いただと……? 無詠唱だったとは言え一等級の光属性の魔法だぞ……」


「放たれれば回避不可能であるとされる全属性魔法の中で最速に位置する光魔法を防ぐでもなく掴むとは……人間技ではない……」


「魔力測定器の魔力針が振り切れて上限が測りきれない、なんなんだあいつは……。こんな事は極位はおろか絶位に達した魔術士ですらありえないというのに……」


なんかデイジー叔父さんの事で騒いでるようだけれど、やっぱりさっきの白い光りの矢を掴んで潰した事はとんでもない事のようだ。

魔法という言葉にときめく物を感じるが、今はたぶん命の危険が迫っているのだろうとは思う。

ただ、デイジー叔父さんのおかげというか、せいというか、そこまでの危機感は残念ながら感じる事はできていないのだが。


「いやぁだもう、みんなしてあたくしの事をコソコソお話しちゃって。もっとはっきり言ったらどうなのかしらぁん? こんな絶世の美貌を持った存在に恐れおののいてるんでしょッ!! いいのよ、もっと大きな声で賛美しても!!」


「おじさん、ごめん。今たぶん真面目な場面だから」


「あたくしはいつでも真面目でプリティーよん!!」


「うん、わかったから。ちょっと静かにしててお願い」


「カワイイ甥っ子のお願いだものねぇん、仕方ないわ!! デイジーちゃん静かにしちゃう!!」


静かにしてくれたのはいいんだけど、クネクネと筋肉の塊が動いてるのはなんというか、迫力がありすぎていちいち筋肉がうるさく感じてしまう。

さて、これからどうしたものか。

たぶん、デイジー叔父さんならこの状況でも何の問題もなくごく普通に突破できる気がする。

さっきのメイドと騎士との戦闘とも呼べない戦闘を見ていたせいか、そんな情景がありありと想像できてしまう。

ただ、あの宰相、オラシオは強敵な気がする。

おそらくデイジー叔父さんに負けて殺されていないメイドや騎士を見て、恥を晒したって事で始末しようとあの魔法を放ったのだろう。

デイジー叔父さんはあっさりと握り潰してはいたが。

しかし、あの魔法はとんでもない魔法のはずだ、そうじゃなきゃ周りの騎士たちが騒ぐはずがない。

とは言え、俺が警戒したところで何ができる訳ではないのだけれど、他の召喚された人たちをほったらかしにして逃げだすってのはなんだか嫌だ。

どうせなら、みんな助けたいし、元の世界に帰してあげたいとも思う。

だいたい、せっかく夏休みに入ったばかりだったのに、こんな訳の分からない状態ってのは勘弁してほしい。

そんな事を考えていると、突然ゴッデス大蝦蟇斎さんが叫び出した。


「ウヒョオオオオ!! なにこれすっごい!! やっぱり異世界転移って言ったらチート能力よね!!」


「いきなりどうしたんですか、恥ずかしいんでちょっと離れてもらっていいですか?」


突然訳の分からない事を言い出すゴッデス大蝦蟇斎さんに痛々しいものを感じた俺は少しだけ距離を取る。


「ちょっとやめて、そういうのマジで傷つくから。泣くわよ? 大の大人がガチで泣きわめくわよ? ってそんな事は今はどうでも――どうでもはよくないけど、どうでもいいのよ!! 見なさい私の力を!!」


そう言って、ゴッデス大蝦蟇斎さんは勢いよく右の掌を前に突き出した。


「スキル魔剣創造発動ッ!! 来たれ邪神のオーラを纏いし漆黒の暗黒邪剣!! 我が声に応え、その真なる姿をここに現せ!!」 


そう叫んだ瞬間、ゴッデス大蝦蟇斎さんの身体から真っ黒い煙の様な物が激しく噴き出し、その黒い煙は突き出された右手へと集まっていった。


「というか、魔剣創造なのに邪剣ってなんかおかしくないですか? あと漆黒と暗黒だと黒と黒でなんか意味被ってません? あと何でいきなり真の姿なんですか?」


「今はそういうマジレスは求めてないから、黙って見てて!!」


「さーせん」


ゴッデス大蝦蟇斎さんの剣幕に俺はぺこりと頭を下げた。

大人って怖い。


「まさか、もう勇者特権が発現したのか!? いかん、早く制圧しなければ!! かかれ、なんとしてもあの女を止めるのだ!!」


ゴッデス大蝦蟇斎さんの様子を見て、オラシオが焦った様子で騎士たちに指示を飛ばしていた。

勇者特権? 気になる単語ではあるが今は気にしている暇はない、オラシオの声とほぼ同時にやってくる騎士たちをどうにかしなければ。


「デイジー叔父さん!!」


「お任せよぉん!!」


俺がデイジー叔父さんに声をかけた刹那、デイジー叔父さんはすでに行動を終わらせていた。

殺到していた騎士たちが一人残らず弾き飛ばされ、そのまま壁に激突したり硬い石床に叩きつけられていくのを尻目に、デイジー叔父さんは頭の後ろで腕を組んで何やらポーズを決めている。

セクシーポーズのつもりなのだろうか、その筋肉量ではどうみてもアブドミナル&サイにしか見えない。

瞬く間に倒された騎士たちを見てオラシオは苦々しい表情を浮かべている。


「ええい、不甲斐ない!! 無詠唱の一等級でダメならば、この魔法を使うも致し方なし!! 光の断章、数多の光を束ね鎖と成せ、閃光の大縛鎖、レスプランドールカデーナッ!!」


そう言ってオラシオが手に持っている杖を高く掲げると、突如として部屋のいたる所に数十にも及ぶ光の球が現れ、一瞬光ったかと思うと白く光り輝く大きな鎖が幾本もデイジー叔父さんとゴッデス大蝦蟇斎さんに巻き付いていた。


「な、なにこれ!! せっかくチートスキル試してたのに!!」


「いやぁん、緊縛プレイは趣味じゃないのにぃん」


デイジー叔父さんが顔をちょっと赤らめてる気がするのはきっと気のせいだろう。

あと、比率おかしくない?

ゴッデス大蝦蟇斎さんには一本しか鎖が巻き付いていないのに、デイジー叔父さんには何十本も巻き付いている。

そのせいで、デイジー叔父さんは光る鎖の球体から頭を出してるだけの状態に見えた。

まぁ、その状態でもかなり余裕そうだし、そうした相手の気持ちは分からないでもない。


「ぬぅ、一本で中型ドラゴンすら抑え込めるというに、これでも完全に抑えきれんとは何という膂力!! しかし今は時が惜しい、誰ぞ、あの女の勇者特権の発動を止めよ!! これ以上は命の危険すらある!!」


ん? どういう事だ?

命の危険すらある、だって?

なんでゴッデス大蝦蟇斎さんの命の危険をオラシオが気にしてるんだ?

疑問に思ってしまうともうどうしようもない。

確かめなくてはならない。


「ゴッデス大蝦蟇斎さん、とりあえずその魔剣創造っていうのやめてもらっていいですか?」


「え、あともうちょっとで完成するのに? たぶん、この魔剣が完成したらこんな鎖、豆腐を切るより簡単に切り裂けるわよ? そういう風に私が想像したんだから、そういう風になるはずなのよ」


「お願いします。ちょっと気になる事をあの爺さんが言ったので」


「……わかったわよ。魔剣よ、その形を霧散せよ!!」


その言葉を合図にゴッデス大蝦蟇斎さんの右の掌で半分以上出来上がっていた魔剣が黒い塵となって空気中に消えていった。

オラシオが俺たちを少し驚いたような顔で見ているのに気付いた。


「とりあえず、ちゃんと話しをしたいんですけど、いいですか?」


俺の言葉にオラシオは少し思案顔になり、しばらくの沈黙の後、杖の先で石床を軽く叩いた。

カーン、軽く響く音と共にデイジー叔父さんとゴッデス大蝦蟇斎さんに巻き付いていた光の鎖が消えていく。

デイジー叔父さんに巻き付いていた鎖の数が多かったせいで、全ての鎖が消えるまで時間がかかりそうだったが、デイジー叔父さんはちょっと蒸れるわね、と言いフンッと力を入れてまだニ、三十本は残っていた鎖全てを容易く引きちぎってしまった。

それを見てオラシオは鼻水を垂らしながら、バケモノと呟いていた。

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