289・つい過小評価しちゃう人っているよねって話
荒れ狂う嵐と豪雨の中で炎雷と巨岩が空を舞っている。
フィーニスが暴れてた時と同じかそれ以上の荒れ具合だ、凄まじい雷と炎と岩と水とが嵐によって攪拌されて、ソロモンの山の如き巨体がまるでミキサーに入れられた食材のように削られていくのが遠目にも分かった。
「これって、セヴェリーノたちが戦いを再開したのか? 方角からして、たぶんソロモンの魂核がある場所かな」
『んー魔力の感じからして、バルディーニも戦ってるみたいね。でも妙ね、あの子ってば他人の戦いにわざわざ首を突っ込むような子じゃないのに。ソロモンの魂核を回収するような人情味のある子でもないし、単純にデイジーの件で我を忘れてるのかしら? 』
セヴェリーノとその兄であるフランコがソロモンの外に出てから、改めて家督争いの戦いを始めたと思っていたが、パルカが言うには何故かそれにバルディーニも参戦しているらしい。
デイジー叔父さんが挑発したせいで我を忘れる程怒っているなら、訳も分からず手当たり次第に喧嘩を売っているとしても不思議ではないが、我を忘れているからと言ってあの二人の戦いに割って入れるほどバルディーニは強いのだろうか?
ゴッデス大蝦蟇斎さんは戦いが上手いと言っていたが、セヴェリーノはデイジー叔父さんと数時間戦い続けられるほどの強さだ、それと戦えている兄であるフランコも似たような物だと考えられる。
なら、あの二人の戦いに割って入った所でバルディーニはすぐに排除されると思うんだが。
『その顔からして、バルディーニを舐め腐ってるもんね? まぁ、デイジーが一撃で倒したのをその目で見てるもんから、そういう認識になるのは仕方ないもんか。ヒイロ、言っておくもんけどバルディーニを舐めちゃあいけないもん、魔王国の双璧という肩書は伊達じゃあないもん。だいたい、強さの基準にデイジーを混ぜたらダメもんよ、デイジー入れたら神すらその他大勢に入るもん』
「確かに、それはそうか。いくらデイジー叔父さんにワンパンで負けたからってバルディーニが弱いって事にはならないか。それはそれとして、なんでバルディーニはセヴェリーノたちの戦いに混ざってるんだ? やっぱりデイジー叔父さんの挨拶に怒って、前後不覚になってるんだろうか」
『いくら何でもそこまで我を忘れ続けるような奴じゃあないはずもん。まぁデイジー相手だったから確信を持って言えないもんけどね』
「うーん、これはデイジー叔父さんが言ったようにちゃんと謝罪をするべきなんじゃないか? お詫びの品は家畜の糞が原材料の着火剤くらいしかないけど」
『ゴッデス大蝦蟇斎が言ってたのはこの事もんか。絶対それ辞めるもん、火に油もん』
ゴッデス大蝦蟇斎さんに続き、マレッサにもやめろと言われてしまった。
結構、便利なんだけどなこの着火剤。
そんな事を考えているとマジックバッグの中からナルカが姿を見せた、どうやら目が覚めたようだ。
「あーなんかすっごいバーンってきて、びっくりして寝てたー。いま何してるのー?」
「あぁ、目が覚めたんだなナルカ、痛い所とかないか? 今は俺たちがソロモンの中に居た時の外の様子とかを話してたんだ」
「うん、痛くないよー。今外なんだー、なんかすっごい嵐ーフィーニスが暴れてた時みたいー。それで、なんか姉母様に似てるのがあっちにあるけど、あれなにー?」
「パルカに似てるのがあっちに? あっちって……」
パルカに似ているのがある、そう言ってナルカが触手を伸ばした先には雷と炎と巨岩が竜巻の如く渦巻いていた。
それはつまり、セヴェリーノとフランコとバルディーニが戦っている場所であり、つまりはソロモンの魂核がある場所だ。
「あそこにパルカに似たものがある……、パルカ何か心当たりとかあるか?」
『うーん、いいえ、私様には何も感じないわ。マレッサは何か感じる?』
『ちょっと待つもん、むむむむ……確かに、微かになにかパルカ風味の残り香的な痕跡を感じるような感じないような、めっちゃうっすらだから判別できないもん……。あー、くしゃみが出そうで出ない感覚、スッキリしないもんねー!!』
パルカは何も感じていないがマレッサは不確かだが微かに何かを感じとっているようだ。
ナルカはパルカの魔力を受けて死の精霊として生まれ変わっている、それが原因でパルカに似た何かを感じているのかもしれない。
「ちょっと気になるわねぇん、ナルカちゃんが感じ取ったパルカちゃんに似たなにか。うーん、一応ジョウジちゃんからのお願いは果たしたとみていいとは思うし、オラシオちゃんにちょっと事情の説明に行きたいって気持ちもあるわねぇん、どうしたものかしらぁん」
デイジー叔父さんが顎に手を軽く当てて困ったように身体をくねらせる。
確かにそう言われれば、ジョウジから依頼された事は達成していると考えていいはずだ。
勇者兵が連鎖的な世界の修正を引き起こす可能性を危惧していたジョウジは俺たちに勇者兵の排除を依頼してきた、世界の修正の凄まじさは実際に体感したデイジー叔父さんが一番よく分かっている。
だからその依頼を俺たちは受け、勇者兵の排除自体はデイジー叔父さんのデイジーディメンションという空間に隔離、保護する事で成功している。
だが、勇者兵はマレッサピエー側にとっての切り札、それが失われるという事はかなりの戦力ダウンを意味する、切り札を失った状態で魔王軍と戦ったならかなりの被害を被るか、もしくは壊滅する可能性もある。
そうなれば、俺たちのせいでマレッサピエーが敗北したと言っても過言ではない、俺だって人間だ、そんな業を背負って生きていけるほど図太くはない。
仕方なしに俺たちはジョウジの思惑通り、勇者兵の代わりの戦力として最前線にやってきて、そしてソロモンを足止めし撃破した。
なら、一旦戦場から引いて、オラシオに俺たちの事情を説明した方がいいかもしれない、だが……。
「デイジー叔父さんの言う通り、オラシオに説明に行った方がいいとは思う。でも、ナルカが言ったパルカに似たものっていうのが何だか気になる。パルカは何も感じないとは言ったけど、もし、パルカに関連する何かなんだとしたら、セヴェリーノたちの戦いに巻き込まれて壊れたりしたら嫌だし、念の為回収した方がいいんじゃないかな」
『私様としては何も感じないからどうでもいいんだけれど、人間がそこまで言うならナルカの感じた私様に似たなにかを確かめに行くくらいはいいかもね。デイジーが一緒に行くのが絶対条件だけど』
そう言ってパルカが俺の肩に留まった、パルカがこう言うのなら話は決まりだ。
「じゃあ、私はここに残ってあの陽キャ神様に諸々の説明して、その後、オラシオのじいさんの所に行ってヒイロ君やデイジーちゃんの事を話しておくわ。心を読んで大体の事は分かったから。ちょっと疲れたってのもあるし、私についてるマレッサちゃんも結構へとへとで私の魔剣の中で休んでるからね」
「ありがとうございます、ゴッデス大蝦蟇斎さん。じゃあ、オラシオへの説明とかお願いします。それじゃあデイジー叔父さん、パルカに似た何かを確かめに行くの手伝ってもらっていい?」
俺が尋ねると、デイジー叔父さんは指でハートマークを作り、バチコーンとウィンクをした。
ハートマークから迸る謎のピンクの光とウィンクの風圧で軽く身体がよろめいてしまう。
「もちのろんろんよぉん!! じゃ、早速行きましょ!!」
さて、雷と炎と岩が空を舞い、豪雨が降り注ぐ嵐の中心に突っ込む訳だが、ナルカが感じ取ったパルカに似たなにかってのは一体なんなんだろうか。




