288・ほかの勇者はどうしているのかって話22
時は少し遡り、四大公爵が消耗しソロモンとなって、周辺の生き物を無差別に襲っていた時、戦場のある一角で四人の人間がソロモンの触腕から逃れて隠れ潜んでいた。
「クヒ、あ、ありがとうございます。お助けいただいて、一応、その自分も勇者として召喚されたんですけど、あの、戦闘に向いてない勇者特権で戦いとか全然で……。自分の勇者特権『廃品利用』は見た事のあるスキルを複製しストックして使用する事が出来るんですけど、一回使ったら消えちゃう上に効果は劣化してるゴミスキルでして、クヒヒ、あの、なんかごめんなさい……」
「もーまんたいだし!! 新しい勇フレが増えてあーしアゲアゲだし、見たスキルをコピって使い捨てってなんかエコって感じで地球に優しさ有りまくりでありよりのありありじゃん!!」
「ク、クヒ、あ、はい、その、近いんで、離れてもらえると、その助かります……」
「気にしないでいいよーあーし、そういうのへーきだから!! おんなじ勇者で勇フレじゃん、遠慮しないでね!!」
「いや、あの、自分の方が気にするっていうか、その、ホント近いんで……。あと勇フレって一体……?」
「勇者の友達で勇フレだし!! 今考えたの、イケてるでしょ、ウブッちもつかっていーよ!!」
「あー、そういう意味、……ってウブッち??」
伸ばした前髪で目を隠し、サイズの大きなパーカーとダボっとしたパンツ姿でおどおどとした様子の小柄な二十代の女性、ウブッちもとい根多見初心女は初対面からガンガン距離感を詰めてくる小麦色に焼けた肌と長い茶髪で毛先を軽くカールさせた制服姿の少女、天賀江リタにまつ毛が触れるくらいの距離まで接近され、困惑していた。
初心女は卑屈な笑みを浮かべつつ、リタをなんとかかわそうとするが、リタは初心女のそんな態度を完全に無視、というか一切気付く事なく距離をガン詰めしていく。
「あの、リタちゃん、さっきのあのでっかい肉のお山みたいなのから生えた触手から助けてくれた事は、感謝してますけど、その、なんでこんなにくっつくんですか……、いや、あのいやって訳じゃないんですけど、あの、ごめんなさい」
「なんで? だってウブッちってあーしの周りに今まで居なかったタイプの人だしー、なんか仲良くなりたいなーって感じ? あとごめんなさいとか言わなくていーよー、ほらなんかよく言うじゃん、情けは人のためごろーみたいな?」
「それは情けは人の為ならず、じゃないですかね……」
「それそれー。あーしが助けたいから助けただけだしー、ていうか、困ってる人見たら助けるっしょ、誰でも」
「はぁ……」
リタに絡まれ、若干気疲れ気味な初心女。
そんな二人の様子を見て、堀の深い顔立ちでスーツを着た男性ルシウス・アベが苦笑いを浮かべる。
「リタさん、初心女さんが困ってますから、あまり話しかけるのは遠慮してあげてください。ここもいつ危険になるか分かりませんから、体力は温存しておかないと」
ルシウスの言葉を聞き、リタはえーと文句言いつつ初心女から少しだけ身体を離した。
ようやくリタが離れてくれた事に初心女は小さくため息を吐いて安堵しつつ、コミュニケーションが苦手な自分に対して卑屈な笑みを浮かべる。
「ルシウス先生、リタさん、初心女さん、ごめんなさい。わたしの勇者特権がまだ使えないみたいで、もう少し休めば使えるようになると思うんですが……」
ルシウス、リタ、初心女の三人の背後で着物姿の背の低い女性、凍晴六花が暗い表情を浮かべたままそうこぼした。
「そんな事ないよ、六花ちゃん!! あのキモイデカ肉のでっかい木みたいな肉の手が迫ってきた時にとっさに勇者特権使ってあーしたちを別の場所にワープさせてくれたじゃん!! 六花ちゃんが居なかったらマジヤババだったって!!」
「でも、ワープした後に襲ってきたあの大きな触手をスマホのカメラ機能で切り取って無力化したのはリタさんですし、安全な場所まで案内してくれたのはルシウス先生です。初心女さんに至ってはわたしの勇者特権のワープに巻き込んでしまって、こんな目に……。自力でなんとか出来たかもしれないのに、本当にごめんなさい。せめてもっと離れた場所にワープ出来ていたら……」
六花が深く頭を下げる、リタとルシウスはそんな六花をなんとか励まそうとするが自責の念に駆られている六花の表情は晴れる事はなかった。
「あ、あの、その、あの時は自分も咄嗟の事で勇者特権使う余裕なんてなかったですし、そんな凄い勇者特権って訳でもないし、助けてもらったのは確かですから、そんな卑下しないでください、ホントに誰も貴女を責めたり、してないですから」
そんな事を言いつつ初心女は内心、六花を羨んで妬んでいた。
咄嗟に勇者特権を使い仲間を助けようとする勇気、他人を巻き込んでしまった事を自分のせいでと思う責任感、そして、そんな六花を励まそうと肯定してくれる仲間。
どれも自分にはない物だと初心女は思った、自分と同じ勇者同盟の七勇者であるジョウジは確かに自分を肯定し褒めてくれる、他の七勇者であるショウは自分を庇ってくれる、千万やナナシ、カクは程よい距離感でそれなりに接してくれる、戌彦は怒りっぽくて苦手ではあるが力は認めてくれている。
(だが、もし自分が勇者特権を持っていなかったら? もし嫉妬の権能に適応できていなかったら?)
もしかしたら捨てられていたかもしれない、そんな疑念がぬぐえなかった。
初心女は召喚された当初は自身に発現した自分だけの勇者特権を誇らしく思っていた、だからこそ歪み、ジョウジに唆された事で捻じ曲がり、勇者同盟を設立する七勇者の一人となった。
だが、使用する度に自身の持つ勇者特権がショボいと思い込み、元々根暗寄りだった性格はより暗く、より陰気になっていた、それは嫉妬の権能を取り込んだ事でより加速している事に本人は気付かずにいる。
(この人たちは優しくて勇気があって知的で、凄い勇者特権も持ってて、いいなぁ、羨ましいなぁ)
初心女は六花だけでなく、リタやルシウスたちも同様に羨み、妬んでいた。
六花と同じかそれ以上にどんよりとジットリとした雰囲気をかもしだす初心女、その時、ルシウス、リタ、六花にそれぞれくっついている毛玉状態のマレッサたちが声をあげた。
『お前たち、何をお喋りばかりしてるもん。いずれソロモンがわっち達に気付くもん。ルシウスがさっき言った通り、いつまでここが安全か分からないもんよ。オラシオの言ってた魔王軍の物資とかをかっぱらうってのはもう無理と思っていいもん。六花の勇者特権が回復次第、本陣に一端撤退するもん』
『そうした方がマジでいいもん、リタのスマホも魔力切れであと何枚かしかパシャれないし、他のあぷり? ってやつもどれくらい使えるかビミョーもん。このままじゃ、ソロモンと戦ってる連中の戦いに巻き込まれて、マジメンディー事になるもん。邪魔にならない為にも撤退するべきもん』
『戦闘面ではあの魔剣の勇者であるゴッデス大蝦蟇斎がずば抜けてるもん、ソロモンの足止めはあっちに任せるもん。あともう少しで六花の勇者特権が再使用可能になるもんから、まずは身の安全を第一に動くもんよ。既にオラシオが対ソロモンの為に動いてるって報告が来てるもんから、気にせず撤退もん』
口々に撤退を促すマレッサたちだが、その中に初心女についているマレッサは含まれていない。
ルシウスたちはそれを不思議には思っていない、何故なら彼らは初心女がこの世界に残ると決めた為にマレッサが離れた勇者だと思っているからである。
何故か?
先刻、ソロモンの攻撃が襲いかかってきた際に六花は自身の勇者特権を使ってワープを行い、初心女はそれに巻き込まれ別の場所で三人に見つかってしまった。
現在、勇者同盟とマレッサピエー連合軍は限定的な協力関係にあり、当然初心女やルシウスたちはそれを知っていた、だが、少し前まで敵対していたような組織の人間がいつの間にか自分たちを尾行していた事実はルシウスたちに警戒心を抱かせるのには十分であった。
何故、三人を尾行していたのか、という理由を自分の目的を隠しながら説明する事は自分には不可能だと思った初心女は同じ七勇者であるカクの『拡大解釈』と千万の『千変万化』を併用し、同じ勇者であると言う事実を仲間であり友達であると拡大解釈させ、勇者同盟であるという事実をこの世界に残る事を決めた勇者であるという認識に変化させたのだ。
その影響でリタの距離感が異様に近しい物となったのは初心女にとっては想定外であったが、劣化した勇者特権の行使である以上、時間経過で効果は消える、少しの間の我慢だと初心女は自分に言い聞かせていた。
「そ、そうですね、一旦撤退して対策を練った方がいいかもですよね、クヒ」
初心女の目的はルシウスの『導き手』、リタの『ウィズユースマホ』、六花の『座標転移』の三つの勇者特権を複製しストックする事、それが同じ七勇者であるジョウジから頼まれた事だった。
自分の勇者特権が役に立つ限り、勇者同盟の七勇者という立場を追われる事も捨てられる事もない、その思いが初心女を動かしている。
何故、三人の勇者特権を複製しストックするのかなぞ初心女にはどうでも良い事だった。
初心女は知らない、嫉妬の権能を取り込んだ事で自身が変質している事を、自身の勇者特権もまた歪んできている事を。




