287・何故かみんな呆れた顔で俺を見てくるって話
「あの赤髪髭おやじが姿を現してから少し戦ってみたけど、キレてるくせに戦いが上手いって印象だったわ。魔力隠すのが上手くて魔法の起点が分からないし、体術もあのクソ生意気なガキ陰陽師より匠だし、あの炎はうざいしさー。心読むのも魔法か何かで邪魔されてて読めなかったのよねぇ。後からパルカちゃんから魔王国の双璧の片割れって聞いたけど、さすがラスボスのお付きって感じね。魔力の総量なら私が上だと思うけど、それ以上に厄介で面倒な相手だったわ。あと喋りがムカつく」
『まぁ、魔王国の双璧と呼ばれる存在もんからね、魔剣由来とはいえ読心くらいは防ぐ術はもってるはずもん。何よりバルディーニは魔王国の元帥、戦闘能力よりも軍事面の方が得意分野もん。我が強くて、勝手気まま放題の魔族を軍隊としてまとめて運用出来るのはバルディーニくらいもんよ。もし魔王軍を指揮してるのがバルディーニじゃなかったら、人間側はもっと苦戦せず魔王国に攻め入ってたのは確かもん。あと性格はクソもん』
『得意じゃないってだけで、あの子は貴族級の魔族でも実力で黙らせる程度の強さは持ってるのよ、本人の固有スキルで冥域の炎を召喚出来るのが強みね。地上種の魔法の最上位である断章、神位魔法の下位互換でしかないけど、その断章級の威力や規模を持つ冥域の炎を少ない魔力消費で展開出来るのはあの子くらいなものよ。ただ、そこまで古い魔族じゃないから、古い子たちからは新参の癖に生意気だ、みたいな感じで妬まれてたわね。四大公爵――ソロモンからは特に。あと、あの子ってば苦い野菜嫌いなのよね』
ゴッデス大蝦蟇斎さん、マレッサ、パルカら三人のバルディーニの評価を聞き、どういう人物なのかを改めて伺い知る事が出来た。
それはそれとして、なんで三人とも最後に軽くディスってたんだろう、まぁいいか。
「で、そんな戦いでも軍事でも秀でた力を持ち、喋りがムカついて、性格がクソで、苦い野菜が嫌いな魔王国の双璧の一人であるバルディーニをキレさせたって何したの? デイジー叔父さん」
「あらぁん、あたくし大した事はしてないわよぉん? ちょっと挨拶しただけですものぉん」
「挨拶?」
「そうよぉん、挨拶。ソロモンちゃんを足止めしてる所にバルディーニちゃんがやってきたから、ほらあたくしたちって一応顔見知りじゃない? だから、挨拶しておこうと思ったのよねぇん」
挨拶か、デイジー叔父さんはこれで礼儀正しい人だ、一応敵対関係にある人物だとしても顔見知りなら挨拶くらいしてもおかしくはない。
デイジー叔父さんのただの挨拶でキレたのだとすれば、バルディーニが心の狭い奴だと断言できる。
「お久しぶりーって、鼻は大丈夫って、ちょっとデコピンしちゃってごめんって、もっと加減しておけばよかったわねって、まさかあの程度であんな大変な事になるとは思ってなかったのよーって、こんな感じで挨拶したのよぉん」
なるほどなるほど、デイジー叔父さんはそんな感じで挨拶したのか、そうかそうか、これはあれだね、とても悲しいけれど、どうしようもなく非を認めざるを得ない。
「うん、それは喧嘩を売ってるも同然だね、デイジー叔父さん。バルディーニってたぶん、高慢ちきで鼻持ちならない偏食家で友達少ない感じで色んな人に嫌われてても、実力に見合ったプライドと地位を持っててかなり有能だからその点は魔王とか部下とかに信頼されてそうだけど、それはそれとしてオークカイザーさんの腕を切り落とした大っ嫌いなクソやろうだとしても、それは怒るよ、さすがに」
『ヒイロも大概ひでぇもん。わっちたちはそこまでは言ってないもん』
唐突にマレッサに酷いと言われてしまった、何故だ?
俺はただ、デイジー叔父さんの挨拶に少しばかり非があったかもしれないと伝えただけなのに。
「ヒイロ君はそういう所あるわよね。ナチュラルディスリストだわ、この外道め。そして私は二十九歳」
「なんなんですかナチュラルディスリストって……。あと今は口にも心にも出してなかったでしょ年齢の事は」
ゴッデス大蝦蟇斎さんもマレッサと同じように俺を非難し始める、何故だ?
しかし、なんだろう、どんどん話が逸れていっている気がする。
閑話休題、そろそろ本題に戻らねば、恐らく事態は今も動いているのだから。
「ゲフン、とりあえずデイジー叔父さんの挨拶でキレたバルディーニが暴れて、ここら一帯が炎の海になってるって事でいいんだよな? 一応聞くけど、バルディーニはソロモンを助けに来たとかじゃあないのか、同じ魔王軍の仲間なんだろ?」
俺の言葉にパルカが首を横に振って否定する。
『それはあり得ないわね。通常の四大公爵の状態ならいざ知らず、激しく消耗した状態で魔王ソロモンに戻ったあの子は常に飢餓状態よ、助けるなんてのは不可能ね、逆に襲ってくるわよ。たぶん、デイジーたちが足止めして、ソロモンの進行方向が魔王軍に向かうんじゃないかって心配で偵察に来たんじゃないかしら。一応、隠匿の魔法で隠れてたし、デイジーちゃんが速攻で見破ってたけど』
「でも、バルディーニは元帥なんだろ? 魔王軍のかなり偉い立場の奴が偵察の為に自ら最前線に来たりするのか?」
『それこそデイジーちゃんが原因じゃない? 話を聞く限り結構な因縁あるみたいだし。ソロモンの足止めをしてるのがデイジーちゃんだと知って、自ら出て来たんだと思うけれど?』
パルカはそう言うが、俺は少々腑に落ちなかった。
バルディーニとの因縁は確かにあるが、デイジー叔父さんにそこまで執着するような事だっただろうか。
「そうかなぁ? バルディーニとデイジー叔父さんの因縁なんて、バルディーニが俺を逃がそうとしてくれたオークカイザーさんの腕を切り落とすだけに飽き足らず殺そうとしたから、俺がデイジー叔父さんに助けを求めて、バルディーニの冥域の炎とか軽く消し飛ばして顔面にデコピンして顔がちょっとエリクサーをじゃぶじゃぶ使う程度になるくらい吹っ飛ばした事くらいしかないのに」
「完璧それだわ。恨み骨髄でしょそれ。軽く自分を殺しかけた相手が戦場に居て、味方と戦ってるんだから気にならない訳ないって。ていうかエリクサー使うとかどんなレベルよ、あれ確かとんでもない回復薬でしょ、私だって持ってないわよ」
バルディーニとの因縁の一件を軽く説明したら何故かゴッデス大蝦蟇斎さんが呆れた顔で俺を見ていた。
そこまで恨まれる事だったとは思いもよらなかったが、どうやら元帥という立場の者が前線に自ら出てきてもおかしくはない程度の事だったらしい。
それはそれとして、エリクサーってそんなに貴重な物だったのか。
たしかあの時は一個貰ったけどオークカイザーさんに使ってくれと部下っぽい人に渡したんだっけ。
「あの時はバルディーニちゃんが緋色ちゃんを殺そうとしてたからねぇん、ちょっとしか手加減出来なかったのよぉん。悪い事したとはちょっとしか思ってないけど、やっぱり謝った方がいいかしらぁん?」
あんなクソ野郎でも謝ろうとするなんてデイジー叔父さんはなんて礼儀正しいんだろうか。
そうだ炎を使う奴だし、ジャヌーラカベッサで買った家畜の糞で出来た着火剤が残ってたはずだ、それをお詫びとして渡してもいいかもしれない。
『まーた、何か変な事考えてるもんね……』
「実際変な事考えてるわよヒイロ君。それやったら絶対またキレるからやめときなさいね」
マレッサとゴッデス大蝦蟇斎さんが更に呆れた様子で俺を見ていた、何故だ?
俺が困惑していると、不意に水滴が目に入った。
何事かと思い、目をぬぐって周囲を見回すとどんよりとした黒雲が空を覆っているのに気付いた。
周囲からポツポツと雨音が響き、それは瞬く間に豪雨に代わり、風と雷を伴う嵐へと変貌した。
この天気の変わりようは自然な物ではない、俺の目に映る光景がそれを物語っていた。
雷が地上から空へと昇り、竜巻と岩が舞い、この豪雨の中で炎がより燃え盛っている、この天気の乱れの中心はあそこだ。
そこは二つに分かれたソロモンの肉の山がある方角、その中央、ソロモンの魂核が残っているはずの場所だった。




