283・焦ってると余裕がなくなるよねって話
スサの攻撃とソロモンの魂核の激突で生じた衝撃によってスサとキュイジーヌはものすごい勢いで弾き飛ばされ、一瞬で俺の目の前を通り過ぎていった。
「ナルカ、二人を!!」
「任せてー!!」
とっさにナルカに声をかけると、ナルカは黒い触手を素早く伸ばして弾き飛ばされたスサとキュイジーヌを掴み、一気にこちらへと引き寄せた。
怪我らしい怪我はなかったが、間近で衝撃にさらされたせいか二人は気を失っているようだった。
二人の無事を確認後、視線をオークカイザーさんに向けるとさっきの衝撃の影響か、オークカイザーさんを貫いていた肉の触手の一部が引きちぎれ、オークカイザーさんが自由になっているのが見えた。
スサのソロモンの魂核への一撃が効いているのか、肉の触手の動きは止まっている、今がチャンスだ。
「ナルカ、今なら肉の触手も止まってる、オークカイザーさんもこっちに頼む」
「わかったー、でっかい人も掴まえるー!!」
ナルカは新たな黒い触手を伸ばしてオークカイザーさんの巨体に巻き付けて、スサたちと同じようにこちらに引き寄せた。
オークカイザーさんはぐったりしていて意識がなく、その体にはまだ肉の触手の一部が刺さったままで出血も酷かった、このままでは――。
俺が最悪の事態を想像した時、唐突にオークカイザーさんの身体が淡い光に包まれた。
突然の出来事に何が起きたのかと困惑していると、疲れた様子のマレッサの声が聞こえてきた。
『はぁ、なんか前にもこいつに回復魔法かけた覚えがあるもんねぇ。フィーニス、わっちは火の魔法は使えないもんから代わりにその肉の触手を焼いてくれもん、その後は傷口も焼いて止血しとくもん。わっちが回復魔法かけてるから、死ぬ事はないもん』
「え、身体を焼くの!? それ凄く痛くない? ねぇ、ザコお兄さん、ホントに焼いて大丈夫なの?」
傷口を焼く、という言葉に困惑と嫌そうな表情を浮かべ、何度も大丈夫か確認するフィーニス、マレッサが言うなら大丈夫だろうと俺は頷く。
若干戸惑いながらもフィーニスはオークカイザーさんの身体に残る肉の触手を焼き払い、そのまま傷口も焼いて塞ぐ、肉の焼ける音と臭いを嗅いだせいかフィーニスが顔をしかめて、オークカイザーさんから少し距離を取る。
「ぐぅッ!?」
傷口を焼かれた痛みでオークカイザーさんが意識を取り戻し、うめき声を上げる。
「オークカイザーさん、大丈夫ですか!! 今、傷口を焼いて止血してます、申し訳ないけど我慢してください!!」
「……う、その……声は……ヒイロか?」
「話は後で、マレッサが回復魔法をかけて応急処置をしてくれてます、すぐにでも安全な場所に移動をします」
「また、助けられてしまったな……」
オークカイザーさんの声は弱々しかったが意識ははっきりとしている、だが油断は出来ない、すぐにでも骨御殿に戻らなくては、そう思い腕輪になってスサの腕に巻き付いているコンパクトになった骨従者に声をかけようとした時、凄まじい轟音と共に周囲の空間全体が激しく揺れ動き始めた。
「な、何が!?」
『ヒイロ、ちょっとヤバいかもしれないもん、ソロモンの体内をぶち抜きながら何かがこっちに来てる感じがするもん、しかも二つ!!』
「何かが来てるって、一体何が!?」
『そこまでは分からないもん、ソロモンの魔力の影響で正確な所は把握しきれないもん!! ただ、さっきのスサの攻撃でソロモンの魂核を守る防衛機構が動いた可能性があるもん、どっちも今までの肉の触手や肉の人形なんか比じゃないとんでもない魔力規模もん、急いで逃げた方がいいもん!!』
マレッサがここまで慌てて言うのだから、ここに迫っている二つの魔力はとんでもない存在で間違いない。
フィーニスとナルカなら対応は可能かもしれないが、気を失ってるスサとキュイジーヌ、大怪我をしているオークカイザーさん、それにかなり疲弊してるマレッサやただの人間の俺を守りながらになるとかなり厳しい事になるだろう。
やはりマレッサの言う通り逃げの一手だ、スサの手に巻き付いている骨従者を通じて骨御殿への道案内をしてもらわないと、そう思っていると腕輪からスカルの声が聞こえてきた。
『ヒイロ君、聞こえているかえ? 悪いが時間切れだえ、我々は行動を開始する。そのジョゼフィアンヌを通じてある程度はそちらの状況は把握しているえ。そこの無鉄砲小娘と魔族は置いて君たちだけでも逃げるえ。魔族は言うに及ばず、無鉄砲小娘は腐ってもドラゴンナインの一人、戦場で気を失うという事の意味くらいは理解しているはずだえ、君は君の命を優先したまえ。では、お互い生き残っていたなら、また会おう』
「は? ちょ、ちょっと待っ――」
こちらの返答を待たず、スカルは話を切り上げてしまった。
しかも、腕輪状の骨従者が塵となって崩れ去った、もう役目は終えたとばかりに。
「くそっ、一方的過ぎるだろ!! いや、でも、俺が後先考えずに勝手に飛び出したのが始まりだ、何か文句を言える立場じゃない、――いやそんな事を考える時間が惜しい、なんとかしないと!!」
焦る気持ちとは裏腹に地響きと轟音がどんどん強く、近くなってきている。
今ここで外と連絡を取り、デイジー叔父さんに脱出の為の大穴を開けてもらう事は可能だ、だが、それをすればスカルたちやセヴェリーノとそのお兄さんが巻き添えを食らう可能性が高い、それはダメだ。
ここから離れて、なんとしてでもスカルたちやセヴェリーノと合流して、みんなで脱出するんだ。
スカルたちに半ば見捨てられたような状態に陥り、俺は余裕を無くし焦っていた、そんな俺にオークカイザーさんが優し気な声で話しかけてきた。
「……ヒイロ、わたくしやキュイジーヌ殿は置いてゆけ。先程の声の主が言った通り、魔族を助けても何の益もない。わたくしとお前たちは敵同士、情けなど無用だ。優先すべきは己の命だ、それを間違えるなヒイロ、我が友よ」
「――俺が助けたいから助けるんだ、魔族とか敵とかどうでもいい!! 生きてるなら、助けられるなら、みんな助けたいんだよ、俺はッ!!」
オークカイザーさんの言葉についカッとなって語気が荒くなってしまった。
ここまで来て、そんな事が出来る訳がないじゃないか、俺を友と呼んでくれる人を見捨てるだなんて。




