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28・男の子だから期待はしちゃうよねって話

朝日の眩しさに目が覚めた。

ベッドから体を起こし、グッと腕を伸ばして伸びをする。

寝起きでボーっとしている頭に抗いがたい二度寝の誘惑が襲ってくる。

薄っぺらい毛布をかぶりなおそうと手を伸ばすと、ムニュっと何か柔らかい物を掴んだ感覚があった。

なんだろうと、思っていると変な声が聞こえた。


『ん……』


妙に色っぽいマレッサの声。

思考が急に覚醒し、昨夜の事を思い出していく。

昨夜、デイジー叔父さんに寝るように言われた後、マレッサとパルカに声をかけ続けなんとか宿に戻り、ベッドに横になった俺を挟むようになぜかマレッサとパルカもベッドに入ってきたのだ。

服を思いっきり掴まれ逃げ出す事も出来ず、だからと言って寝るどころでもなく、声をかけても二人とも反応してくれないので悶々とした時間を過ごす羽目になったのを思い出した。

目をつぶり全力で眠る為に高速で羊の数を数え、八千匹辺りまで数えた所から記憶がないのでそのくらいで眠る事が出きたのだろう。

それはそれとして、この柔らかい感触、その正体を恐る恐る確認する。

毛玉だった。


「毛玉じゃねぇーーか!!」


つい大声をあげてしまった。

その声で目を覚ましたのか、三つ目の烏が羽で器用に目をこすり、腕の生えた毛玉が伸びをする。


『うるさい人間、朝から私様の安眠を妨げないでもらえる?』


『どうしたもん、どうしたもん、朝っぱらからそんな大声だして、何かあったも――』


毛玉姿に戻っているマレッサが自分を掴む俺の手に気づく。


『うひゃ―――!! ヒイロ、お前、昨日の今日で本性を現しすぎもん!! 本来の姿よりこっちの方が良かったって言っていきなりこれとか、さすがにドン引きもんよ!! 何考えてるもん!! パルカもいるのに節操なさすぎもん!!』


『うわぁ……異世界人こわ』


腕の生えた毛玉と三つ目の烏が俺を責めたてる。

確かにちょっと期待したけど、これはないぜ神様……。

あ、この二人も神様だった。

ともかく、謂れのない責め苦を甘んじて受け続けるほど俺は変態ではない。


「寝ぼけていただけだマレッサ、これは事故だ、決してわざとじゃあ断じてない!! 信じてくれ!! お願いします、ホント勘弁して、毛玉に欲情とかマジないから、お願いします、ごめんなさい!!」


ベッドから飛び降りつつ鮮やかな土下座をかます。

と、同時に部屋のドアが勢いよく開け放たれ、デイジー叔父さんがバレリーナもかくやという華麗な高速スピンをしつつ部屋になだれ込んできた。

そして、右のつま先だけで立ち、左足を後方にまっすぐ伸ばして見事なアラベスクを決めて満面の笑顔で叫んだ。


「ぐっどもぉおおおおにぃいいいんッッ!! みんなのスィートキューティーエンジェル・デイジーちゃんよぉん!! お目覚めいかがかしらぁん!! ――あらん、どうしたの緋色ちゃん土下座なんかして?」


デイジー叔父さん、なんてタイミングで帰ってくるんだ!!

これじゃあ、ベッドで寝ていたマレッサとパルカに何かやらかした俺が土下座してるようにしか見えないじゃないか!!

俺は無実だ!!


「違うんだデイジー叔父さん!! これには訳が――」


『デイジー!! ヒイロが寝ているのをいい事にわっちの体をまさぐってきたもん!! 』


「完全否定できない部分があるけど、なんか誤解しか与えない言い方はやめてくれ!!」


ワーワーと騒ぐ俺とマレッサ、その様子を引き気味に見ているパルカ、そんな俺たちを見てデイジー叔父さんは指先を頬にあて、小首をかしげていた。

中々騒ぎが収まらないのを見かねたデイジー叔父さんがとりあえず朝ごはんにしましょうと提案してくれたので、みんなで食堂に移動する事になった。

美味しい食事でも食べれば、マレッサも落ち着いて話を聞いてくれるだろう、との淡い期待を持ちながら食堂のドアを開けると、すでに朝食食べている人物が一人、それは全身傷だらけであちこちに包帯を巻いたセヴェリーノだった。

こちらに気づいたセヴェリーノは晴れやかな笑顔で迎えてくれた。


「やぁ、おはようデイジー、ヒイロ」


「おはよう、セヴェリーノ」


「おはようセヴェリーノちゃん、昨夜はなかなか楽しかったわぁん。熱くて痺れる素敵な夜だったわよぉん」


「あっはっはっはっ、おいらのわがままに付き合ってもらったようなもんさ。楽しんでもらえたなら何よりだぞ。あと、マレッサ様とパルカ様にも迷惑をかけた、悪かったと思ってる」


セヴェリーノが俺の頭上に浮かんでいるマレッサとパルカを見てそう言った。

そこで気づいたのだが、セヴェリーノはデイジー叔父さんと戦うまで右目につけていた眼帯をしていなかった。

その右の瞳の中に電流が走っているのが見える。


『なに、この子、私様の眼帯無しで右目の異神を抑えて……いや同化してる? 右目だけ神になってるじゃない』


『その影響でわっちたちの姿が見えてるみたいもんね。人間と神が一部分とは言え同化するとかどうなってるもん?』


マレッサとパルカの姿だけじゃなくて言葉も聞こえるようでセヴェリーノは朝食がてら昨夜の顛末を教えてくれた。


「そうだな、まずおいらとデイジーはマレッサ様とパルカ様が張った結界に気づいたんだ。なんというかいつもと違う場所に飛ばされた感じだったな。だから、気兼ねなく戦えると思って、おいらはこの右目の雷神の力を出せるだけだした訳だ」


「えぇ、とってもスパークしてたわぁん。速いし鋭いし眩しいし、素敵な煌めきでキュンキュンきちゃったわぁん。あたくしったらとってもときめいちゃって、本気で肌と肌とのぶつかり合いを目一杯楽しんじゃったのよぉん」


「あっはっはっはっ、本気、か。途中で抜け出してヒイロたちの所に行ってたくせにかい?」


「あらやだぁん、見てたのねぇん。ごめんなさぁい、緋色ちゃんの近くに見慣れない女の子がいたから、つい気になっちゃったのよぉん」


「ま、いいさ。それでもおいらはデイジーに敵わなかったんだ。全力も全力、右目の雷神も途中から面白がっておいらに力をバンバン力を授けてくれたってのに、この有様だ。まぁ、おかげで力を出し尽くして休眠状態になった雷神が楽しませてくれた礼だって言ってこの雷の神眼をくれた訳なんだが。その影響でマレッサ様やパルカ様の姿が見えるし、声も聞こえるみたいだ」


どうやら、デイジー叔父さんとセヴェリーノの戦いはやはりというかなんというか、デイジー叔父さんの勝利で終わっていたようだ。

なんと明け方近くまで戦いあっていたとか。

戦いの影響は多少通常空間にも出ており、リベルタ―の街で大きな地震が起きたと騒ぎになっていたらしい。

戦い終わって、宿に戻るか、となった折りに邪魔だったからという理由でマレッサとパルカの使った神位魔法アイオーンメガリフィラキを粉々に粉砕してきたそうだ。

神すら封じる異次元の檻を、雷神の化身と言っても過言ではない状態のセヴェリーノと数時間にも渡って戦った後で。

それを聞いてマレッサとパルカはアイオーンメガリフィラキが確かに消え去っている事を確認した後、口をそろえて


『『異世界人こわ』』


と漏らしていた。

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