266・状況把握は大事って話
「相手の心を読む事で先手を打てるようになるのよ、アドが取れるでしょアドが!! だから、そういう魔剣を作った訳よ。今の私は一定距離内の存在の心がある程度に読めるようになってるの。なので、私をエッチな目で見たら速攻分かるから気を付けなさい!!」
「何言ってんだこの人」
(何言ってんだこの人)
「クソ、建前と本音が一致してやがる!!」
どうやらゴッデス大蝦蟇斎さんは本当に俺の心を読んでいるらしい。
この人って本当にチートだなとしみじみと思っていると、パルカの声が耳に入った。
『遊んでる場合じゃないわ、まだまだ来るわよ。立ち止まってないで動きなさい、一か所に留まってると囲まれて取り込まれるわよ』
パルカの声で周囲に目をやると、先程ゴッデス大蝦蟇斎さんが吹き飛ばしたソロモンの巨大な触腕とは別の触腕が幾つも迫ってきているのが分かった。
「そうねぇん、いつまでも同じ場所に留まっていてもいい事はなさそうだわぁん。ちょっと移動しながらおしゃべりしましょ」
そう言うと、デイジー叔父さんは俺をひょいと小脇に抱えて凄まじい走りだし、ゴッデス大蝦蟇斎さんも後に続いた。
『なんにしても一旦体勢を立て直した方がいいんじゃないかもん? デイジー一人でどうとでもなるだろうもんけど、ソロモンをどうにかして収まる事態ではないもん。少しでも体力の温存はしておくべきもん。まぁデイジーならそれすら必要ないかもしれないもんけど』
「おいおい、マレッサ。デイジー叔父さんをなんだと思ってるんだ。真っ当な人間なんだぞ。それにデイジーディメンション(冷暖房完備、三食昼寝付きで敷金礼金無料)に勇者兵たちを招いてるから、か弱く(本人談)してるんだぞ、無理はさせられない」
『本気でそれを言ってるなら今自分が言った言葉を反芻しろもん、真っ当な人間は別次元に人間を移動させて快適な生活環境を提供する事なんて出来る訳ねぇだろもん』
やれやれ、なんでこうマレッサをはじめとした色んな人たちはデイジー叔父さんの事を人外魔境の怪異か何かと思っているのだろうか、まったくデイジー叔父さんを一体何だと思っているのやら。
「ともかく、一旦体勢を立て直すってのは賛成だけど、あまり悠長にはしてられないわよ。こいつの心を読もうとして気づいたんだけど、喰われた連中、まだ完全に吸収されたって訳じゃないみたいだから今ならまだ助けられるはずよ」
デイジー叔父さんに追いついて来たゴッデス大蝦蟇斎さんはそう言いつつ、呆れているかのように肩をすくめて、ため息をついた。
「ただまぁ、呑気なのか馬鹿なのか分からないけど、中で殺し合いしてる男たちがいるっぽいのよね。急がないと吸収されるかもしれないってのに、あーあー男ってホント馬鹿よねぇ」
「ゴッデス大蝦蟇斎さんの言う事がホントなら、急いで助けないと!! でも中で殺し合いってなんでまたそんな事を……」
この山のように巨大なソロモンの中でまだ生きてる人がいて、助けられる可能性があるなら助けるべきだろう。
ただ、ソロモンは敵味方関係なく飲み込んでいるとセルバ様が言っていた、恐らく殺し合いをしてるって事は中で魔王軍とマレッサピエー軍が鉢合わせている状況なのかもしれない。
「あぁ、それはきっとアモーレ家の家督争いってやつネ、十一指と傭兵の中にアモーレ家の人間がいたからネ。ソロモンに食われてまでそんな事やってられる余裕がありそうなのは神を身に宿すあの二人くらいなものネ」
セルバ様の言葉を聞き、思案する。
十一指って確かこの世界でもの凄く強い魔法使いグループの事だったよな、マレッサがオラシオが十一指の一員だと自慢してた覚えがある、それとアモーレってどこかで聞いた覚えが……どこだったか?
俺がアモーレという名前について思い出そうとしているとパルカが口を開いた。
『前にも言ったと思うけれど、異神召喚って覚えてる? 異世界の神を召喚する召喚術式。アモーレ家はその異神召喚でこの世界にやってきた神の末裔なのよ。ソロモンの中にいるせいか、気づくのが遅れたけど、あの中にいるのは主神級の神返り、封印を解いてその身を神に明け渡せば私様以上の神格を持つ者よ』
異神召喚の末裔、神返り、パルカ以上の神格、そしてアモーレ、パルカの言葉を聞いてようやく俺は一人の人物に思い至った。
「まさかソロモンの中で殺し合いをしてるのって、リベルタ―で会ったセヴェリーノ!?」
「セヴェリーノって誰?、あちし会った事ないよねー? 姉母様より強いのー?」
俺の口から初めて聞く名前が出て来たのが気になったのか、ナルカがマジックバッグの中から顔を出してきた。
「あぁ、ナルカに会う前、リベルタ―って町で知り合った人なんだ。デイジー叔父さんと数時間戦えるくらいにとっても強いし、とっても親切でいい人なんだ。パルカより強いのはセヴェリーノの中にいる神様って話だったはずだ」
「へぇー、姉母さまより強い神様が体の中にいて、デイジーちゃんと数時間戦える時点で人間やめてるよねー」
「それは違うぞナルカ、デイジー叔父さんもセヴェリーノもちゃんとした立派な人間だよ」
「そうかなぁ?」
俺の言葉に納得がいっていない様子のナルカ、俺の言葉のどこが腑に落ちないのだろうか、謎である。




