265・新たな再会って話
「なんでセルバ様がこんな所にッ!?」
セルバブラッソの元守護神セルバの唐突な登場に俺は大いに驚いた。
守護神という枠から外れてはいるが、変わらずセルバブラッソを守護する存在である彼女が何故ここに居るのだろうか?
まさか、俺たちを手助けに来てくれたとか?
「暇つぶしもとい出稼ぎで魔王軍に雇われて傭兵やってるネ。一応敵同士、仲良くしてほしいネ!! まぁ、ホントはデイジーちゃんと戦う為だし、もっと劇的な再開を演出したかったんだけどネー」
全然違った、しかも暇つぶしで出稼ぎで、本当はデイジー叔父さんと戦う為って……。
というか魔王軍の傭兵で敵だなんて、セルバ様は人類側と、俺たちと本当に敵対するつもりなんだろうか。
「セルバちゃんお久しぶりねぇん、あたくしたちは元気マッスルハッスルよぉん。セルバちゃんも元気そうでなによりだわぁん、仲良く敵対しましょ。あ、この子は最近お友達になった精霊王フィーニスちゃんよぉん」
敵同士と言い放ったセルバに対してデイジー叔父さんは以前と変わらない態度で軽く挨拶をかわす。
そう言えば、デイジー叔父さんは見知った顔がどうのとさっき言っていたが、セルバの事だったのか。
そんな事を考えていると、フィーニスがセルバを不思議そうな表情で見ているのに気付いた。
「アンタ、セルバブラッソの守護神……よね。分神体……じゃない本体、しかも受肉してる? その規模の神体が受肉して、しかも守護してる国から離れて維持出来てるってどんな反則よ。ていうか神は世界崩壊規模の事態じゃないと地上に干渉はしないんじゃないの?」
「キャハ、元だけどネ。よろしく、フィーニス。精霊王でも気になるくらい魅力的な体って訳ネ、そこらへんはまぁちょっとした事情があるんだけど、今はちょっと取り込んでるからその辺はまた後でお話しするネ」
そう言って、セルバが軽く手を上げた次の瞬間、周囲一帯が暗くなった。
何事かと咄嗟に上を向くと、巨大な肉塊が俺たちに向かって落ちてきているのが目に入った。
「ぎゃああああああああッ、なんか肉が落ちて来たぁあああああ!?」
ズドンッと大きな激突音が響く。
咄嗟にしゃがみ込んだ俺だが、何処も痛くはない、ゆっくり目を開けると周囲はまだ暗いままだった、恐る恐る上に目をやると巨大な肉塊が俺たちの頭上数メートルで見えない何かに遮られたかのようにその動きを止めていた。
「しかしまぁ、デイジーちゃんたちが来てくれて助かったネ。コイツ困った事に見境なく周辺の生き物を喰い始めてて困ってたネ。四大公爵の連中、死にかけたら急に合体したネ。ここまで追い込んだ人間も大したものネ、アイツらが先々代魔王ソロモンに戻るくらい消耗させたって事だからネ。星罰隊に十一指にドラゴンナイン、それに勇者、人間側の最高戦力とは言えたった十数人で四大公爵とその軍勢を相手に互角以上に戦ったんだから、驚きネ」
そう言いながらセルバは上げた手の先から凄まじい光を放ち、頭上の肉塊を消し去ってしまった。
「た、助けてくれてありがとうセルバ様、でもセルバ様は魔王軍の傭兵なんでしょ? なんで味方のはずのソロモンに攻撃を? それに俺たちが来てくれて助かったって一体?」
「今言った理由が全てネ。ソロモンに戻った途端、見境なく周辺の生き物を喰い始めた、敵味方の区別なくネ。あいつらの配下だった貴族級とそれ以下の魔族、途中から参戦した魔王軍側の傭兵、それに星罰隊や十一指、ドラゴンナインも何人か喰われたネ。ワタシも喰おうとしてくるものだからネ、腹が立ったんでちょっとボコボコにしようかと思ってた所だったネ。手を貸してもらうネ、デイジー」
こんなとんでもない巨大な存在をボコボコにとセルバは言うが、規模が違い過ぎてちょっとやそっとの力ではどうにも出来ない気がするのだが……それに聖罰隊、十一指、ドラゴンナインはいずれも人類最高峰の実力者たちだとマレッサがいつか言っていた。
そんな凄い人たちですら喰われたって言うのにデイジー叔父さんが助力した程度でどうにか……いやどうにかは出来そうだな。
「そうねぇん、少しは手を貸せるけど、ちょっと事情が変わるかもしれないわぁん。上が少し騒がしいからもしこっちに影響が出てくるようなら、あたくしが対処しないと被害が大きくなっちゃうわぁん」
「上? ……あぁ、そういう事ネ。あれがここに来るなら確かにデイジーちゃんくらいしか対処は難しいネ。その時はよろしく頼むネ、戦争とは関係なく世界が滅びかねないネ、あれは」
デイジー叔父さんの上が騒がしいとの言葉を受けてセルバは青空を見上げて、そう口にした。
俺も見上げてみたが何も見えない、時々何かがチカチカと光っている様ないない様な……、よくは分からないがデイジー叔父さんやセルバ様がこう言っている以上、遥か上空にデイジー叔父さんくらいしか対処出来ない何かがあるのだろう。
『雑談はいいもんけど、移動しながらにするもん。またソロモンの触腕が来てるもんよ』
マレッサの言葉でビルの様に巨大な肉塊が俺たち目がけ凄い勢いで接近しているのに気付いた。
俺は激しく慌てたが、セルバとデイジー叔父さんはいたって冷静だった。
「あぁ、それは気にしなくていいネ。あの子がこっちに気付いたみたいだからネ」
あの子、とセルバは口にしたがあの子とは一体誰の事だろうか?
などと思った瞬間、迫って来る肉塊に細い何かが無数に突き刺さるのが見えた。
「あれは――」
なんだろうと口にする前に肉塊に刺さった細い何かが一瞬光り、突然ドドドドドドッと連続した爆音を轟かせて大爆発を起こし、肉塊を消し飛ばしてしまった。
「あっつッ!?」
迫ってきたとは言え肉塊とはそれなりに離れてはいた、それでも立っていられない程に凄まじい爆発だった。
熱も相当で軽く炙られた気さえする程だった、それに少し焦げ臭い、熱で毛先が少し焦げたのかもしれない。
その時、空中に残る爆煙の中から何かが飛び出し、こちらに向かって来た。
ズンッと地面に着地したそれは苦々しい表情を浮かべ、乱暴に頭をかきむしっていた。
「あーこのクソデカ肉団子、あれだけ喰らわせたのに痛そうなそぶりすらしないなんて、何なのよコイツ、反則でしょこんなの、チートじゃないチート!!」
ぶつくさと文句を言いながら、ペッと口から赤黒い液体を吐き捨てたその人は見知った顔の人物だった。
「ヒイロ君、デイジーちゃん、こいつぶち殺すの手伝ってくれる? デカすぎるせいで私の全力の魔剣でも大したダメージになってないのよね」
左目に眼帯を付け、ボロボロのジャージを着こみ、自身の体を己の勇者特権で魔剣へと変えた三十路の女性、ゴッデス大蝦蟇斎さんだった。
「まだ三十路じゃないから、二十九歳だからッ!!」
「心の声を読むのやめてください」




