263・デイジーマジックと再会って話
『改めて言うのもなんだけど、一応言っておくわ。私様やマレッサは神だから基本的に地上に干渉しない、それは今までも何度か言ったわよね。今回も世界崩壊に繋がるような状況にならない限り、私様たちは手出しは基本しないと思ってちょうだい』
『そうもんね、わっちとしては勇者への多少の手助けは例外的にやるもんけど、それはデイジーとの約束事っていう縛りがあるせいもん。だからこそ、勇者を辞めて野に下った元勇者たちからは分神体を回収してるもん。まぁ、基本的に干渉しないと言いながら、ヒイロと一緒に居たら何故か世界崩壊級の事件にちょくちょく巻き込まれてるからしょっちゅう干渉してる気がするもん……』
『極短期間で世界崩壊級の出来事が重なる方がおかしいのよ。原初の呪いだの精霊王だの世界の修正だの、なんでこんなに関わる事になるのかしらね。そこそこ永く神してるけど正直初めての経験よ』
『世界崩壊規模の出来事なんて数百年から数千年規模でなら一回あるかどうかって所もんけど、ほんの一、二か月足らずの間に何度も世界崩壊の危機に巻き込まれたのはわっち初めてもん。だから下手したら今回も世界崩壊に繋がりそうで正直勘弁してほしいもん』
『そういう事が重なる確率はゼロではないけれど、普通じゃあないわよね。誰かに仕組まれてるんじゃないかと思いたくなる程だわ』
『そう思いたくなる気持ちはわかるもん、でもそんな存在は居ないもんよ。神域の神々の目を以てしても、最近の世界崩壊の事件すべてに関与している者は一部を除いて確認出来なかったもんからね』
『その一部ってのは当然、デイジーちゃんや人間の事よ。勇者召喚されたり無理矢理次元を越えて来た者がこの世界崩壊を仕組むなんて出来るはずないわ。だから、最近の世界崩壊に繋がる出来事は全て偶発的なモノって結論付けるしかないのよね……』
パルカとマレッサの警告とも愚痴とも取れる言葉を俺は黙って聞いていた。
今回も世界崩壊に繋がる気がする、なんてマレッサは不穏な事を言っていたが目の前にそびえたつ肉の壁を見るともう既に世界崩壊しかねないのでは? と思ってしまう。
いや、何この肉の壁、というかもう山か何かか? 大きいとは思っていたが近づくにつれてその巨大さに圧倒されてしまう。
先々代魔王ソロモン、その巨体で都市すら飲み込んだという存在、こんなのをどうにか出来るのか?
「それじゃあ、かるぅくご挨拶しなきゃねぇん。見知った顔もある事だし、ちょっとテンション上げていくわよぉん!!」
俺を背中に背負ったまま、デイジー叔父さんは俺の心配なんかどこ吹く風と言った感じで、ご近所さんへ挨拶に行くみたいな軽い口調で、力強く大地を蹴り音を置き去りにしてソロモンとの距離を一気に縮めた。
世界が糸を引いて細く延びていく、護符のおかげか防御魔法か何かのおかげか何の衝撃も感じる事はなかったが、ほんの一瞬、俺はデイジー叔父さんの見ている世界を垣間見た気がした。
気付けば目と鼻の先にソロモンの肉の壁、そしてその肉の壁にデイジー叔父さんの丸太の様に隆起した右腕から繰り出された拳が叩き込まれる。
無音の世界の中、デイジー叔父さんの拳を中心に衝撃が肉の壁を波打って広がっていく、数瞬遅れて衝撃と音が追いついてきた。
途方無い轟音が響き渡り、衝撃が大地を破壊し肉の壁を大きく歪ませて、山の如き巨体を誇る先々代魔王ソロモンが数メートル程、浮いた。
「これぞ、デイジーマジック!! デイジーストレートよぉん!!」
デイジーストレート、どこらへんがマジックなのかはさておき、これがデイジー叔父さんの言っていた力任せだけではない素敵な魔法か。
見た限り純度百パーセントの力そのもの、パワーイズパワーって感じの一撃だ。
助走をつけて思い切り殴りつけただけの様に見えたが、デイジー叔父さんがマジックというのだ、ならばそうなのだろう。
「凄いや、デイジーマジック!!」
『ヒイロ、ツッコミを放棄するなもん!!』
マレッサに頭を引っ叩かれた、何故だ。
そんな事をしている間に宙に浮いていたソロモンが地面に落下した、たかが数メートルの高さからの落下、だが山の如き巨体であるがゆえの大質量がである、その衝撃と破壊の規模は桁違いだった。
「うわぁあああああ!? デイジー叔父さん、すぐ離れないとソロモンが落下した衝撃でとんでもない事になってるよ!?」
「あらぁん、ちょっと地面がもろかったみたいねぇん。ソロモンちゃんの体重を支えられずに地面にめり込んじゃったわぁん」
地面がもろいとか、めり込んじゃったというレベルじゃあない。
デイジー叔父さんが殴り飛ばしたソロモンが落下した衝撃で、小さな町程度なら今のでいくつかまとめて潰れてしまっていたのではないかという程の広範囲が破壊されてしまっていた。
並みの災害以上の被害が出ている気がする、ただ、デイジー叔父さんのデイジーストレートのおかげでソロモンの進行は止める事が出来ている。
このまま、ソロモンが動き出す前になんとか圧縮なりなんなりして無力化出来ればマレッサピエーにとってかなり有利になるはず。
デイジー叔父さん頼みなのがちょっと心苦しくはあるが、長引かせていい事なんてないと割り切る。
「キャハ、相変わらず派手ネ、デイジーちゃん!!」
突如、聞き覚えのある陽気な声が上空から聞こえてきた。
声の主はズドンッと豪快に着地し、舞い上がった土煙を軽く払って俺たちの前にその姿を露わにする。
その顔はよく知った顔だった。
「デイジーちゃん、ヒイロ、マレッサにパルカにナルカちゃん、元気してたネ? あれ、知らない顔もいるネ、ワタシはセルバっていうネ、よろしくネ!!」
それはセルバブラッソの元守護神にして受肉した偽りの神、神如き者にして神ならざる者、偽神セルバであった。