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256・魔王が強い理由って話

世界がなんらかの強力な力で改変、歪められた時にそれを元に戻そうとする力、ジャヌーラカベッサでの騒動後、デイジー叔父さんは世界の修正というモノをそう解釈していた、引っ張られて伸びた輪ゴムが元に戻ろうとする感じかもしれない。

輪ゴムは引っ張る力が強ければ強い程、その力がなくなったら勢いよく元に戻ろうとする、世界の修正もたぶん改変や歪みが大きければ大きい程、修正の規模が大きくなるんだろう。

ジャヌーラカベッサでデイジー叔父さんが完全には抑え込めなかったような規模の世界の修正はそうそうあるとは思わないが、だからと言って勇者兵が引き起こすかもしれない世界の修正を軽く見る訳にはいかない。


「勇者兵とは勇者特権をこの世界の人間に移植した存在だ、つまりはこの世界が勇者特権という異世界からの異物を取り込んだと言っても過言ではない。そも勇者特権とは異世界から召喚された際に勇者に付与される異質なスキルであり、本来ならこの世界に存在しない物だ。ならばなぜ世界はそんな物を召喚という形で受け入れているのか。そもそも勇者召喚とは勇者石という宝石を触媒にして行われる召喚魔法、ただの宝石の様にしか見えない物に何故そのような力が宿っているのか全くの謎、私の勇者特権ですら詳細を把握できない未知の物質、その事実こそ勇者石なる宝石が実はこの世界の物ではないという証左に他ならない。ならば勇者石はどこから来たのか、この世界の物でないならば当然異世界から来たと考えるのが必定、つまり召喚魔法で召喚したという事。異世界から召喚した物を触媒に更に別の異世界の存在を召喚するというなんとも迂遠な方法を取ったからこそ、強力無比な勇者特権を内包する勇者をこの世界は異物と認識せずに受け入れていると考えられる。だがそれは勇者特権が勇者の内に宿っているからこそだ、勇者特権を摘出し別の者に移植した場合、勇者特権がこの世界にとって崩壊をもたらす可能性を内包する異物だと世界は気づく、ゆえに勇者特権が世界に対して強く作用した時、世界はそれを修正しようとする。ジャヌーラカベッサでそれを体験した君たちにその恐ろしさを改めて語る必要はないだろう。マレッサピエーの勇者兵たちにどのような勇者特権が移植されているのか不明瞭である以上、もし世界の修正が起きた際の被害もまた不明瞭。万が一を考えれば、私たちは敵味方の垣根を越え、禍根を棚上げし世界の為にも相互に協力し、勇者兵が勇者特権を乱用する前に無力化する必要があるのだよ」


なんだか妙に熱がこもった様子で一気に捲し立てるジョウジ、つまりどういう事だ?


「えーっと、勇者兵が勇者特権を乱用する前に無力化って事は、マレッサピエーに攻め込む、敵対するって事になるのか?」


「ありていに言えばそうなる。ヒイロ、君はマレッサピエーの守護神たるマレッサの分神体が付いている、引け目を感じるかもしれないが、なに問題はない。基本的に神は地上のいざこざに手は出さない。これは神域と地上、そして冥域の相互不可侵という不文律から来る物だ。まぁ、中には例外も存在するがね」


問題はない、と言われてもなぁ。

マレッサが守護神をしている国に攻め込むって相互不可侵の不文律があるとは言えマレッサはいい気はしないだろう。

勇者兵はマレッサピエーの切り札って話だし、それを無力化されるのはマレッサピエーとしても困るはずだ、何しろ今は魔王国と戦争中なのだから。

むしろ、マレッサピエーの守護神マレッサと魔王国の守護神パルカがここにいるのだから、なんとか戦争をやめさせる事は出来ないのだろうか。

そう思って、二人にちらりと視線を送る、俺の言わんとしている事を察したのかマレッサとパルカはゆっくりと口を開いた。


『無理もん。神は基本的に地上には干渉しないもん。もしわっちが干渉出来るとしたら、事が世界崩壊の危機に繋がると確信出来た時くらいもん。つまりは勇者兵が戦線に投入されて、勇者特権を使用して世界の修正の兆候が現れた後もん。ジョウジの言葉を真実とするなら、世界の修正の連鎖的発生なんてとんでもない事が起きる可能性も否定しきれないもんけど……それでも干渉は出来ないもん』


『魔王との個人的な繋がりはあるけれど、私様もマレッサと同じ考えよ。つまり今まで私様たちが干渉して力を貸したのは世界崩壊に繋がる出来事ばかりだったと理解なさい人間』


世界崩壊の危機ねぇ、正直デイジー叔父さんがいてくれたおかげでそこまで危機感を持った事はなかったのは事実だ。

しかしマレッサたちが言うのだから、俺たちが関わった出来事は世界が崩壊しかねない物ばかりだったのだろう。


「この通り、神のお墨付きも頂いた。我々がマレッサピエーで勇者兵を無力化する事には何の問題もない。だからといってマレッサピエーの切り札を無力化しておしまい、という訳にもいくまい。切り札を失った状態のマレッサピエーが魔王軍相手に果たしてどれだけ戦えるのか」


ジョウジの言葉に俺は首をかしげる、つい先ほどジョウジは戦況はマレッサピエー側が若干有利と言っていたはず、今の言葉を聞く限りマレッサピエー側は切り札を切らざるを得ない状況になるとでも言いたげだった、どういう事だ?


「戦況はマレッサピエー側が有利なんじゃあないのか? よく知らないけどドラゴンナイン、十一指、星罰隊ってのがいて、それに勇者も参戦してるんだろ? いくら貴族級、だっけ? 凄く強い魔族が居たとしてそう簡単に負けるとは思えないんだけど」


「その通りだヒイロ、冒険者組合、魔法組合、星神教というこの世界において非常に強力な組織が有する最高戦力が揃い、それに負けず劣らず強力な力を持つ勇者という駒もある。更にオラシオの意のままに動く勇者兵、現在のマレッサピエー連合は人類最強と言っても過言ではない。だが、それでもマレッサピエー連合は苦境に立たされるだろう。なぜならば魔王単体で魔王軍全体以上の力を有しているからだ。マレッサピエー連合の戦力が魔王軍を上回っていたとしても魔王一人で全てひっくり返せる程の力をね」


魔王が魔王国の中で一番強い存在だってのは聞いた覚えはあるが、そこまでデタラメな強さを持っているとは思っていなかった、魔王軍と互角でも魔王一人でそれ以上なら確かに切り札を用意するのも頷ける。

そこまで考えて俺は再び首を傾げた。


「いや、魔王一人でそんなに強いなら、なんで最初から魔王は自分で戦わないんだ? 魔王国は人類を滅ぼそうとしている、みたいな話を聞いた気がするんだけど。一人でそれだけ強いならわざわざ軍隊を組織する必要なくないか?」


俺の疑問にパルカが答えてくれた。


『確かに、人間の言う通りそれが出来るなら現魔王であるサタナスはそうしてるでしょうね。でもそれは無理なのよ。リリシュとの戦いで消耗しているという以上の理由が魔王という存在にはあるの』


「その理由って?」


『戦いに回す魔力が足りないのよ。魔王は魔王国に属する者全てに魔力を供給してるから、常に莫大な魔力を消費し続けてるの。燃費が悪いのよね魔王躯体って』


「いや待ってパルカ、なに魔王躯体って。初耳の単語なんだけど?」


『魔王専用の体の事よ。魔王になった者の体は魔王躯体に置換されるの。元が私様の体だった物だから出力は神と同格、それに魔王になった子の力が加算されて、魔王国民の信仰も乗るから相乗効果でより強力な存在になるのよ。ただ守護神としての性質も多少受け継ぐ事になるから魔王国に属する者に加護の代わりに魔力を供給する事になるのだけれど。まぁともかく私様の体は凄いのだわ』


パルカの言葉に少し困惑する、つまりなんだ、魔王の身体は元はパルカの体って事で、神様の体だから信仰によるパワーアップも出来ると?

本人の力と神様の力に信仰の力も合わさってなんか凄く強いって事でいいのか? 

一国の軍隊以上の力を個人が持てるって、神様の体って凄いんだな、よく分からないけど。


「つまりパルカは凄いって事でいいのか?」


『ええ、そうよ』


俺の言葉を受け、エヘンと胸を張るパルカ。

うん、よく分からないがパルカが誇らしげだからいいか。

ふと見上げるとマレッサがわなわなと震えていた、一体どうしたのだろう?


「どうしたんだマレッサ、そんな震えて」


『お、お前……』


俺の言葉が聞こえているのかいないのか、マレッサはわなわな震えつつパルカにゆっくり近づいていく、マレッサの様子を怪訝に思ったのかパルカは軽く小首をかしげている。


『なによ?』


『なによ、じゃないもん!! お前、自分の神体を魔王の体に加工するとか馬鹿じゃないかもん!? どうりで魔王が馬鹿強いはずもん、神の体に換装されてたらそりゃあ生物としての性能が爆上げもん!!』


『う、うるさいわね、大きな声で喚かないでよ!! 仕方ないでしょ、あの神体、稼働年数越えてて動きとか悪くなってたし、今の神体に替えた後の旧型の廃棄方法なんて当時は決まりなんてなかったんだから私様悪くないもん!!』


『もんはわっちの語尾もん!! かわい子ぶって悪くないもんとか言ってんじゃあねぇもんよ!!』


『うっさいわね!! いっつももんもん言ってるアンタに言われたくはないわよ!!』


『わっちのもんは個性もん!! かわい子ぶってる訳じゃあないもん!!』


マレッサとパルカの言い合いが明後日の方向に向かっているが、魔王についてマレッサが怒るくらいにはパルカのやった事はとんでもない事のようだ。

言ってしまえば魔王の強化だもんなぁ、人間の国の守護神をしているマレッサが怒るのも無理はない。

そこでふと思ったのだが、マレッサですら知らなかった魔王の力の秘密をジョウジは知っている風だった、どうやってその情報を手に入れたのだろうか。

恐らく勇者特権のおかげとは思うが推測の域をでない、今更ながらこのジョウジという勇者はなんとも得体が知れない、と俺は少し何とも言えない不安感に襲われた。

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