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254・あまりに胡散臭くはあるけれどって話

「どこにでもいるしがないサラリーマンだ。よしなに」


黒のスーツを着込んだ仮面の男、ジョウジの声からは敵意も殺意も害意もなにも感じなかった。

相変わらずの胡散臭さではあるが、その声色は親戚か何かに話しかけるような、そんな気安さがある。

ジョウジの登場は多少想定はしていたが、それでもこの気安さに呆気に取られてしまう、そんな俺に向かってジョウジは自分が座る前の座席に座るように手で促す。


「ヒイロ、そんなところに居ても時間ばかり浪費するだけでしかない、まずは席に腰かけるといい。デイジーもそう警戒しないでほしい、今回ばかりは緊急事態でね」


ちらりとデイジー叔父さんの顔色をうかがうとデイジー叔父さんはバチーンッと片目を閉じた。

そのウィンクで生じた風圧に少し体を仰け反らせながら、俺はジョウジの向かいの席に座り、俺の隣にデイジー叔父さんが腰かけた。

俺たちが座ったのを確認し、ジョウジはコンコンと後ろの壁をノックした。

その直後、俺たちの乗る竜車が動き始めた。


「で、どういった風の吹き回しなのかしらねぇん、あれだけ次あった時は戦う時みたいな感じだったのに、あれから何日も経ってはいないわよぉん? まさか魔王国とマレッサピエーとの戦争で魔王が出てきた事を緊急事態だなんて言わないわよねぇん?」


「人生は何事もままならない事ばかりという事だよデイジー。魔王国とマレッサピエーの戦争において、魔王サタナスの参戦自体はなんの問題もない。いずれは魔王が自ら先陣に立つ事は予想出来た事だ、多少予想よりも早くはあったが。問題はマレッサピエー側にある」


デイジー叔父さんの質問にジョウジは軽やかな口調で答える、魔王サタナスの参戦というのはかなりの緊急事態だとは思うんだが、確か魔王って魔王国で一番強い奴が名乗るモノだったはずだ。

魔王国で一番強い奴が出て来た事以上の問題がマレッサピエーにあるとはいったいどういう事なのだろうか。


「今現在の戦況はヒイロに憑いているマレッサから多少聞き及んでいるとは思うが、一応簡単に説明しておこう。まず貴族級の魔族についてだ、S級の魔物を遥かに凌駕する力を持った魔族を指す総称であり、魔王国内にて爵位を持つ魔族を指す言葉でもある。そんな貴族級の中で最高位である公爵の位を持つ四体の魔族、魔王国では四大公爵として知られる強力な魔族たちが手勢を率いて先陣を切った、それに対抗してマレッサピエー側はドラゴンナイン、十一指、星罰隊、そして勇者から精鋭を選抜し、迎撃に向かわせた。今現在、交戦中だがマレッサピエー連合が若干優勢といった所か」


『珍しいわね、あの子らが動くだなんて。あぁ、そうかサタナスが動いたんだったわね。ならあの子らも動くはずだわ。魔王が動いたんだもの、魔王の座を狙ってるあの子たちがついて行かないはずないわね』


ジョウジの説明にパルカが少し驚いた様な声をあげる、しかしなんだ、魔王の座を狙っている? なんだか不穏だな。

俺の表情から俺の疑問を察したのかパルカが更に言葉を続けた。


『四大公爵の子たちに限らないのだけれど、力ある魔族は誰だって魔王に、魔王国で一番強い存在で在りたいと本人が望む望まないに関わらず、そういう思いが本能に魂に刻まれてるのよ。そこは守護神である私様の影響が大きいんだけどね。ともかく、サタナスは未だリリシュとの戦いで消耗してる、それでも魔王国では一番強いのよ』


サタナスって人物は会った事はないが、リリシュの方は覚えている。

元魔王の女の子、執事であるルキフさんと俺たちとは別の方法でこの世界にやってきたトシアキさんと一緒に三人でエスピリトゥ大洞窟で出会った訳だが、なんやかんや戦ったり協力したりしたなぁ。

ちゃんとお別れの挨拶出来なかったけど、今は元気でやってるだろうか。


『魔王国で最も強い存在がマレッサピエーとの戦争の最前線に向かった、つまりは戦うつもりって事でしょ。魔王の座を狙う者にとってはリリシュとの戦いで消耗しているサタナスが更に消耗する可能性がわずかでもあるって事、そこを見逃す手はないでしょ。まぁ、本人たちがそれを自覚してるかどうかは別だけれど。本人たちにすれば、ただ単純に魔王であるサタナスにいい所を見せたいだけだったりするかもしれないわね』


しかし魔族には魔王国で一番強い存在になりたいと、本人の思いとは関係なく本能に魂に刻まれている、か。

パルカの言葉なのだからそれは間違いないんだろう、人間でいう食欲とか性欲、睡眠欲みたいなどうしようもない物なのかもしれない。

パルカの話を聞き、ジョウジはフムとは声を漏らす。


「死の神のお言葉である以上、それは魔族にとって逃れえない業なのでしょう。最も強い者に従いながら、自らもまた最も強い者になろうと足掻く、夢に手を伸ばしもがくのは人も魔族も同じであると。それはまた興味深い話ではある。閑話休題、魔族側の話は今は横に置いておくとして、マレッサピエーの問題について話すとしよう」


コホンと小さく咳ばらいをし、ジョウジはパチンと指を鳴らした。

すると、空中に光る球体が現れ、その光の球体の中には半透明の映像が映し出されている。

軽装の兵士が数名ほど映し出されているが、これがマレッサピエーの問題とやらと何か関係があるのだろうか。

ふと横を見ると、デイジー叔父さんが映像に映っている兵士を見て眉をしかめているのに気付いた。


「これに映ってる子たち、なんだか妙ねぇん。この子たち、ほんとに人間なのかしらぁん?」


「さすがデイジー、妨害魔法で精度が低くくなっている遠視の魔法越しであっても、違和感に気付くとは。デイジー、君の言う通り彼らは最早人間とは呼べない存在と成り果てている。その名も勇者兵、死んだ勇者から摘出された勇者特権を移植された実に憐れな人間兵器だ」

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