253・偉い人が直接対応してくれると何かあるのかと疑うよねって話
俺たちの乗っているドラゴンがマレッサピエーのドラゴン便発着場に到着し、横づけされた階段でドラゴンから降りていると慌てた様子で走ってくる小太りの男性が目に入った。
小太りの男は俺たちの目の前で立ち止まり、何かを言いたそうな様子だったがかなり急いで走ってきたせいかゼーハーと肩で息をしており、息が整うまで少し待つ事にした。
見た感じ立派な恰好をしているからそれなりに偉い人なのだろう、しかし、そんな偉い人が俺たちに何か用でもあるのだろうか?
「ゼヒュー、ゼヒュー、デ、デイジー様とヒイロ様でござ、ゼヒュー、ございますね、オェ」
「はい、そうですけど、水飲みます?」
余り運動してなかったんだろう、息切れどころか吐きそうな勢いだ、一旦水を飲んで少し落ち着いてもらおうと俺は小太りの男に水筒を差し出した。
「す、すみません、感謝します」
小太りの男は俺から水筒を受け取るとグイっと水筒を傾け、グビグビと水を飲みプハーっと大きく息を吐いた、いくらか落ち着いたようで懐から細かな刺繍の入ったハンカチで口元を軽くぬぐい、服装を整えて俺たちに頭を下げた。
「お待ちしておりました、デイジー様、ヒイロ様。私には見えませんがマレッサ様……それとパルカ様もおいでと伺っております。私はマレッサピエー宰相オラシオ・エスピナル様直属の部下、サンテ・バンフィーと申します、お見知りおきを」
「はぁ、ご丁寧にどうも」
サンテさんがオラシオの直属の部下って事はマレッサピエーの中ではかなり偉い人なのは間違いないだろう、しかし、そんな偉い人が何で直接俺たちの出迎えみたいな事をしているのだろうか、普通こういう事はもっと下っ端とかがするものじゃあないのか?
『サンテはオラシオの情報収集要員のまとめ役もん、本来なら人の出迎えなんて使い走りする身分じゃあないもんよ。それが直接来たって事は上から、つまりはオラシオから直接わっちたちに伝えるよう厳命でもされたんじゃあないもんかね。サンテの慌てようを見るに十中八九、厄介事だろうもんけど』
俺が軽く小首をかしげているとマレッサが俺の疑問を察したのか、オラシオ直属の部下が直々に出迎えに来たであろう理由を語ってくれた、確かにマレッサの言うようにオラシオから何かしらの命を受けたと言うならお偉いさんが直接出迎えに来てくれたのにも一応納得は出来る。
「しかし、厄介事ねぇ。まぁお偉いさんが直接出迎えに来るなんて普通はあり得ないもんなぁ」
俺の言葉を聞き、何故かサンテさんは少し驚いた顔をしてすぐに背筋をピンと伸ばした。
あれ、なんか変な事言ったか?
「どうやらマレッサ様のお言葉をお聞きになられたご様子。ヒイロ様の言われた通り、本来ならば私はその立場上、人の前に、まして誰かを出迎えるという行動をとる事はあり得ません。今回、オラシオ様直属の情報局局長である私が自ら出向いた理由はオラシオ様からの密命を受けたからに他なりません」
「はぁ、密命」
一国の宰相からの密命、どうしようマレッサの言ったように物凄く厄介事な気がしてならない。
オラシオには会いに行くつもりではあったが、今は魔王国と戦争中で魔王自らが攻めてきているらしい事を考えると召喚された勇者の一人とは言え、戦争に消極的な俺と会ってくれるかは疑問がある。
まぁ、マレッサが居るんだから追い返されたりはしないとは思う、何よりデイジー叔父さんもいるし。
「この場でお話出来る内容ではありませんので、こちらに。竜車を特別に用意しております。マレッサピエー城まで多少お時間かかりますが、その道すがらにお話をいたします」
「あらぁん、助かるわぁん。竜や馬なんかは戦時徴用で持っていかれてるって聞いてたのよねぇん。歩いていく手間が省けたわぁん」
「はい、デイジー様の仰る通り、現在マレッサピエーは他国とのドラゴン便用のドラゴンすら戦争に投入しております。戦闘用ではないドラゴンでは戦いに向きませんので、主に物資や人員の移動に利用しております。この発着場のドラゴンも全て徴用されており、移動用の竜や馬すら一頭もおりません」
サンテさんの言葉に首をかしげる、全て徴用されている、という言葉が本当ならこの発着場には一頭のドラゴンも居ないって事なんだが……俺たちの為にわざわざ一頭だけ残しておいたのだろうか。
「これからある人物とお会いしていただく事になりますが、それに関してオラシオ様から最初にこれだけは伝えておくようにと仰せつかっています、どうか今は敵対はしないでほしい、と」
「敵対はしないでほしい?」
今は敵対しないでほしいって事は、これから会う人物は俺たちと敵対している、もしくは敵対する可能性がある相手って事だよな、まぁそんな相手に心当たりがまったく無い訳でもないが、そんな人物が俺たちと会う理由ってのはなんだろうか。
そんな事を考えながらサンテさんの後に続き、特別な竜車とやらまで移動する。
遠目に見えてきた竜車には小型の竜二頭が簡素な客室に繋がれており、客室の中は黒いカーテンがしまっているせいで見えなかった。
さて、中に乗っているのは誰なのだろうか。
「今一度申し上げますが、どうか今だけは敵対なさらないでいただきたい。相手側も同じく今はアナタ様方と敵対する意思はないと仰っておいでです。ここでひと悶着ありますと、魔王国との戦争にも影響が出かねませんので、どうかお願いいたします」
そう言ってサンテさんは改めて俺たちに頭を下げた。
ここまで言うのだから、この客室の中にいる相手は明確な俺たちの敵って事なのだろう。
「では、中にどうぞ。すぐにマレッサピエー城に向けて出発いたします」
客室の戸を開き、俺たちに中へ入るよう促すサンテさん。
黒いカーテンをくぐり、客室の中に入るとそこには案の定というか、あぁやっぱりといった人物が座っていた。
「やぁヒイロ、デイジー、久しぶりというほど時間は経ってはいないが、元気だったかな? 大罪神を巡り、我らは一応の敵対関係ではあるが、今現在我々の利害は一致している、呉越同舟といこう。あぁ、手間ではあるが、大人としての礼儀として改めて自己紹介をしておこう。勇者同盟、七勇者が一人、ジョウジ・クギョウ、どこにでもいるしがないサラリーマンだ。よしなに」