250・四大公爵の力
魔王国の四大公爵の部下はAランクやSランクの魔物、更に強力な貴族級の魔族で構成されており、その数は数百をこえ並みの国ならば壊滅させる事も難しくない大災害級の戦力である。
だが、その国すら壊滅させ得る戦力である魔物や魔族たちがマレッサピエー連合の精鋭たちの手によって瞬く間に数を減らしていた。
魔族たちも多少の抵抗はしているが勇者、『十一指』、『ドラゴンナイン』、『星罰隊』を相手にまともに戦えている魔族は少なく、それほどまでに人間側の最高戦力はすさまじい物であった、しかし四大公爵たちは次々と撃破されていく部下たちを後方からニタニタと笑いながらただ眺めているだけだった。
「ゲギャギャ、よい、じつによい!! 飛び散る肉片、荒れ狂う魔法、きしむ大地、これぞ戦!! 人間にしてはやるではないか、実に殺し甲斐がある!!」
楽しげに笑いながらフォカロルは背中に生えた猛禽類の羽根を大きく広げる、その様子を見た血まみれの巨馬にまたがる赤服の優男ベリトは手綱を引き、巨馬の向きを戦線へと向けた。
「ヒュポポポ、抜け駆けとはいただけぬ。一人で全て狩り尽くすつもりではあるまいな? あやつらは我ら四大公爵と戦うにあたう賊、なればこそ皆で歓待すべきであろう」
「ヌチョチョチョ、然り然り。独り占めなどされては楽しみがなくなると言う物ヌチョ。玩具は皆で遊んだほうが楽しい物ヌチョよ」
王冠を被った異様に上半身が大きな男サレオスがベリトの巨馬に並ぶように騎乗する昆虫の足を持つ巨大なワニの頭を戦線へと向ける。
「クププププ、奴らはその力を我らに示したプ。褒美に我ら四大公爵が直々にその首を落としてくれようプ。しかし、その前に役立たずな部下どもの掃除をせねばならないプ」
緑の鱗の生えた老人アガレスが手に持つ豪奢な杖をクルリと回し軽く地面を突いた瞬間、マレッサピエー連合の精鋭である勇者や『十一指』、『ドラゴンナイン』、『星罰隊』が四大公爵の部下たちと戦っている場所に地割れが発生し、凄まじい振動と轟音を響かせながら大地が隆起を始めた。
地面から突如として隆起し突き上がってくる鋭く尖った巨大な岩塊の数々がその場で渦巻いていた『十一指』の者たちが放った大規模魔法すら貫き掻き消して、敵味方の区別なく無秩序にその場に居た者全てに襲い掛かる。
咄嗟に対応が出来なかった四大公爵の部下たちが地割れに飲み込まれ奈落の底に落ちて行き、更に隆起した鋭い岩塊に貫かれ骸と化していく、時間にすればそれはほんの数秒足らずの出来事、そのほんの数秒で四大公爵の部下たちはその四大公爵の手により全滅してしまった。
戦場に点在していた森や原っぱは見る影もなく、鋭く尖った巨大な岩塊があちこちで隆起し、まるで剣山のような地形へと変化していた、激変した戦場を見下ろして敵であるマレッサピエーの精鋭たちが無事である事を確認したアガレスはうんうんと満足気に頷く。
「クププ、我らの部下を相手にあれだけ優勢であったのだから、この程度で死ぬ訳はないプ。もしこれで一人でも死んでいたら拍子抜けもいい所だったプ」
「場は整った!! ならば次はルールを定めねばならぬ!! 此度のルールはなんとする!!」
背中の猛禽類の羽根をバサバサと羽ばたかせてフォカロルが大声をあげ、それに呼応するかのようにベリトとサレオスも声を発する。
「ヒュポポ、無論、より多く殺した者が勝者!!」
「早い者勝ち、同時に仕留めた場合は半分で計算するヌチョ」
ベリトとサレオスの言葉にフォカロルは大笑いし、ひと際大きく羽を羽ばたかせ高く飛ぶ。
「ゲギャギャ、つまりはいつも通り!! では狩りを始めるとしよう!!」
ゲラゲラと笑いながら四大公爵が桁違いの魔力をばらまきながら、敵の待つ戦場へと侵攻を開始する。
Sランクの魔物を優に越える存在を指して貴族級と呼称するがその最高位である公爵に位置する彼らは地形を容易く激変させるほどの力を持つ実力者、Sランクの魔物が可愛く見える程の尋常ならざる脅威であり、生半可は戦力がいくら居た所で彼らの前では赤子にも等しい存在でしかない。
人類にとって災害にも比肩する脅威が凄まじい勢いで近づいて来る、しかしそれを前に怖気づく者はこの場には誰一人としていない、各々が武器を強く握りしめ、平時ではその強さ故に決して振るう事が許されなかった己の最大限の力を披露するその瞬間を思い、不敵な笑みを浮かべる。
「ハハハハッ!! ようやくお出ましだ、雑魚ばかりでイライラしっぱなしだったんだ、全力でぶち殺すッッ!!」
「おや? 力は温存する物と言っていた気がするんですが?」
スサの言葉にヨルゴスが軽く笑いながら声をかける、スサはフンと鼻を鳴らしてヨルゴスを軽く睨んだ。
「うるせぇな、力の使い時を見極めろって事だよ!! 目覚めろツムカリ、神剣解放ッ!!」
迫り来る四大公爵を前にスサは刀身から柄まで金属で出来ている剣であるツムカリの切っ先を天に向けて神剣解放と声をあげるとツムカリから凄まじい神気が迸り黄金の剣に姿を変えた、それを離れた場所で見ていたゴッデス大蝦蟇斎が感嘆の声をあげる。
「おお、なんかすっごいカッコイイあれ。神剣ってすごい厨二感ぱないわ。それに他の人たちもなんか、更にギアを上げてるみたいだし、あの突っ込んできてるな四体の魔族ってやっぱり強いのかしらね。ならちょっと真面目に魔剣作った方がいいかしら?」
顎に軽く手を当てて考え込むゴッデス大蝦蟇斎、その姿にようやく真面目に戦う気になったのかとマレッサがホッと胸をなでおろす。
『いやぁ、ようやく勇者としての気概ってやつが生まれたもんか。わっちとしてはもっと早く真面目にしてほしかったもんけど、まぁいいもん。他の奴らは人類の上澄み中の上澄みではあるもんけど、それでも人間の域を越えてはいないもん。お前がサポートに回るか全力であの魔王国四大公爵と戦わないと半分は死ぬと思っていいもん』
「そんなに強いのアレ? 前に戦ったトウテツってのよりは下だと思うんだけど、まぁいいわ。サポートする性分って訳でもないし、マレッサちゃんが言うなら思いっきりやらないとね」
ゴッデス大蝦蟇斎は大きく深呼吸して大きく手を広げて全身から膨大な魔力をまき散らし始める、それは四大公爵の放出する魔力よりも更に濃く、より邪悪であった。
「大盤振る舞い、いくわよぉ」
ゴッデス大蝦蟇斎の体から放出された魔力から数十、数百の魔剣が生み出されていく、それらの魔剣の纏う邪気は普段ゴッデス大蝦蟇斎が生み出している魔剣のそれとは比べ物にならない程に強力であり、一振り一振りが名のある伝説級の武器と遜色のないレベルに達していた。
『ドラゴンナイン』と勇者だけでなく『十一指』と『星罰隊』も四大公爵を迎え撃つべくその力を解放する。
桁違いの力と力の激突が始まろうとしていた。