249・ドラゴンナインの力
「あぁ、なんなんだアイツらはバカスカ考え無しに暴れやがって、いちいち飛んでくる流れ玉が邪魔で仕方ねぇ、敵どもよりもアイツら先にぶち殺した方が戦いやすいまであるんじゃあねぇか!?」
刀身から柄まで金属で出来ている剣を振るい、迫り来る魔族や魔物を切り捨てながら幼い見た目の少女スサが少し離れた位置にいる人物たちを見て悪態をつく、スサの視線の先には爆発する魔剣を無差別にばらまく勇者、大規模魔法を連発する『十一指』、星装具による広範囲攻撃を繰り返す『星罰隊』の姿があった。
一時的とはいえ協力関係にある者同士であるというのに、誰も彼も周囲への配慮など有って無い様な物である。
『ドラゴンナイン』の一員であるスサにとって、周囲から飛んでくる攻撃の余波自体は大した脅威ではないが、気分良く戦えないのは事実でありなんともストレスが溜まる物だった、余りのイライラに味方であるはずの勇者や『十一指』、『星罰隊』の者たちを先に仕留めてしまおうかという考えが脳裏をよぎる程に。
「勇者や『十一指』、『星罰隊』に協調性を求めるのは無茶と言う物ですスサ。勇者は異世界から召喚された一般人、『十一指』は完全実力主義であり入れ替わりの激しい集団、戦場で他人を気遣うというのは期待しない方がいいでしょう、それに仲間内はともかく他者との協調性という点では『星罰隊』は論外と言う他ありません」
がたいの良い壮年の男ヨルゴスがイラつくスサを冷静に諭す、どこも我が強く個性的ですさまじい力を持った者たちが集まった集団である、たいていのことは本人か仲間内だけでなんとかなってしまう以上、外部団体と協力する必要など今までなかったのだ、今更に息を合わせて協力し合うなど出来るはずもない。
「チッ、どいつもこいつも、考え無しのろくでなしばっかりじゃねぇか」
「アナタがそれを言いますか?」
愚痴をこぼすスサに苦笑いしながらヨルゴスが複雑な心境を吐露する、ヨルゴスの言葉に青筋を浮かべてスサが声を荒げる。
「あぁん、何が言いてぇんだヨルゴス!? 少数精鋭での戦闘、被害や損傷を抑える為には最低限の協調性は必要だろうが!! このクソどもをブチ殺して終わる戦いじゃあねぇんだ、まだまだ次が控えてんだぞ!? こんな緒戦で考え無しで力を振るう馬鹿がいるかって話しなんだよ!! 補給が問題ないって言っても限度ってもんがあんだよ、あいつらも奥の手だの本気だの出してねぇだろうが、ほんの数分であの馬鹿どもが使った魔力量を計測してみろ、都市規模の防御結界を何日も維持出来たはずだ!! そんな規模の魔力を無制限に補給できる訳ねぇだろうが!! 節約、節制は長期戦の基礎中の基礎だろうが!!」
「これは驚きです。アナタにそこまで考えがあるとは。だからこそ、その神剣の力を使わずに戦っているのですか?」
「あぁ!? こんなの普通だろうが、馬鹿にしてんのか!? だいたい、この魔族どもがただ突っ込んで来てるのは威力偵察でしかねぇんだよ、こいつらはこっちの実力把握のための捨て駒だよ!! いちいち手の内晒すなんざ馬鹿だろうが!!」
魔族の攻勢を威力偵察と判断したスサは自身の持つ剣の持つ力を一切解放せずに対処していた、この戦いの次を見据えて力を温存して戦うスサを見て、ヨルゴスは感心した様子で微笑みながら襲い来る魔族を細身の剣で細切れに寸断する。
その時、上空から物凄い勢いでスサとヨルゴスの元に何者かが飛来する、その人物はチャイナ服を着た中性的な顔立ちで炎を纏った槍を携え、光る羽の生えたブーツを履いていた。
「スサは攻撃的な割に戦いに関しては冷静沈着だわさ、さすが元王族って事なのだわ」
「それは褒めてんのか馬鹿にしてんのかどっちだナーザ」
「もちろん褒めてるのだわ。同じ『ドラゴンナイン』同士で一緒に戦う機会なんて滅多になかったから、新鮮な気分だわさ」
ナーザはそう言いながらスサの背後に一瞬で移動し、目前まで迫っていた魔族を炎を纏った槍で貫き、一瞬で燃やし尽くした。
「フン、対処は出来た、礼は言わねぇぞ」
「気にしなくていいだわさ」
フンと鼻を鳴らしてスサは迫り来る魔族の群れへと走りだしナーザとヨルゴスがその後に続いた、そんな三人を見てため息を漏らす人影が一つ、四つの目を持つ白い髭面でかなりガッシリとした体型の老人、『ドラゴンナイン』の一人マルドクが呟く。
「あぁ、みなは戦いが好きなのである。マーには理解出来ないのである、戦いとは命の奪い合い、つまりは死につながる事柄、あぁ、マーは死が恐ろしい。命を奪われるのは酷く酷く恐ろしい」
マルドクは目の前で繰り広げられる命の奪い合いに恐怖を覚えつつ、襲い来る魔族や魔法の流れ玉を手に持つ粘土板で殴りつける、分厚く頑丈な粘土板には何やら複雑な文字が刻まれており、魔族や魔法を殴りつける度にその中の文字列の一部が光りを放つ。
「あぁ、戦いは恐ろしいのである。『ドラゴンナイン』で最も弱いマーは降りかかる火の粉を払うのが精いっぱいなのである、早く戦いが終わってほしいのである……」
マルドクは一人呟きながら粘土板の光る文字列を指でスゥっとなぞると、粘土板で殴られた魔族たちの身体に粘土板に刻まれている物と同じ文字が浮かび上がり、そして、その瞬間魔族たちは寿命を迎えて次々と絶命してしまった。
「あぁ、悲しいかな、マーこそがお前たちの死だったのである。戦いなど死を早めるだけで虚しく恐ろしい物なのである……」
そう言って、マルドクは前進を続けるスサ、ヨルゴス、ナーザの元におっかなびっくり歩を進めるのだった。