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246・不穏な影

勇者である凍晴六花の持つ勇者特権『座標転移ワープポイント』は物資や人員の移動には欠かせないスキルであり、マレッサピエーが激化していく魔王国の猛攻を防いでこれたのはひとえに彼女の尽力による所が大きい。

とはいえ、その勇者特権も無制限に使用できる訳ではない、移動できるのは凍晴が直接目にした場所のみ、移動の際は本人も一緒に移動する、移動後は一定の時間経過を待たねば再使用は出来ないという縛りが存在する。

ルシウスが最も近い安全な場所を自身の勇者特権である『導き手』で探り、その場所をリタの勇者特権『ウィズユースマホ』を使い地図アプリ上で確認し、凍晴、ルシウス、リタの三人は安全な場所まで後退、事の成り行きを見守り、勇者組は戦闘を『魔剣創造』の勇者特権を持つゴッデス大蝦蟇斎に一任していた。

『導き手』が示した安全な場所である主戦場から少し離れた林の中、こっそりと戦場の様子を見ながらリタが口を開く。


「確かさ、六花ちゃんの力が回復後に相手の食べ物とか武器とか一杯パクって来てって言われてたよね、あーしのはそういうの沢山動かせないし、でさ、オラ爺ちゃんからはマジヤババな感じになったら六花ちゃんとルシウスせんせの二人だけでも逃がしてほしいって言われてるんだよね、内緒で。どういう状況になったらマジヤババなのかな?」


『リタ、内緒の話をべらべら喋ってどうするもん。そういうのはポロリしちゃダメなやつもんよ普通』


少し離れた場所での戦いを眺めているリタが口にした事に対し、リタのスマホの中に閉じ込められているマレッサがツッコミを入れる。


「ハハ、リタさんらしいですね。オラシオさんの意図は理解しますが共に戦う仲間を置いて自分たちだけ逃げる、それは心情的にはちょっと難しいですね」


リタの言葉にルシウスは困った様に笑ってそう言った。


「わ、わたしもみんなを置いて逃げるなんて言うのは、そ、その嫌、です。しばらく休めばわたしの勇者特権も回復しますから、どうせ逃げるならみんなと一緒がいい、です」


爆発や絶叫、千切れ飛ぶ肉片、大気を震わせる衝撃、いつもは遠くから見るだけであった戦場を間近に感じ、凍晴は自分の手が知らず震えている事に気付く、深呼吸をして手をギュッと握りしめ恐怖を押し殺しながら再び戦場に目を向ける。


「六花ちゃん、顔がすっごいブルーだよ、無理しないでいいからね。あーしはゲームとかでちょっと慣れてるからへーきだけどさ。まぁ、まだリアルって感覚が無いだけかもだけどね」


「リタさん、ありがとうございます。でも、わたし大丈夫です。みんな命がけで戦ってるんです、怖くても、我慢しますから」


凍晴のその言葉が強がりな事はお気楽なリタでも理解できた、もう少し何か気の利いた事でも言えないかとリタが思案し始めたその時、ルシウスが真剣な表情になり、キョロキョロと周囲の様子を探り始めた。


「リタさん、凍晴さん、移動しましょう。新しい安全地帯へのルートを『導き手』が伝えてきました。恐らく、ここもいずれ戦場の余波に飲まれます」


「おけまる!!」


「お、おけまる、です」


凍晴、ルシウス、リタの三人は新たな安全な場所へと移動を始める、その姿を木の陰からのぞく者がいる事に気付かずに。


「クヒ、な、なんだかあの着物の子ちょっと親近感湧くなぁ……。でも、陽キャっぽい子は苦手かも、友達とか多そうだし羨ましい……。男の人は顔の掘りが深いし、こ、好みは分かれる感じかな。あ、足速い、見失っちゃう」


長く伸びた前髪の隙間からジットリとした目線を凍晴たちに向ける小柄な女性は、次の安全地帯へと走り去っていく凍晴たちの後を慌てて追いかけ始めた、その右手の甲には緑の蛇の紋様が刻まれていた。

一方、魔王国四大公爵の配下であるAランクを越える強力な魔族を相手取るマレッサピエー連合の精鋭である『ドラゴンナイン』、『十一指』、『星罰隊』、そして勇者であるゴッデス大蝦蟇斎らは魔族側を圧倒しつつあった。

周辺で戦う仲間たちの様子を眺めつつ、ゴッデス大蝦蟇斎は魔剣を創造しては周囲に手当たり次第に射出し爆撃していた。


「はぁ、やっぱ戦いが本職の人たちって凄いわねぇ。色んな技とか魔法とか使っててカッコイイわ。私もなんか必殺技的なの考えた方がいいのかしら、どう思うマレッサちゃん?」


『お前はもう少し真面目にするもん。ラビリンスの下層に居た魔物たちに比べたらちょっとぬるいとは言え強力な魔族もん、油断するんじゃないもんよ。貴族級は特に気をつけるもん、Sランク以上の実力と固有のスキルを持ってたりするもんから、一筋縄じゃあいかないもん。この貴族級の魔族の存在こそ、数で勝る人類側が魔王国を攻めあぐねていた理由もん。たった一体で都市が壊滅するくらいもん、中型の竜種以上と思っていいもん』


「へぇ、そうなのねぇ。これも貴族級らしいけど、ピンキリなのかしらね」


マレッサの話を片手間に聞きながら、ゴッデス大蝦蟇斎は貴族風の服を着こんだ異形の魔族の胸倉をつかみ上げた状態でメリケンサック型の魔剣が装着された拳で腹部に執拗な殴打を繰り返していた、ズンッ、メギョッと重く生々しい音がする度にピギャとかグェッと言ったうめき声が異形の魔族から漏れ出ている。


『絵面的にちょっと勇者がしていい攻撃方法じゃないもん、もうちょっと勇者って事を念頭に戦うもん!! もう少し、こうキレイに戦うもん。後々にまで語られるかもしれない勇者の戦い方が腹部への執拗な拳とか陰湿過ぎるもん、もっと後世の事も考えるもん!!』


「はーい」


マレッサの説教混じりの言葉に軽く返事をしてゴッデス大蝦蟇斎はピクピクと小さく痙攣する魔族を放り投げて一刀の元に切り捨てた。


「鑑定能力付きの魔剣でちょっとそいつ鑑定したんだけどさー、拷問好きで結構な数の人間殺してたみたいだから、ちょっとだけお返しってやつ? 少しは拷問された人の痛み理解出来てるといいんだけどね。さ、次行ってみよー」


そう言いながら、ゴッデス大蝦蟇斎は魔剣の雨を周囲に撒き散らすのだった。

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